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全私学新聞

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記事2002年1月3日 号 (8面) 
教育機関のIT化ますます進む
興國高校BITSシステム

草島一理事長・校長

少子化の影響を受けて学校間の競争が激化の一途をたどり、生徒にとっての魅力ある学習、保護者や社会の期待に応え得る教育内容をいかに構築できるかが厳しく問われる時代となった。このようななかで教育機関に対するIT(情報技術)化はますます要請されるようになり、学校全体で本格的な取り組みを行う中学・高等学校も増えている。全私学新聞では、IT関連企業の協力を得ながら全校のIT化に取り組んでいる興國高等学校(草島一理事長・校長、大阪市天王寺区)の取り組みを、同校の草島葉子副校長にうかがった。

真の産業人を社会に
自分づくりのオンリーワン教育

培われた伝統と理念

 興國高校は大正十五年に興國商業学校として創立され、長年、商業高校としての歴史を刻んだ後、昭和三十八年には普通科も併設し、今年創立七十六周年を迎えた伝統ある学校です。
 建学の精神としては、創立当初が商業学校ということもあり「読み書き算盤」を基本とする実践型産業教育を標榜してきましたが、二十一世紀を迎えた現在は社会の価値観や学校教育に求められる事柄も大きく変化しています。
 このような時代に本校が培ってきた実践型教育を実現していくためには、「情報教育」はもちろん不可欠な要素ですが、また一方で、感性を磨くことも大切であると考えています。この両者をバランスよく身につけた真の産業人を社会に送り出すことが新しい時代における本校の理念ともいえます。
 昨年、従来の商業科を「ITビジネス科」に改編するとともに、普通科にスタンダードコースとアドバンスコースの二コースを設けたのもそうした時代の流れを先取りしたものです。感性を重視した「情報教育」を取り入れ、一人ひとりが特色をもって、学力や偏差値だけに頼らない自分づくりを行っていく「オンリーワン教育」が本校の特色です。

IT教育の方向性 

 現在の社会では、家庭や幼児教育などですでにコンピュータやインターネットがかなり浸透していて、いろいろな情報があふれています。
 一方、中学校や高等学校ではインターネットを利用する場合でも、あれを見てはいけない、これを見てはいけないといったことが多く、むしろ学校レベルでの対応が立ち遅れていると感じています。このような状況のなかで、正しくIT教育を推し進めていくことが私どもの急務であると思っています。
 そのためには、感性とITスキルとのバランスをとりながら、コンピュータに操られるのではなく、あくまでもツールとして利用しながら、どこまで自分の人生の枠を広げていけるのかを問題にする必要があるでしょう。
 ITの活用には、国際感覚、経済感覚など、それを利用する人間の能力や人間性など人格の属性すべてが関係してきます。ですから、学校教育におけるIT教育は単に授業など学習の場面だけでなく、クラブ活動や家庭とのつながりなども通して、社会人としてのマナーを学ぶ場であることも十分に認識しなければなりません。例えば、就職活動を行うような場合、ピアスをしていても採用してくれる会社がどのくらいあるのか、インターネットを使って自分たちで調査をしてみれば、教師が生徒に百回アドバイスするよりも社会人としてのマナーの現実をより理解することができると思います。

