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記事2001年1月3日 1号 (13面) 
司法制度改革で中間報告 司法制度改革審
年間3000人の新規法曹確保
 二十一世紀を見据えた法曹や司法制度のあり方などを審議している司法制度改革審議会(佐藤幸治会長=京都大学教授)は平成十二年十一月二十日、中間報告を発表、この中で、諸外国に比べ極端に少ない法曹の数については「年間三千人程度の新規法曹の確保」を目指すとし、質の向上を確保するために予備校で受験テクニックを学んだ、一発勝負に強い受験生が司法試験に合格する「点」ではなく、授業に出席し法学教育を受ける「プロセス」を重視し、そのためにも法科大学院の設置が必要で有効であるとの考えを打ち出した。


法科大学院修業年限3年
新司法試験は受験制限3回

 中間報告による司法制度改革の三つの柱は、(1)国民と司法をつなぐ人的基盤(法曹)の拡充・強化(2)国民に分かりやすい司法制度の構築(3)司法の国民的基盤の確立。「人的基盤の拡充・強化」については、法科大学院を含む法曹養成制度の状況を見定め、早期に「年間三千人程度の新規法曹の確保を目指す必要がある」ことを示した。そして司法試験という「点」のみによる選抜ではなく、法科大学院を基幹的な高等専門教育機関とし、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制度の整備が必要だとしている。
1.法科大学院
 【法科大学院の目的と理念】法科大学院は「司法が二十一世紀の我が国社会において期待される役割を十全に果たすための人的基盤を確立することを目的」とし、「司法試験、司法修習と連携した基幹的な高度専門教育機関」と位置付けている。
 法科大学院における法曹養成教育のあり方として、次の三点を挙げる。
 (1)「法の支配」の直接の担い手であり、「国民の社会生活上の医師」としての役割を期待される法曹に共通して必要とされる専門的資質・能力の習得と、かけがえのない人生を生きる人々の喜びや悲しみに対して深く共感し得る豊かな人間性の涵養、向上を図る(2)専門的な法知識の確実な習得と、それを批判的に検討、発展させていく創造的な思考力、あるいは事実に即して法的問題を解決していくための必要な法的分析能力などを育成する(3)人間や社会のあり方に関する思索や見聞、体験を基礎として、法曹としての責任感や倫理観が涵養されるように努め、社会への貢献を行うための機会を提供する。
 【法科大学院制度の要点】法科大学院は「法曹教育に特化した実践的な教育を行う学校教育法上の大学院」を前提とし、既存の大学を拠点とする法科大学院と、弁護士会や地方自治体などが学校法人をつくりそれが母体となる新しいタイプの法科大学院とが競争し、「それぞれが理想とする多様な法曹を養成する柔軟なシステムが展開されることが望まれる」とする。
 標準修業年限は三年とするが、法律学の基礎的な学識を有すると法科大学院が認める者については、二年での修了を認める。
 入学者選抜については、公平性、開放性、多様性を確保し、入学試験のほか、学部での成績や学業以外の活動実績、社会人としての活動実績などを総合的に考慮して、各法科大学院の教育理念に応じた自主的判断で合否を判定する。入学試験については、法律学の知識ではなく、法科大学院での履修の前提として要求される判断能力、思考力、分析力、表現力などの資質を試す適性試験を行う。修業年限二年を認める法科大学院では、適性試験に加え法律科目試験を行う。
 法科大学院での教育内容については各法科大学院の独自性、多様性を尊重しつつ、実務上生起する問題の合理的解決を念頭に置いた法理論教育を中心に、例えば要件事実や事実認定に関する基礎的部分などの実務教育の導入部分をも併せて実施する。
 また、法科大学院での教育方法としては、講義方式や小人数の演習方式、調査・レポート作成・口頭報告、教育補助教員による個別的学習指導などを適宜活用し、「とりわけ小人数教育を基本とする」。授業は双方向的なもの中心に、一つの授業を学期ごとに完結させるセメスター制などを採用して集中的に行う。
 【設立手続きおよび第三者評価(適格認定)】法科大学院における入学者選抜の公平性、開放性、多様性、法曹機関としての教育水準および成績評価・修了認定の厳格性を確保するため、適切な機構を設けて第三者評価を継続的に行う。また公平性、開放性、多様性を確保するために、地域を考慮した全国的な適正配置に配慮し、社会人などが学ぶことができるように努めるべきだとしている。
 2.司法試験
 【受験資格】新司法試験の受験資格は、法科大学院の修了を前提とすることが望ましいが、やむを得ない事由により法科大学院への入学が困難な者に対しては、別途、法曹資格の取得ができる適切な例外措置の必要性を指摘。新司法試験については、三回程度の受験回数制限を認める。
 【試験方法および内容】新司法試験は法科大学院の教育内容を踏まえ、かつ、十分にその教育内容を修得した修了者に新司法試験実施後の司法修習を施せば、法曹としての活動ができる程度の知識、思考力、分析力、表現力などを備えているかどうかを判定する。

大学院構想の問題点 教える教員の質の確保
法学部持たない大学との格差

 司法制度改革審議会は司法制度の利用者である国民の視点に立って、「国民がより利用しやすい司法制度の実現、国民の司法制度への関与、法曹の在り方とその機能の充実強化その他の司法制度の改革と基盤の整備に関し必要な基本的施策について調査審議する」ことを目的に、平成十一年七月に首相の私的諮問機関として設置された。大学、元裁判官、産業界、労働組合関係者ら十三人からなる同審議会は発足以来、三十数回に及ぶ会議を精力的に重ね、調査審議を進めてきた。十二年四月には同審議会は文部省に大学関係者および法曹三者の参画で法科大学院構想における具体的に専門的、技術的見地から検討を行うように依頼し、これに対して文部省は検討会議(座長=小島武司・中央大学教授)を十数回開き、九月に法科大学院の制度設計に関する基本的事項について、(1)法曹養成に特化した実践的な教育を行う大学制度上の大学院構想(2)特定の大学の法学部に基礎を持たない形態の独立大学院や、大学が連合する連合大学院の容認(3)法科大学院の第三者評価の必要性(4)法科大学院修了を新司法試験の受験資格とするなどを発表した。
 一方、各私立大学では十三年一月ごろからシンポジウムを開催、独自の法科大学院構想を打ち出し法曹界、経済界、学者らを招き、二十一世紀を見据えた法曹養成教育などについて議論してきた。法科大学院の基本的枠組みについては、法学部(四年)に法曹コース(三年次から)を設け、法科大学院(二年)を設置して六年一貫教育を行うタイプや、法学部(四年)とは切り離して法科大学院(二年―三年)を考える方向などがみられた。  法科大学院構想については残された問題がある。例えば法科大学院で教える教員の質の確保する場合、弁護士などの実務家が考えられているが、果たして教えられるだけの優秀なスタッフがそろえられるか、報酬の面はどうかなどが挙げられる。また法学部を持つ大学と持たない大学との間に大きな格差が生じることも考えられる。
 一方、予備校などで学んでいる司法試験受験生は、現在でも相当な講座受講料を支払っている状況だが、一人の学生が法科大学院を修了する場合相当な費用が掛かるため、経済的に裕福でない者が法曹への道を絶たれるという危惧がある。




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