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記事2003年2月23日 1881号 (5面) 
日本の将来担う改革型リーダーの育成の東京未来塾意見徴収
税金で青田買い塾設立
都立高と都立大提携、都が仲立ち

植田正三郎氏


青木伸子氏

都立高から都立大入学機関を税金で 都立高生限定に異論、疑問

 東京都は「日本の将来を担う改革型リーダーの育成」を旗印に掲げて、都立高校三年生約五十人に所属高校の授業とは別の特訓を施す「東京未来塾」を開設する構想を明らかにした。しかし、その実態は都立高校から都立大学への推薦入学者を青田買いするための機関を税金でつくるものであることが分かり、問題視されている。
 東京都内に都立大学が四校あるが、平成十七年度にこれを統合して新しい都立大学をつくる計画が東京都庁内の大学管理本部で進められている。東京未来塾はこの新都立大学への塾生の推薦入学を前提として新大学発足に歩調を合わせる形で、都教育庁の指導部が検討を進めている。指導部が教育委員会に提出した報告事項(別表)によると、平成十五年度の予算が承認されれば四月に未来塾の検討委員会を立ち上げ、一年間の検討期間内に指導部と大学管理本部が連携をとりながら未来塾の具体的内容をまとめていく。平成十六年四月から未来塾が発足、そこで一年間の特別講習を受けた三年生は十七年春の卒業とともに新都立大学への第一期生として入学することになる。
 しかし、この計画については異論や疑問が続出している。東京都教育委員会の審議でも「一年間に百日という特別講習の中には平日の午後週二回の授業があるが、これは所属高校の正規授業時間内に食い込むのか」「入塾者の選抜はどうして行うのか」「四月から推薦入学生をとるのは青田買いではないか」「塾に入ったものが食い逃げ的に他の大学に進学した場合にはどうなるのか」「都立高校生しか入れないということも問題だ」などという意見が次々に出された。
 このうち都立高校生限定問題についての答弁は次の通り。


【教育長】都立高校は税金でつくられているわけですね。都立大学も税金ですね。その連携というのは、当然あって然るべきです。当然、私学にしろ、何か言うと思いますよ。でも、それはちょっと違うのではないですか。


 「当然、私学にしろ、何か言うと思う」と予想したうえであえて実施する構えである。もちろん、私学関係者の気持ちは逆なでされた。「私たちも納めた税金を使って、都は何をバカなことをするのか」この怒りは私学人に共通していると思われる。私学に子供を通学させながら税金を都に納めている保護者や、学習塾経営者に話を伺った。


公立は効率が悪い「未来塾」は限られた所、人数で無駄
東京都私立中学校高等学校父母の会中央連合会会長植田正三郎氏

 石原都知事が提唱している「心の東京革命」に東京私立父母の会はかなり積極的に参加し、私も協賛しました。いまのままなら「日本という国はこんないい国だった」と過去形で語られそうな将来しかありません。だから「日本の将来を担う人材を育成する」という東京未来塾のテーマはいいことだと思いましたが、どうもそれは言葉だけで本当のねらいは推薦入学であり、都立高校から五十人と結論が小さい。そんな考え方で本当に人材育成ができるのかと思います。
 教育長は「私学が何か言うと思います」と最初から予測しているわけですが、それでもあえて実施する。税金でつくった都立高校から税金でつくった都立大学へ行かせるのは当たり前だという。昔からある官尊民卑、上意下達という思い上がった考え方が見え隠れする言葉です。他の道府県と違った変なエゴイズムが都にはあるんです。
 私学の親は税金を払って都立高校の運営をして、その上に自分の子の授業料や入学金など格差のある学費も払っている。自助努力の私学では教育理念が確立し、その理念に基づいて校長がやっています。都立の校長は自分が退職するまでの短い任期を無難に過ごせばいいと考えて、理念もなければ理念を実現する権限も持たない。そういう教育委員会が仕切っているから、未来塾がこういう形で出てくるんです。教育に関しては、公立は授業料が安いことだけが取り柄で、それ以外は全部私立がいいということはアンケートから一般都民みんなが知っています。私は「公立は効率が悪い」と言うんです。都議会の議員先生も表立っては言いませんが「もう東京の教育は全部私学に委ねたらいい」と言う方もおります。
 私はやはり競争がないといけないから、私学の他に公立があるのはいいと思います。私学同士の競争も必要でそこから進歩が生まれます。授業料が払えなくなるといった経済的理由で行けないという場合はそれこそ公立が応援すべきです。都立に入る場合にそういう困った人たちがまったく無償というのが公表されるとその生徒さんも肩身の狭い思いをされるから、授業料はちゃんと決めておくが、審査の結果、無償でも教育を受けさせますよというふうにすればいい。そんなことを公表する必要はありません。そういうところに税金をドーッとつぎ込んでほしい。私たち私学に子供を預けている親もそういうことに対しては、一切クレームはつけないと思います。
 都立もなければいけないが、ただ、都立高校の数を激減させてその費用を私立に持ってきて頂ければそれこそ効率いい運営ができるんです。
 細かいことをいえば、都立高校生五十人を教育する未来塾の場は一カ所ですね。そこへくるのに十分以内の子もいれば、授業を中途でやめてきても一時間半かかる子もいる。百日通うとなるとクラブ活動もできるわけがなく、心の寂しい人間ができます。無駄なことです。生かせる人間を殺してしまいかねません。