蓄積したブックマークデータを教材に
調べ学習や交流に活用

システムの問題

 本校は文部科学省のマルチメディアネットワーク推進指定校となっていますが、実はインターネットを使って教育をするには、教員のリテラシーの問題やシステム的な使い勝手の悪さなどの問題があって、かなり厚い壁を感じていました。一方で生徒たちは結構、臨機応変にインターネットを使いこなすことができていたので、本格的なIT教育の実現へ向けて何らかの解決方法を模索していました。
 このようなときに、ホームページのブックマークを共有してデータベースの構築を容易に行い、しかもそれを相互に流通できるシステム(Blink IT Support、略称BITS)があることを知り、全校のIT化を本格的に推進するためのツールとして導入し、昨年十一月から運用を開始しました。
 このシステムはインターネット上のホームページのブックマークをオープン環境にあるコンピュータで可能としますので、従来コンピュータ教室では不可能だった生徒や教師個々人のブックマークを個別に蓄積することができます。
 また、そのようにして蓄積した各々のブックマークデータを教材として生徒に配布したり、相互に交換しあったりできるので、「調べ学習」やグループ学習、クラブ活動による仲間づくり、家庭や卒業生との交流など幅広く活用できるのが特徴です。
 BITSシステムはブックマーク機能とともにメール機能と自己紹介ホームページ作成機能も備わっているので、生徒や教師が自分自身の掲示欄を持てるわけです。一人ひとりが自分を表現できる器を持つということは、オンリーワン教育に直結するものですし、同時に先生方の個性も発揮できるものではないかと思います。普段あまり接触がなく、人となりをよく知らない先生とも出会うチャンスが増えることもあるでしょう。
 このシステムに関する先生方の反応を見ると「これは使えるな」「これは面白い」という言葉をよく聞きますので、BITSを使いこなすことによって自然にITスキルを身につけていける見通しが立ちました。
 現在はまだ、システムを導入した直後なので、BITSを開発した企業の協力を得て先生方に研修を行っている段階ですが、このシステムを最大限に利用するという目標設定をして、今年の春までにこのシステムに慣れ親しんでもらい、その後は、まずITビジネス科の授業のなかで活用し、段階的に普通科にも広げていくことを考えています。
 平成十四年度には現在建築中の新校舎が完成しますが、その時には全校のLAN環境が整います。これと並行して先生方と生徒一人ひとりに自分のホームページとメールのアドレスを持たせ、自己表現のフィールドを与えることによって相互の情報の共有化を図り、コミュニケーションを深めるための準備を行うつもりです。

双方向の授業実現
自由に想像力発揮

BITS導入後の学校

 BITSを導入すると、まず、授業の方向が変わるということが挙げられます。つまり双方向の授業ができるということです。無気力な生徒や自分と関係ない教科に興味を示さない生徒を引きつけることができます。
 特に、今の生徒たちはビジュアルに対する反応が鋭いので、このビジュアルに訴えていけることが大きいと思います。
 先生は授業中に伝えたいことをリアルタイムに伝えられるようになるでしょうし、授業方法の制約もなくなって、自由に想像力を発揮できるようになるでしょう。これまでの教育方法とは異なった可能性を秘めていると思います。
 文部科学省は新しい学習指導要領でコンピュータやインターネットを活用したカリキュラムの実施をうたっていますが、それに見合った指導方法は本当にあるのかというと疑問で、先生は不安に思っていました。しかし、このシステムを使えば、生徒に興味を持たせることができるという自信が生まれています。
 無数にあるホームページをチョイスして、ブックマークに登録し、共有することで、生徒の想像力に刺激を与えることができますし、先生もあらゆる手段を駆使して、生徒のあらゆるレベルに対応した授業ができるようになるでしょう。生徒たちの多様な感性に訴えることはなかなか難しいことですが、BITSを利用した授業は生徒たちの興味を十分引くことができるものだと思います。

ITを学園改革の
柱に新しい教育へ

これからの興國高校

 二十一世紀という時代を見据えて学園改革を進めていますが、全体の柱としての基本は、個々を大切にする教育を目標にしています。今回のシステムの導入はカレントワールドといいますか、今の時代、世相を反映させて、そのニーズを先取りしていくことでもあります。
 このシステムを導入したとき、すぐに教員同士がメールを始めました。親子の連絡、学校と家庭との連絡などにも非常に有効なツールだと思います。また、字が上手でない生徒は、連絡事項をパソコンで打ってきたりします。
 生徒たちの個性の出し方が違うなかで、先生方が強制してひとつにまとめるのではなくて、生徒たちが自由に、何を求めていくのか、その求め方を教えていかなければなりません。
 IT教育はそのきっかけをつくることだと思っています。興味を持った部分をいかにして伸ばしてやるかということです。
 本校はITを学園改革の柱の一つとして活用し、オンリーワンを目指した新しい教育とコミュニケーションをつくり上げる学校でありたいと思います。




