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記事2021年5月23日 2544号 (6面)
十文字中学・高校の取り組み
数学で「誰一人取り残さない教育」の効果発揮 
教員同士の信頼関係の構築と「コーチング」指導

 十文字中学・高等学校(東京都豊島区)では、数学教育において1人1台のICT機器を利用したデジタル学習ツールを駆使して、国が進める「誰一人取り残さない教育」を実践し効果を上げている。その根底には教員と生徒のみならず教員同士にも深く結ばれた信頼関係と、緩急をつけた「コーチング」による指導が存在する。今回、担当した2人の先生にその思いや活用法などについて話を聞いた。


 2020年度前半、同校でもコロナ禍によりオンライン授業を実施することに。数学を担当する鈴木紀彦先生(現在は学年担当ではない進路指導副部長を務める)はその際、ICTに精通している後輩の黒田雅幸先生に、オンライン教育の機器やシステムの設置・設定を全面的に任せるようにした。キャリアの長い教員は紙媒体での授業が定着しているためICTは使えない、向いていないとなりがちだが、鈴木先生は「先輩後輩の関係を意識せず、分からないことは積極的に教わるようにした」と話す。これに対し黒田先生は「オンラインの授業方法を伝えたら、あまりにも丁寧な授業準備(画面に映らない部分で次の画面に出す数式やプラスアルファで他の分野や他のテーマなどとのつながりの事例を用意しておくなど)を目の当たりにし、私自身が鈴木先生の『数学の授業のレベルの高さ』を体感することができた」と付け加えた。


 ツールには主にグーグルの学習管理サービス「グーグルクラスルーム」と鰍kibry(リブリー、同千代田区)のデジタル学習プラットフォーム「リブリー」を使用。このうちリブリーは学校で使われている教材や問題集をデジタル化し、1つの端末で複数のものを管理することができるのが大きな特徴となっている。問題を解くのも紙とペンを前提としているため、従来の勉強方法のまま使えて教員や生徒も抵抗感がなく使えるのも利点だ。来年の春には学習者用デジタル教科書機能が実装され、複数の教科書会社からデジタル教科書のプラットフォームとして採用されることが決まっている。


 デジタル学習ツールを活用することで誰一人取り残さない教育の根幹である個別最適化学習が実現できるのはよく言われるが、同校の数学教育ではここにコーチングも加わる。従来の授業で行われてきたような指導者が知識や経験を受講者に教え伝える指導法(ティーチング)に対し、コーチングは対話やサポートを通して自分自身で答えを見つけ目標を達成させるという教え方だ。導入を進めてきた鈴木先生によれば、最初に生徒にスパイスを与え、その先は基本的に自分で進ませるようにすることで主体的に問題を解決するようになるところに真意があるという。


 加えて、オンライン授業が始まってからは放課後での1対1の個別トレーニングも実施。同時進行が原則の教室での一斉授業だと生徒は途中で分からなくなっても遠慮して質問しづらくなるものの個別指導だとその心配がない。教員側にとっても、教室の授業では生徒との距離感がつかみにくかったのが把握できるようになり間が縮まったという。あくまでコーチングが基本であり個別指導においてもすぐに答えを教えるようなことはしないが、それでも模擬テストの点数が1桁台だったある生徒は、連日の指導後にテストを受けたら以前の5倍以上になったそうだ。


 今後のICTを活用した学びについて、鈴木先生は「分からなければ教科書を見て一から学び、できるのであれば教科書通りでなくてもどんどん先へ進められるのがメリットだ。またこれからはICTの活用の発展的な方向性として他地域の他の学校との連携や交流も盛んに行い、全国的に幅広く学校間の学びの場といった環境を通して、お互い刺激になっていけばよいと思う」と話す。一方黒田先生は「リブリーにルーブリック評価(学習者の到達度を示した基準表に基づく評価)の支援機能が実装されるので活用していきたい。そして鈴木先生のような後輩の頑張りを応援する姿勢を今後も忘れないでいきたい」と語っている。


黒田先生(左)と鈴木先生(右)


デジタルツールの活用に加えコーチングも取り入れる

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