選ばれた50人がリーダーになれるか疑問 国公立の役割は他にあるはず
東京都内私立高等学校生徒保護者青木 伸子氏

 公立学校の役割は何かを問いかけてみたい。
 なぜ「東京未来塾」なるものに、ほんの限られた子供の進学のために税金を使わなければならないのでしょうか。それも将来必ず都立大学に進み、日本の将来を担う「改革型リーダー」になれるのでしょうか。限られた枠内でそのような教育を受けたリーダーに、私は日本の将来を自信をもって託せるとは思えません。選ばれていく五十人の子供たちの将来は本当に大丈夫なのでしょうか? 今の公立学校の状況を見ると、本当にこの構想がいいのか疑問を感じます。
 エリートを育てることを否定するつもりはありません。たしかに、公費で立派に教育を受け国のために貢献する人もいますでしょう。
 東京都には、離島で学ぶ子供たちがいます。不幸にして体に障害を持ちながらも一生懸命学ぶ子供がいます。登校拒否の子供たちが驚くほどいます。ここにこそ、国公立が果たさなければならない役割があるのではないでしょうか。
 しかし、「東京未来塾」は、都立大学の改革のために、都立高校生の内ほんの一部の選ばれた子供のためにだけ作り、「東京未来塾」には都立高校生以外は、推薦しない。都立大学は一方では開かれた大学を標榜しながら、都立高校に通っていない子供を都民扱いしないのでは矛盾しています。いま入学金に都外生と都内生で差をつけていますが、東京都に在住している者に優遇措置をとるのは分かります。他の部分でハンディキャップをつけるのはおかしいです。この未来塾に入ることを希望するのならば受益者負担にすべきです。

私学への入学希望多いのは努力の結果

 国立大学の東京大学は付属校からの入学に優遇措置など全然とっていません。国民一人ひとり皆同じです。それなら都立大学は都民に対し公平でなければおかしいと思います。よく言われることですが、私立高校にきている人がみんな裕福だなんてことはあり得ません。公立の学校へ行っておられるご家庭にも裕福な方がたくさんおられます。なぜ、私学を希望する人が多いかは、いろんな子供を受け入れ、各々学校の建学の精神に基づき努力を重ねてきた結果です。
 まず、都立大学が魅力ある大学になる努力をすることです。自助努力すべきです。そうすれば私立大学にも負けない、子供たちが競って入学を希望してきます。いろんな個性を持った素晴らしい子供たちのために努力すべきです。


都立とはいえ特定の大学入学前提の塾納得できぬ
税金使うなら私立高生も権利あるはず

日能研代表取締役高木 幹夫氏

 「東京未来塾」の構想を今ざっと拝見しましたが、都立とはいえ特定の大学への入学を前提とした塾を作ることがまずおかしい。無償であればそれも不思議だ。特定の一部の子供だけ特別扱いされるのも不思議だ。そうまでして問題解決型学習やゼミなどをやるのが人材育成のために、本当に重要ならば、高校の「総合的な学習の時間」でそれをやる工夫をする必要がある。五十人の子供たちだけに必要なことがあるとは思えない。ましてその段階で足かせをかけてしまう制度の妥当性とはなんだろうか。税金を使っている正当性でいえば、私立高校生でも都民の子であれば権利がなければいけない。今回の構想を読む限りそのすべての論理に、税金を使う整合性を感じない。
 一連の教育改革の流れをみると、法律を作る側の横暴さを感じる。例えば、新しい教育方法を考えた時、それが私学だと届け出制でも「受け取れない。認めることはできない」と、都は平気で言う。学事課でいろいろ圧力をかけることまでするのに、都がやることになると、勝手にやっても単位認定をする。自分のところだけ棚に上げるような制度なら、最初から教学内容だけでなく大部分を届け出制にしてしまえばよい。
 私学はこれをきっかけに「届け出制に改め、行政指導をゼロにせよ」と要求すれば、それがこの構想の唯一のメリットといえるかもしれない。

「東京未来塾」構想に異論、疑問続出


東京未来塾(仮称)の設置に向けた検討について

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