21世紀に求められる 人間像とIT教育

慶應義塾大学  環境情報学部教授清木 康氏

経歴 一九八三年慶應義塾大学大学院工学研究科博士課程修了。工学博士。一九八八年筑波大学助教授を経て、一九九八年慶應義塾大学環境情報学部教授。現在、情報処理学会データベースシステム研究会主査、情報処理学会論文誌「データベース」編集委員長。

 二十世紀の日本は勤勉な国民性と全体として高い水準の教育が相まって驚異的な経済成長を遂げ、世界の一流国としての地位を築いてきましたが、ここ十年来は経済や社会の地盤沈下が取りざたされ、日本社会の古びた体質や構造の改革を果たして二十一世紀にふさわしい社会の再構築を実現することが求められています。人材の面においてもキャッチアップ型の産業発展を担ってきた、協調性と誠実性に富みながらも、反面、創造性に欠ける人材から、オリジナリティーある発想力や問題解決能力に富んだ人材が必要とされるような時代となってきました。
 すなわち、世界中にあふれる情報を獲得、収集し、分析、統合して自分なりの視点から新しい価値を付加して発信することのできる人材こそが二十一世紀に求められる人間像といってよいでしょう。
 学校教育においても、世界に伍して新しい時代を生き抜いていくための基本的な能力を備えた二十一世紀型の人材を養成する必要があると思います。
 二十世紀型の教育ないし情報収集の形態は、自分の所属する学校あるいは近隣の図書館などに情報源が限られていましたが、インターネットやマルチメディアが普及したこれからの社会は、世界中のありとあらゆる情報源から情報を収集し利用していくことが求められています。
 ゆえに学校教育においても、まず、第一段階でコンピュータやインターネット関連機器の機能を理解することと、操作をスムーズに行える条件をクリアすることが絶対に必要です。
 次の段階では各種情報機器を操作して情報を検索、蓄積し、保存する能力を身につけさせるべきでしょう。そして、第三段階では第二段階で収集した情報を整理、統合して自分なりの価値観や視点から分析し、再統合・加工を行って新たな価値が付加された情報として発信する能力を養成します。そして、表現能力としての外国語、とりわけ英語のスキルも不可欠の要素となります。
 第一の段階と第二の段階は通常の教育のなかで実現可能と思われますが、第三段階の能力を獲得するためには日常的にきちんとした訓練を受けることが必要です。つまり、その分野におけるトップレベルの知識や能力を情報として獲得し、そのエッセンスを抽出、分析して整理したのち、自分なりの方法論で再構築するというような訓練が必要となりますので、情報を広範囲に収集しながら解析したり、同一の目的を持つ他の人間やグループと交流するためのツールやシステムも必要になります。

不可能な情報蓄積が可能に

 二十世紀型の教育において使用する資料、情報は教える側で用意された単一の資料、情報を、学ぶ側が横並びで一斉に受け入れるような方法でしたが、そのような従来の方法では、情報量が圧倒的に少ないことと、教育の手法としての創造性に欠けてしまいます。
 二十一世紀に期待される人材を養成する教育においては、膨大な情報源の中から、個人が必要とする適切な情報を獲得し、創造性の高い情報発信を行うことが重要となります。その点、BITSは教える側の教師、学ぶ側の生徒それぞれが学習するテーマに沿ってインターネット上の情報を検索、収集して自分のデータベースに収め、それを成員同士で交換したり、補充したりして、個人では不可能な情報蓄積が可能な点を特徴としており、情報を中心としたコミュニティーを形成しながら従来の教材の枠組みにとらわれない新しい切り口の教材や教科の境界を横断するようなテーマを提出できるなど、情報獲得および情報発信に向けての多角的なアプローチが可能です。
 画一的なテーマを受動的に学習するのではなく、問題発見、解決方法提出型の能動的な学習態度を養う教育に向いているといえるでしょう。






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