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記事2001年6月13日 15号 (8面) 
ユニーク教育 (94) ―― 早稲田大学高等学院
経済通し社会の仕組みを理解
スチューデント・カンパニー・プログラム


 早稲田大学高等学院(伴一憲院長、東京都練馬区)は実物そっくりの会社を興すという、スチューデント・カンパニー・プログラムに取り組んでいる。このプログラムはわずかな資本金で会社を興し、それを元手に材料の仕入れから商品の製造・販売までを生徒たちが行うもので、経済を通して社会の仕組みを理解させているジュニア・アチーブメント本部(椎名武雄理事長、東京都港区)が提案している。
 「従来の『知識習得』の教育から、問題を自分のものとして考え、究明するなかで知識を豊かにし、問題解決能力を身につける『問題発見型』の教育を目指す」(伴院長)表れといえる。生徒たちは、自分で考え、意思決定し、責任を持って実行するところに、最大の興味を持った。
 同学院ではプログラムを導入して二年目になるが、全校有志の中から参加者(社員)を選考し、最終的には三十四人に決まった。「現実の社会との接点を持ちたい」という生徒たちは、「会社ごっこではなく、実物の会社をつくる」という意気込みを持って取り組んだ。一株百円の株を百株発行し、一万円の資本金で会社を設立した。その会社はベンリーベンダーズとチャックス。
 ベンリーベンダーズは社長以下、副社長四人、生産・販売・人事・財務の各部門の社員十七人からなる。商品は傘袋で、「パラソル・ポケットパラポケ」。この傘袋は防水、撥水性によって衣服がぬれる心配がなく、またひもとボタンが付いているので、腕やベルトなどにも固定できる点が優れている。
 材料は布、ボタン、アクリルテープ、包装用袋、シールなどだ。ミシンの技術を向上させるためにメンバーを固定し、集中して学んだ。営業は足を使ったマーケティング活動を方針とし、商店街での販売や企業訪問などを行い、一袋四百八十円で販売した。結果的には三百六十九個を販売、売り上げは十六万六千八百五十七円だった。
 一方、チャックスはフリース製のマフラー「フリース デ マフラー」の製造と販売を十七人の社員でこなした。風を通さず防寒性に優れていることが特徴だ。原価二百四十四円のマフラーを四百十八本販売し、総売り上げは三十万円を記録した。
 この活動は原則週一回金曜日、放課後二時間を利用して三カ月間行われた。毎週足を運んでくれた有力な支援者、社外取締役の存在は大きい。富士ゼロックスの社員がコンサルタントとして生徒たちの経営相談に乗ってくれたのだ。生徒たちはビジネスの世界の生の話を聞くチャンスを持った。また、支援者のはずの社外取締役自身が、企業が利益を上げる仕組みや企業の全体像が分かってくるところがこのプログラムのよいところの一つである。「企業は株主に利益を還元するために活動を行っているのだと、この活動によって初めて実感した」と感慨深く語る。
 「社外取締役の方が本当に真剣になってくれたことがうれしい」と、本杉秀穂教諭は声を弾ませる。
 生徒がビジネスの世界に興味を抱くようになると、家庭では父親に会社のことを聞くようになった。親子のコミュニケーションが増えてきたことで、父親の存在感も増した。
 生徒たちの活動は必ずしも順調にはいかなかった。年末には士気が下がった。社長は年明けに全体会議を招集した。ここでは会社が目指すものは何か、いまどこが問題なのか、何が足りないのかなど、社長と社員、社員同士が納得のいくまで話し合いが行われた。生徒たちは経済の実態の一端に触れることができた一方で、友達との信頼関係というかけがえのないものを得ることができた。「人間的成長もみられた」(本杉教諭)最も生き生きとした時期となった。社長は「ある社員が話した『販売個数よりも中身が大事ですよ』という言葉に涙が出そうになった」と言う。会社設立という事業を成し遂げたことで、生徒たちは自信を持ったに違いない。



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