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全私学新聞

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記事2003年5月23日 1889号 (3面) 
総合規制改革会議の議論に対する意見 全私学連合
公教育担う私学が見解表明
教育的配慮皆無に等しい

【I、はじめに】

 去る二月十七日に行われた経済財政諮問会議において、宮内義彦総合規制改革会議長より「規制改革を加速的に推進する『十二の重点検討事項』」が提出され、現在、総合規制改革会議において、この「重点検討事項」についての論議が行われているものと承知している。
 この「重点検討事項」の中には教育関連事項として「株式会社、NPO等による学校経営の解禁」と「大学・学部・学科の設置等の自由化」が盛り込まれている。
 会議においては、これらについて経済的な観点からのみ議論され、教育的な観点は全く考慮されず、特にそこで学ぶ学生・生徒・児童・園児等の立場について配慮するどころか自己責任と称して学生・生徒・児童・園児あるいはその保護者等に全ての不利益・損害を甘受させるという全くの暴論である。
 教育には、人格の完成を目指し、個人の能力を伸長し、自立した人間を育てるという使命と、国家や社会の形成者たる国民を育成するという使命がある。
 これを他のサービスと全く同一に論じ、消費者の選択に任せ、問題があっても自己責任で対処すれば良いという考え方は、我が国の将来を誤らせるものと言わざるを得ない。
 このような状況にかんがみ、公教育の一翼を担う私立学校関係者の代表として、全私学連合よりこれらに対する見解を表明したい。

管理運営は学校法人にのみ
公共性、継続性・安定性、質の確保


【II、株式会社やNPO法人等による学校経営の全国的な解禁】

「学校」というものは、人材育成という重要な責務をもつ、極めて公共性の高いものであるため、国や地方公共団体がその責任において学校を設置している国家がほとんどである。
 我が国においては、国や地方公共団体以外に「民間事業者」である学校法人が設置主体として認められており、建学の精神に基づく特色ある教育や研究を行い、教育研究制度において大きな役割を果たしてきた。
 在学者の比率でも、大学では八割、高等学校で三割、幼稚園では八割を私学が占めるなど世界的にも例を見ないほどの発展を遂げており、我が国の学校教育の質・量両面にわたる充実にとって重要な役割を果たしてきている。
 我が国において、学校教育の公共性を保つことができ、かつ学校教育が大きな成果をおさめてきたのは、学校を設置することのできる民間事業者を、学校法人のみに限定したからに他ならない。
 学校法人制度は、営利を目的としたり、又は他の事業を行うことを前提としていない「学校の設置」のみを目的とする法人であって、学校の管理運営のために必要な組織体制を備えている。
 このような法人に限って学校の設置を認めたことにより、学校の公共性、継続性・安定性が確保されるとともに、教育の質が確保されてきたのである。
 責任ある主体がしっかりと教育に取り組むことが重要であり、誰でも自由に学校を作るようになれば、国家の混乱と衰退を招くもとになる。
 したがって、これらの要件を満たさない学校法人以外の者に、子供たちの教育というやり直しのきかない重要な役割を担わせることは、極めて慎重に検討すべき事柄であり、自己責任の名の下に拙速に全国化することは到底認められるものではない。

株式会社やNPO法人の学校に
私学助成は本末転倒


【III、株式会社やNPO法人の設置する学校への私学助成】

 会議では、学校を設置する株式会社やNPO法人に対し、学校法人と同様に私学助成を行うべきであるという意見も述べている。
 しかし、私学助成を受けるためには、憲法第八十九条に定める「公の支配」に属している必要があり、このための必要な規制を受けた法人形態が学校法人制度である。
 学校法人への財産の拠出者は、拠出財産から利益を求めることはできないし、拠出財産を回収することもできない。いわゆる利益は学校法人に蓄積され、すべて教育研究の用に供するだけである。学校法人が解散の事態に立ち至っても、残った財産は、他の学校法人等にわたるか、国や地方公共団体に帰属することになっており、私学に対する公的支援が認められるのも、それらが私的利益につながらないこのようなシステムが確立しているからである。
 株式会社やNPO法人であっても学校法人を設立して学校を設置することが可能であるにもかかわらず、必要な規制を受けたくないがために株式会社やNPO法人のまま学校を設置することを選択した者に対し、私学助成を行うことは本末転倒であり、また憲法違反に他ならない。
 また、学校法人は学校の設置のみを目的としており、営利法人に対して公金を支出することなどは、血税を納めている国民からも納得の得られるものではない。さらに、会議においては、株式会社やNPO法人に対する私学助成を合憲とするため、憲法第八十九条後段で公の支配に属さない教育事業への公金の支出を禁じている趣旨は、政教分離を目的としているという少数派の見解を採用し、現在行われている宗教系の学校に対する私学助成こそが違憲の疑いがあると主張するなど、偏った議論が行われていると断ぜざるを得ない。

事前規制の撤廃は危険
バランス取れた規制改革を


【IV、大学・学部・学科の設置等の自由化】

 学校は、「公の性質」を持つ公共性の高いものである。これについて、事前チェックを全く行うことなく学校として認めることは、学校の「質」や「公共性」を担保することができないため、社会の学校への評価・信頼は著しく低下しかねない。
 会議においては、自由に設置させたとしても市場原理により優れた大学のみが残るため全体としての質が上がると主張するが、学校は在学する学生・生徒等の人格の形成を担う機関であり、淘汰される大学に通っていた学生の人生を考えれば、完全に事前規制を無くすことは不適切であると言わざるを得ない。
 設置規制の緩和自体は基本的には学校経営者にとってメリットはあるのであるが、事前規制を撤廃することは、国による事後の継続的規制が強化される危険性があるのみならず、設置主体による規制(限定)不要論にもつながりかねない。
 事後チェックシステムが構築されているというアメリカですら、大学設置を完全に自由化しているとは聞いていない。
 昨年、学校教育法が改正され、今年の四月から届出事項を増やす一方で、平成十六年度からは第三者評価制度を導入し、事後チェックシステムを整えるなどの規制の見直しが行われている。ただ闇雲に規制を撤廃するのではなく、教育の質を向上させるためのバランスの取れた規制改革を推進すべきである。

不適格な学校に血税は使えない
検討事項から撤回を


【V、まとめ】

 上記の「学校設置主体の自由化」、「学校法人以外に対する私学助成」、「大学等の設置認可の廃止」は、それぞれ別個のものではなく、教育を単なる一サービスとしてとらえ、全くの市場原理に委ねるという一つ考え方に基づき一体として進めようとしているものであり、我が国の将来にとって極めて危険な考え方と言わざるを得ない。
 会議のこのような考え方が実現すれば、株式会社やNPO法人に限らず、誰でも事前規制なく学校を設置することができ、不適格な学校も含め全ての学校に国民の血税である公金が支出されることになる。
 はじめから学校を継続的に経営する意思を有さず、一定期間荒稼ぎをして撤退する学校があったとしても、何の規制をすることもできず、その損害は市場原理による自己責任の原則により学生・生徒・児童・園児あるいはその保護者等が負うことになる。
 さらにこれらの学校の存在により、我が国の学校に対する国内外の信頼の低下をもたらし、優良な学校にも甚大な影響が出ることが予想され、悪貨が良貨を駆逐する結果にもなりかねない。
 このように、総合規制改革会議の掲げる「重点検討事項」のうち教育に関する推進は、我が国の教育制度の瓦解(がかい)につながるものであり、直ちに撤回を求めるものである。
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