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記事2001年7月3日 17号 (3面) 
中教審の動向
文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会(鳥居泰彦会長=慶應義塾学事顧問)では、五月の連休明け以降、各分科会で二十一世紀の教育づくりに向け本格的討議が続けられている。また分科会には部会も設けられ、初等中等教育分科会では教員養成部会と教育課程部会がすでに活動を開始、大学分科会でも近く発足の予定だ。課題によっては十三年度中の答申のため急ピッチでの検討が続いている。

【総会】

体力、運動能力向上へ
総合型地域スポーツクラブの全国展開を

 中央教育審議会は六月二十二日、東京・半蔵門のグランドアーク半蔵門で第七回総会を開催し、子どもの体力向上を図るためには今後、どういう取り組みを行っていくべきかについて話し合った。委員の間からはそのための方策として、文部科学省が昨年九月に定めた「スポーツ振興基本計画」の中に盛り込まれている、総合型地域スポーツクラブの全国展開を進めてほしい、という意見が目立った。
 総会では事務局(文部科学省)から、児童・子どもの体格は昭和三十年以降、ほぼ一貫して伸びているにもかかわらず、体力・運動能力については昭和六十年ごろからともに低下傾向が続いているとのデータが示された。この結果を受けて、鳥居泰彦会長は、体力低下のファクト(事実)が日本の社会にとってどういうインパクトがあるのか、なぜそれが起こったのかを探り、われわれはどうしたらいいのかを討議しなければならないと論点を示した。
 文部科学省が推進しようとしている、総合型地域スポーツクラブの全国展開に関しては、今井佐知子、千田捷煕、横山洋吉の各委員がこれを実現させていくべきだ、と後押しした。「スポーツ振興基本計画」では、二〇一〇年までに全国の各市町村において少なくとも一つは総合型地域スポーツクラブを、各都道府県において同じく一つは広域スポーツセンターをつくる、と計画されている。委員らは「学校週五日制が定着する中で、生徒の学力を維持するために放課後の部活動が減らされている」(千田委員)、「教員の高齢化によって部活動の指導者不足が深刻。総合型地域スポーツセンターを拡充し、民間の社会人を指導者として育成すべき」(横山洋吉委員)などと、推進理由を話した。いずれも学校だけの取り組みでは子どもの体力向上は望めず、総合型地域スポーツクラブをその起爆剤にしたい、ということだ。
 IT社会の進展の中で、新しい情報通信機器の普及が子どもの生活行動に与える変化、子どもの体力低下との相関関係について調査を行うべきだ、という意見が江上節子、森隆夫の両委員から出された。
 子どもの家庭での生活の乱れが体力低下の一因だとして「日本の家庭はルールを守る教育を行っていない。規範意識をどう育てるかという観点を採り入れるべきだ」(田村哲夫委員)、「幼稚園から小学校のある一定の年齢になるまでは子育てに専念することを強調したい」(荒木喜久子委員)などとする意見も聞かれた。また、田村委員は子どもの体力の国際比較を経年で調査、発表することが必要であるとの提言も行った。

