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記事2001年1月3日 1号 (12面) 
ネットワーク時代の学習 (2)
日本スクールシステム機構・情報教育アカデミーグループマネジャー 浅野 恵治
教育の情報化で学校現場はどう変わるか

 情報化社会の急速な進展に伴い、学校においても事務のデジタル化やIT(情報技術)を活用したコミュニケーションツールの導入が試みられています。現状ではまだ一般的とはいえませんが、校内LANやインターネットを利用して学校生活の様子を保護者に知らせたり、生徒の学習活動履歴をデータベース化して先生方が随時に閲覧し、学習や生活の指導に活用するなどの取り組みも行われるようになってきました。二十一世紀の初めに、インターネット時代を迎える学校の事務処理や児童・生徒、保護者と学校とのコミュニケーションはどう変わっていくのかを考えてみたいと思います。

学校事務のデジタル化により省力化、迅速処理が

(ネットワーク時代の学校事務)
 学校の事務処理を考えるうえで重要なことは、学校ならではの特殊な事務環境と、一般企業の事務環境が混在しているということです。例えば、テストの成績管理や時間割の作成など、学習という学校特有の活動に直結した事務があります。その一方で財務や人事の管理など、一般の企業と同様の考え方で処理できる事務もあるわけで、この点をはっきり分けて考えなければなりません。
 まず、一般の企業と同じような側面からみてみますと、学校事務をデジタル化、ネットワーク化することによって省力化とスピードアップが可能となることが挙げられます。
 例えば、先生方は授業が終わった後も、さまざまな仕事に追われて、生徒や先生同士のコミュニケーションがままならないのが現状です。このような場合にEメールを活用すれば、校長先生や事務方が伝えておきたいことなどを、確実に先生方に伝えることができます。これはビジネスの世界では一般的になっていることですが、学校でもまったく同じようにたいへん便利なものです。
 学校では職員会議が長時間にわたり、生徒とコミュニケーションしたくても時間がなかなか取れないということがしばしば起こります。Eメールで伝達できる事項は職員会議の議題から外すなどの工夫をすれば、会議の時間を少なくして生徒とのコミュニケーションに使える時間が増えるはずです。つまり、教員としての専門的な仕事ができるということです。
 これはコンピュータを使って事務的な業務を省力化するということです。特に、ネットワークということでいえば、学校にあるさまざまなデータ、例えば保健のデータなどは保健室の先生に一括してゆだねられているケースが多く、生徒の身体的・精神的な状態を担任の先生が知らなかったということも往々にしてありました。
 ネットワーク技術を活用すれば、生徒が身体的に弱いとか、情緒不安定であるといった情報を一括して保存しておいて、「必要な時に必要な人が閲覧したり、取り出して活用する」ということが可能となります。また自分が気づいたことを書き足していくこともできます。
 今まで専門家だけが持っていた情報を学校全体で持つことができるようになるので、その生徒によりふさわしい教育ができるようになるわけです。

学習、生活の履歴まで記録 生徒の心の問題も指導可能に

 学習活動につながる事務としては履歴の管理・活用があります。これまでも先生方はありとあらゆる手法を用いて評価や指導を進めてきましたが、紙という記録媒体の性格上、膨大なデータを処理することができませんでした。ところがコンピュータを用いて大量のデータを瞬時に処理することが可能になって、学習の履歴のみならず生活の履歴まで細かく記録することが可能になってきました。そのことによって生まれるいちばん大きな変化は、先生方がいままでは手が回らないと思ってきた問題や、人間の心の奥底の問題などにも対策を立てられるようになることでしょう。このようなデータを活用すれば、これまでのように一学期と二学期の成績の結果を見比べるような、点と点で生徒を評価・指導するのではなくて、その間に何回保健室に駆け込んでどんな悩みを話したのか、どういうことが家庭で起こっていたのかなどのデータをすべて記録しておいて、その過程=学習と生活の履歴を一本の線として把握した指導ができるということです。膨大なデータを処理し、いつでもだれでもそのデータを活用できるというコンピュータやネットワーク技術の特性を、生徒たちが体や心の問題も含めて学校教育の中でよりよく、健やかに育っていくことに活用できるということです。

学校と家庭が密接に 即座に旅行先、現場の情報

(学校での新しいコミュニケーション)
 学校現場におけるコミュニケーションは、ネットワーク化でどう変わっていくのでしょうか。これまでは学級通信やお知らせなどの紙媒体と電話による連絡網などで学校と家庭が結ばれていましたが、先進的な学校では、学校から家庭のパソコンに情報を流したり、修学旅行にモバイル機器を持っていって、旅行の様子を刻々と保護者に情報発信しているところも出てきています。
 このようなネットワーク技術によってもたらされる恩恵は非常に大きいものがあります。例えば、雨が降っていて運動会が開かれるのかどうかということでも、これまでは家庭の方から学校に電話で確認をしたり、連絡網などを使ったりするのが一般的でしたが、ネットワーク技術を利用すれば、実施するかどうか、また、その日の学校のグラウンドの様子まで刻々と映像で家庭に伝えられます。修学旅行でも、自分の子供がどんな旅行をしているのかを生の映像で保護者が見ることも可能です。
 つまり、デジタルによる情報量と伝達スピードの圧倒的優位性によってこのようなことが可能となるわけです。
 今話題になっているのは学級新聞を刷る必要がないということです。ある学校では、コンピュータを持っている家庭が多いことから当日あったことをその日の夜十時までに、各家庭に知らせています。文字だけではなく、デジタルカメラで撮った映像もその日のうちに送られる。このスピードと情報量は膨大なものです。このような取り組みを行うと、学校と家庭とのコミュニケーションが非常に密接になります。
 また、インターネットはインタラクティブ(双方向性)なメディアですから、保護者の側からも学校に対して自分の意見を言うためのツールになり、より深く学校に関与することが容易になるし、学校の外でも、保護者の間でコミュニティーがつくりやすくなります。
 従来ですと、保護者会などに参加しなければ、学校の様子が分からないということもありましたし、保護者がその場で意見を言うのが難しい面もありましたが、インターネットを活用することによって学校とのコミュニケーションが取りやすくなるのです。

