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記事2003年6月3日 1891号 (3面) 
新世紀拓く教育 (3) ―― 早稲田大学本庄高等学院
全学の協力で SSHプログラム実施
教科に偏らず 視野の広い全人教育
  文部科学省は平成十四年度から、三年間にわたり科学技術・理数教育に関する研究開発を行う高等学校を「スーパーサイエンスハイスクール(以下SSH)」として指定した。初年度は、全国七十七校の応募の中から二十六校(公立二十校、国立三校、私学では早稲田大学本庄高等学院<埼玉県>、立命館高等学校<京都府>、西大和学園高等学校<奈良県>の三校)が選抜された。SSHの初年度を終えた早稲田大学本庄高等学院に、その取り組みと成果を取材した。
     ◇
 早稲田大学本庄高等学院(以下本庄学院と略)は、平成十四年に創立二十周年を迎えた。これから「成人」として「成熟した」教育を展開する対社会的責任がある。SSHへの応募は、今までの本庄学院理数教育の反省と整理、そして今後に向けての研究のきっかけとする、という判断から昨年一月に応募を決めた。
二月の入試業務の繁忙期でもあったため、数学・情報の半田亨教諭と物理の影森徹教諭が徹夜で計画書を書き上げた。指定を受けたのは四月十一日。すでに十四年度が始まっており、クラス編成や選択科目への配慮は不可能であった。
 そこで、クラブ活動や補講レベルでSSHプログラムの展開を模索することとした。一方で、運営指導委員会、校内の大・小委員会の組織づくりを早急に立ち上げ、学校全体として進めるべきプロジェクトであることを確認した。アドバイザーの運営指導委員会委員長には奥島孝康・早稲田大学総長(当時)が就任した。
 校内のSSH大委員会にはすべての教科の教諭が参加し、小回りの利く小委員会は理数系の教諭五人で構成した。
 「理数系の先生だけが集まって授業内容を考えるということでは、本庄学院のSSHは成り立たない」と半田教諭と影森教諭は考えていた。
 SSHプログラムを遂行することはまったく新しい教育プログラムを創設することでもあり、全学の協力がなければ今後の継続性は望めないし、ただの創立二十周年記念の打ち上げ花火に終わってしまう。
 一方、少子化の流れの中で、学院の特色を社会的にアピールする必要もあった。
 本庄学院は理系、文系といったコース分けはせず、教科を偏らせない全人教育を創立以来、教育哲学としてきた。理系エリート教育に偏った高校にするつもりはない。そのベースの上で、「経済やスポーツ等他分野をも視野に入れた裾野の広いサイエンス教育の展開」「科学・情報・国際時代の中で『生きる』素養としてのサイエンス教育」の方向性を検討することとした。
 さらに、ほとんどの学生が早稲田大学に進学する本庄学院では、高大一貫教育としてすでに「大学単位の先取り」を視野に入れており、理数系に焦点を絞った新たな一貫教育の可能性を模索することも大きな目的であった。
 具体的な目標は、高大一貫教育を念頭に置いた希望者に対する理数教育の実施、科学社会・情報社会に生きる人間が持つべき素養教育の実施、スーパーサイエンスクラブの活動に対する支援、学力の定点観測と分析・アンケート分析、国内の教育プログラムの視察・調査、大学・研究機関等との連携活動など多岐にわたっている。
 このなかで、物理と数学のコラボレーション授業では「ベクトルと力学」「微積分と運動・エネルギー」というテーマでそれぞれ八回の授業を展開した。
 こうした教科間のコラボレーションは初めての試みで、授業を受けた三年生の浅見圭祐君は「私は、物理の面白さは目に見えるものの動きが数学と記号の羅列によって表すことができ、その未来を見通すことができることにあると思う。その楽しみは物理を知れば知るほど広がるものであるし、試験のための勉強だけでは味わえないものだと思った」と感想を述べている。
 「担当科目が違う教諭間の連携が深まったことも大きな成果だった」と教務担当教務副主任の中野公世教諭(物理科)は言う。半田教諭は「他の科でやっていることがよく見えてきて、授業に無駄がなくなった」と教員側の良かった面を評価している。
 物理担当の影森教諭は、サイエンスクラブのプログラムの一つとして動力源なしに水を汲み上げる「水撃ポンプ」の実験をした。物理と数学の理論を実用技術に応用したもので、学園祭でも好評を博した。このことが全国紙に紹介されると、京都のある農家から、自分の畑にこのポンプで水を引きたいというメールがきた。「民間の方とのコラボレートも生徒にとってよい体験となるだろう」と考え、生徒と教員で、本物の自然相手のポンプ設置に出かけることになった。生徒たちは基礎研究からはじまり、制作、改良、設置までの思いがけない貴重な経験をすることになった。
 半田教諭は「単にSSHの授業を受けました、偉い先生の講演を聴きましたということで終わらせたくない。その成果や作品を評価してもらえる場も設定したい。評価されて初めて自分の考えの不足に気がつくし、聴衆も新しいアイデアを知ることができる。昨年は様々な場面でプレゼンテーションをさせたが、生徒の発表は格段によくなってきている。このような、教育プログラムがより効果的になされるような教育システムをつくるのが自分の役目です」と語る。「SSH指定以後、生徒たちは、そのような学校の生徒であることを自覚して、プライドを持つようになった。これがよいモチベーションになってくれるといい」と言う。
 今年度からは「科学英語のプレゼン術」という講座もできた。インターネットを介してオーストラリアのカレッジとの共同研究も立ち上げ、さらに実際に会ってプレゼンテーションを行う予定だ。本庄学院では創立時から全員に卒業論文を課しているが、SSHの実施によって、今後どんな論文ができてくるのか、今から楽しみだ。

好評を博した文化祭での水撃ポンプ展示


さっそく京都で水撃ポンプを設置

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