【教育制度分科会】

新時代の教養教育意見発表
校長講話やキャリア教育提言

 中央教育審議会は六月十四日、教育制度分科会の第三回会合を、同二十五日には第四回会合を、いずれも東京・虎ノ門の文部科学省分館で開いた。第三回会合以降は委員が今後の教養教育の在り方等に関して意見発表を行い、それを足がかりに自由討議していく。
 第三回では新しい時代における教養教育の在り方をめぐって阿部謹也委員(共立女子大学長)が大学における教養教育の在り方を、木村孟委員(大学評価・学位授与機構長)が自らが受け、行った体験を基に教養教育論を発表した。
 また第四回では田村哲夫委員(渋谷教育学園理事長)が初等中等教育における教養教育論を発表、横山洋吉委員(東京都教育委員会教育長)は東京都が現在、進めている教養教育につながる施策等を説明した。
 このうち阿部委員はこれからの教養とは書物などによる知識だけではなく、行動、動作、振る舞い、感性などを含み、必ずしも教育程度ではかれるものではないなどとした。そのうえで大学における教養教育については専門教育と別立てとせず、専門教育の教師が自分と学問とのかかわりや自らの生き方などを語ることが教養教育であり、その際、個々の教師が連携し全体をどうしていくかの意思を働かせていくことの重要性を強調した。また伝統的な教養教育を行う学校、生き方を中心とした教育を行う学校、さらにその混合など様々なタイプがあっていいとした。
 木村委員は東大(駒場)の学生時代に受けた徹底したリベラルアーツ教育で強烈なインパクトを与えられ、その後の人生の精神的豊かさの土台となったこと、学長を務めた東京工業大学では戦後まもなくから専門知識とより広い一般的な知識との有機的関係を重視した、先見的アイデアによる教養教育が行われたため、理工分野にとどまらず様々な分野でリーダーが育ったこと、設置基準の大綱化の際も専門教育関連科目の総単位数を減らし、全学教育科目の単位を増やしたことなど同大学の取り組みを説明、タイプは異なるもののそれぞれ成果を上げたことを指摘した。
 田村委員は中等教育段階の教育はすべて教養教育となること、渋谷教育学園の中学高校では校長である田村委員自ら年間六〜八時間ほどの校長講話を行っていること、「自調自考」の理念のもと論文作成に取り組ませていること、中等教育段階では教養教育に関しては校長が責任を持つこと、それぞれの学校がテーマをもって行えば必ず成果が出ることなどを明らかにした。
 横山委員は新しい学習指導要領を確実に実施することが教養教育につながること、社会的自立を促すキャリア教育の重要性や、社会との接点を持ちながら人格形成を進めていく必要性を強調した。意見発表に続く自由討議では、現在の教育は「流行」に流され過ぎており、何が本当に大切か吟味すること、具体的には国語教育の充実を指摘する意見も出された。

【初等中等教育分科会】

教免制度の総合化更新制検討
私学3団体から意見聴取も

 教員免許の総合化・弾力化や更新制導入の可能性などを検討する中央教育審議会初等中等教育分科会の教員養成部会(部会長=高倉翔・明海大学長)は六月十一日に初会合を開いた。それ以降、十八日に第二回会合を、二十五日には第三回会合を開くなど急ピッチで検討を続けており、七月中には合わせて四回の会合を開く予定。
 また今後、私学三団体(全日本私立幼稚園連合会、日本私立大学団体連合会、日本私立短期大学協会)を含めて、教育関係団体、教職員関係団体、大学関係団体、経済団体の合わせて十九団体から検討事項に関する意見を聴取することにしている。
 このうち第一回会合では、「(教員免許制度における)校種間の連携は大変重要」「総合化・弾力化については、総論賛成だが、現実の環境整備が必要だ。幼から小に働きかけても、小からあまり反応がない」「教員免許に関しては、一方で専門性を求め、もう一方では総合化や弾力化、社会に開かれたものとしている。二律背反の問題がある。その整合性を取るべきだ」「高校の免許にも介護体験を義務づけてほしい」「更新制については疑問がある。その目的は雇用の流動性のためか、教員の資質向上のためか」などの意見が出された。また第二回会合では教員免許更新制などが討議された。更新制に疑問を投げかける意見や「幼稚園では二割が公立で八割が私立。市町村では行政職採用となっているところもままある。この場合どのように対応するのか」など実施上の難しさを指摘する意見も聞かれた。
 その一方で「五なり十年の更新を義務づけてそれぞれの教員に合った研修内容を考えるべきだ。また更新の際に一年程度の企業や福祉施設への社会体験研修も資質向上の観点から義務づけるべきだ」といった意見も出された。
 さらに教員免許制度を平成十年に改正したばかりで、その改正に基づく教員が第一線で働いていないうちに再び改正するのは拙速、との意見も聞かれた。
 中教審の資料によると、国家資格で有効期限(更新)を設けている資格としては、「猟銃免許」(三年)、「臭気判定士」(五年)、「調教師」(一年)、「騎手」(一年)、「海技士」(五年)、「小型船舶操縦士」(五年)などがある。
 また海外では、アメリカ合衆国のように更新制を採用(ほとんどの州で)している国もあれば、フランスのように更新制のない国もある。
 今後、同部会では(1)総合化・弾力化の形態(例えば幼小と中高でそれぞれひとくくりとするのか、義務教育段階(小中)で一つにするのか、現行の免許状の教授できる範囲を拡大するのか)(2)専門性等の確保(総合化・弾力化することにより、各学校種・教科ごとの専門性や子どもの発達段階への配慮をどのように担保するのか)(3)専修、一種、二種の区分との関係(専修、一種、二種の段階に分かれた現行の制度をどうするのか=一種免許状を汎用性のあるものにし、専修免許状を専門性あるものにすべきでは=また二種免許状の在り方をどうするのか)(4)現行免許制度上の弾力化の拡充(さらに弾力化措置が取れるものがあるか)(5)大学での教員養成カリキュラム(総合化・弾力化することにより大学の教員養成カリキュラムをどのように構築すべきか)(6)現場レベルでの対応(総合化・弾力化を現場レベルで進め、学校間の接続を円滑にするための人事管理上の問題や促進策をどうするのか)などの課題が討議される見込み。