子供をめぐる環境変化 主体的にネット利用

 「保護者は子供のことをいちいちわれわれに尋ねなくても、インターネットを使うことによって、学校での生活態度などをしっかり把握できることから、親と子のコミュニケーションが、より深くなった。それに、学校の中での秘密がなくなってきて、教育の本来の姿に戻ってきた」とある先生はおっしゃっています。
 これは子供をめぐる環境が変化したということですが、一方、子供にとってはどうなのかというと、例えば、ある先生が宿題を出して、そのヒントを放課後、インターネットにのせる。子供の親はそろそろヒントが出ているころだから、宿題をやりなさいと子供にいえる。子供はできない宿題でもヒントがあるので、やる気になる。これは大きな変化だとその先生はおっしゃっています。先生からのそういう情報は子供にとってとても身近に感じることができます。メディアをめぐる距離感がより近くなることは、子供の世界の価値観創造にもつながる重要なことです。
 このような使い方をすれば、子供たちも、自分に役に立つツールとして、インターネットやパソコンを認識し、主体的に使う契機が生まれてくるわけです。現在、インターネットはすべての人に使いやすい、やさしいものではありませんが、これからはどんどん使いやすくなっていきます。携帯電話を使うように、家に帰ってからではなく、家に帰る途中でもインターネットを使えるようになるでしょう。そのような環境では、子供は情報の渦のなかにのまれるのではなく、情報の渦に包まれながらはぐくまれていくようになるでしょう。

学習サポート企業と通信事業者が連携

(企業との提携)
 以上に述べたように学校における教育の情報化や事務処理のデジタル・ネットワーク化に対応するためには、これまでの学校のように先生方がすべての作業や管理に従事することには無理があります。
 特にデー夕べースの管理やセキュリティー対策、トラブルに対するフォローなどは専門知識と技術を持った企業との提携が不可欠だといえます。
 また、学習活動の面でも総合的な学習の時間等に対するコンテンツを提供したり、先生がインターネット学習を行う際のナビゲーションやガイダンスができる仕組み、生徒がどういう仕方で学習していくかといった学習履歴の管理や学習プロセスのポートフォリオ分析などが必要となってきます。
 そのため、システムやコンテンツの開発、セキュリティーや認証の問題も含めて学習サポート企業とそれに連携した通信事業者などと共同でシステムを構築し、アウトソーシングできる部分、すべき部分を確定する必要があります。

生徒と先生をナビゲーション 学習プロセスの管理、評価

(教育用ポータルサイト)
 特にインターネットを学習活動に取り入れる場合には学習サポート企業が設けている教育用ポータルサイトを利用するのも選択肢の一つです。教育用ポータルサイトというのは、インターネットを利用した学習活動に必要な機能を多岐にわたって構築した、ネット上のシステムのことです。例えば、総合的な学習の時間の中で生徒がインターネットを利用した学習をしたいという場合、ポータルサイトにアクセスしてさまざまなコンテンツを利用したり、生徒の行動や思考から生成される学習過程(動的データ)ならびに学習結果(静的データ)として「学習履歴データベース」に集積して学習活動へ活用するシステム(スクールフローシステム)を利用して、生徒や先生をナビゲーションしながら学習のプロセスを管理し、評価まで行ったりすることができます。
 学校側のメリットとしては、自分でプロバイダーと契約してさまざまなソフトやシステムを導入したり、セキュリティーやシステムの管理を行うよりも、教育用ポータルサイトを利用した方が使い勝手や管理の面で、手間もかからず安心もできるということです。
 学校にとって大事なことは設備を置くことではなくて、どういう学習プロセスをとったか、またそれをどう評価できるかという仕組みをつくるということです。生徒のナビゲーションや先生のガイドがポータルセンターのシステムの中に組み入れられていて、データベースを構築したり、先生と生徒のやりとりもこの中で管理していくことが重要です。このような手法は学校にLAN環境さえあればその端末でできます。こうしたポータルセンターがたくさんできれば、学校間での交換授業も可能となり全国的な学習環境のレベルアップに役立つでしょう。
 教育用ポータルサイトは現在、いくつかの企業で開設されていますが、日本スクールシステム機構ではNTT―ME東海と提携して、実際に教育現場で使う場合のさまざまなアフターフォロー、ネットワークの構築やそれにかかわる先生や生徒に対する総合的サービスを提供できることを目指しています。


【プロフィール】
(株)日本スクールシステム機構に所属し、現在約30の教育委員会・学校法人に情報教育の講師・アシスタント派遣、カリキュラム開発等を支援。(電話03-3556-6581)


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