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記事2004年5月3日 1932号 (10面) 
ユニーク教育 (128) ―― 中央大学杉並高等学校
中大OB・中嶋弁護士の話
法曹目指す生徒に多くの示唆

阪口校長

 生徒の卒業後の進路指導をどう行うかは、どの高校も頭を悩ませるところだ。生徒が多様化し、生徒の意識も年ごとに変わるために、対策の立て方が難しい。
 中央大学杉並高等学校(阪口修平校長、東京都杉並区)では十年以上前から、社会の各分野で活躍する卒業生を招いて、さまざまな職業の現実について話してもらう講演会を開いている。
 四月二十二日には六時間目のロングホームルームの時間を使って、弁護士の中嶋靖史氏の講演会を開いた。中嶋弁護士は同校のOBではないが、中央大学附属高校(東京都小金井市)から中央大学法学部に進み、その後司法試験に合格したという経歴の持ち主で、中大杉並高校の菊地明範教諭とは高校時代の同級生という縁もあって、今回の講演が実現した。現在、中嶋弁護士は日本弁護士連合会広報委員会の法教育部会の部会長という要職にもあり、弁護士としての本来の職務だけではなく、社会の人々への法知識の啓もうにも力を注いでいる。
 この日、同校の第一体育館には三年生三百四十人のほかに、生徒の保護者も数十人集まり、「聞いて得する!? 弁護士のはなし」と題した中嶋弁護士の話に耳を傾けた。「法は空気のようなものだが、それがないと社会生活を営めないもの」と切り出した中嶋弁護士は、われわれが日々、何気なく行っている行為の一つ一つがいずれも法律行為であることをやさしい語り口で説いていき「生活のあらゆる分野でトラブルが起きた時に登場する可能性があるのが弁護士だ」とその役割を話した。学生時代に落語研究会に所属していたという中嶋弁護士は、小話も交えながら法律の類推解釈と反対解釈などについても、高校生にも分かるようにじゅんじゅんと語りかけていった。さらに、弁護士をやっていてよかったと思うのは依頼者から感謝の言葉をもらった時であるとし、「社会の人々にとって身近な存在でなければならない」弁護士という職業のだいご味を話した。
 質疑応答では、生徒から「弁護の余地のない悪い人の弁護を依頼された時はどうするのか」「弁護士という職業はもうかるのか」といった率直な質問が次々に出た。
 同校の生徒はほぼ全員が卒業後、中央大学に進学する。法学部に進み法曹を目指す生徒も少なくなく、例年二、三人は司法試験に合格する卒業生がいるという。高大一貫教育を標ぼうする同校は、他の高校よりも生徒が将来の職業までも見据えた進路選択を考える時間に恵まれているといえる。こうした講演会を開くのは「職業選択に悩んだ時にいい材料を生徒に与えたい」(菊地教諭)というのが狙いだという。高校生が実際に社会人から職業についての話を聞く機会は少ない。今回の中嶋弁護士の講演会は「法曹を目指す生徒にはモチベーションを高めるいい機会になった」と菊地教諭は話す。講演後に生徒に書いてもらった感想文の中には、中嶋弁護士の話を聞いて、改めて法律への興味がわいてきたという生徒もいて、夏にはそうした生徒たちだけを集めて裁判所見学も予定している。これからも社会のさまざまな分野で活躍する卒業生を招いて話を聞く予定だが、生徒たちへのアンケートではいまのところ、公認会計士やビジネスの最前線で働くキャリアウーマンなどを要望する声が大きいという。三年前には同校OBの作家・浅田次郎氏を招き、小説の魅力などを話してもらったところ「自分も何かに頑張ろうと思った」「勇気をもらった」などと生徒たちには好評だったという。
 「社会で頑張っている卒業生が後輩を応援しようと講演を引き受けてくれる。卒業生とのきずなが強い私立高校だからこそできる企画でしょう」と、菊地教諭は今後の取り組みに意欲をのぞかせた。


講演する中嶋弁護士

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