【大学分科会】

科学技術・学術審学術分科会で 大学改革連絡会開催へ
4部会の設置も決定

 中央教育審議会大学分科会は六月十五日に開いた第二回会合で、同分科会と科学技術・学術審議会学術分科会による大学改革連絡会の開催を決めた。今後の高等教育および学術研究の振興の在り方双方に関連する大学問題全般について協議しようというもの。両審議会の会長、副会長、会長代理、両分科会長が各分科会の委員、臨時委員、専門委員の中から指名する委員らが集まって協議を行う。
 協議事項は(1)グローバル化が進行する中での今後のわが国の大学を中心とする高等教育・学術研究の果たすべき役割(2)学問分野の望ましいバランスの在り方およびその確保のための方策(3)優秀な研究者の養成・確保のための方策(4)その他大学を中心とする高等教育および学術振興の在り方の四つ。
 また、大学分科会では「将来構想部会」「制度部会」「大学院部会」「法科大学院部会」の四部会の設置も決めた。委員の各部会への所属はこれから決める。各部会の審議事項は次の通り。将来構想部会=大学等の設置認可の望ましい在り方と今後の高等教育の全体規模。制度部会=短期大学・高等専門学校から大学院までの高等教育制度全体の在り方。大学院部会=大学院制度の在り方。法科大学院部会=法科大学院の在り方。

【生涯学習分科会】

ボランティア活動普及充実
山形県の先進例など聴取

 中央審議会の第五回生涯学習分科会が六月二十七日、東京・虎ノ門の文部科学省分館で開かれた。この日は山形県における高校生ボランティアサークルの活動、財団法人ボーイスカウト日本連盟、長崎県国見町社会福祉協議会の取り組み事例についてそれぞれ報告があり、これらの報告を踏まえて討議が行われた。なかでも全県的に高校生が自主的にボランティアサークルをつくって活動している山形県の事例には注目が集まった。
 山形県の堀米幹夫・社会教育課長は県内にある四十四の市町村すべてに六十以上の高校生によるボランティアサークルが存在し、それぞれの地域に合った活動を展開していると報告した。堀米氏によれば、高校生ボランティア活動の端緒は一九七七年、西川町在住の高校生が地域の子ども会活動にかかわったこと。一九七九年に天童市の県青年の家で交流会を持ったことで広がりを見せたという。いずれのサークルも地域の子どもとの触れ合いをベースにした活動で、いまでは「山形方式」として定着。最近では、ボランティア体験で培った問題意識を基に、福祉関係の大学に進学したり、教員として就職するなど、自分の進路に結び付ける人が目立ってきたのが特徴だという。
 堀米氏は「いくらよい活動でも大人が押し付けては育たない。若者を信じて、活動の場を提供することが大切だ」と指摘。そのうえで「ボランティアネットワーク社会を大人が構築することが青少年の健全育成にもつながる」と述べた。
 委員の間からは「企業社会の影響があまりない、コミュニティーの意識が残っている側面もある。企業社会の有り様を変えていかないと」(高木剛委員)、「大人社会は青少年に問題意識を植え付けるために、こうすべきだと(いうモデルを)提言すべきだ。また、大人は何らかの社会活動に参画しなければ社会的責任を果たしたことにならない、という仕組みをつくるべきではないか」(寺島実郎委員)とボランティア活動をしやすい社会づくりに向けて問題提起が行われた。



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