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記事2002年10月3日 1862号 (8面) 
新しい食の専門家ますます重要に
食品の鑑別技術の必要性高まる
「食品の鑑別」フードスペシャリスト協研修会
基調講演 聖徳大学教授 飯野 久栄 氏


昨年の狂牛病問題以降、食品の表示違反は社会問題となっている。新しい食の専門家であるフードスペシャリストの養成課程を持つ大学・短期大学でつくる「日本フードスペシャリスト協会」(田村真八郎会長=元農林水産省食品総合研究所長)では、八月二十二日から三日間、「第三回フードスペシャリスト養成課程研修会」を開いたが、基調講演として飯野久栄・聖徳大学教授が「食品の鑑別」について話し、食品の鑑別技術の必要性を指摘した。ここでは飯野教授の講演の概要を報告する。

食品の表示問題が社会問題にも発展
 食品の表示違反は神代の昔からあります。最近では、昨年の狂牛病問題以来、輸入牛肉を国産牛肉だと偽って農水省から買い上げてもらったことが明らかになり、会社が倒産する事態も起こりました。それからも次から次へと事件が起こり、食品の表示問題が社会問題とまでなったことはいまだかつてなかったのではないかと思います。国民全体が食品表示に対して信用できないと懐疑心に包まれていると言っても過言ではありません。それを是正しなければならないが、それには決め手となる技術が必要です。フードスペシャリストにとっても食品を見分ける力は非常に重要な技術だと思います。それには知的なものと技術的なものと両方ありますが、そのどちらも身につけてフードスペシャリストらしい職場に就くということが好ましいのではないでしょうか。
 鑑別技術を手法別に分けてみました。
 まず物理的方法ということが考えられるわけです。これはいちばん手っ取り早い方法ではないかと思われます。その食品に何らかの物理的エネルギーを与えてその応答を機械で見るというのが物理的方法の手段です。その中でいちばん多いものは光エネルギーを使って、物の良し悪しを鑑別するということです。X線から遠赤外線まで波長の短いものから長いものまであり、物によって光の波長が選ばれることになります。
 紫外線は身近なものですが、これでどんなものが分かるか。まず、卵殻のカビです。紫外線を当てるとカビが光を出して、カビがどれくらい付いているか分かるわけです。これは完全に非破壊検査です。
 それからナッツのアフラトキシンです。イギリスでガチョウにアフリカから輸入したピーナッツを食べさせたところ、大量に死亡したという事件が起こりました。調べたところ、ナッツに付いていたカビが問題だったわけです。
 それがアフラトキシンという発ガン性の強いカビ毒だったわけです。

可視光線や物理的方法による判別など
 可視光線で判別する方法では第一にリンゴの蜜です。蜜の入ったリンゴは熟度が進んでいて非常においしいのですが、蜜は非常にブレークダウンを起こしまして、貯蔵するにはまずいのです。貯蔵果を選別するのに光を当て、蜜が入っているところは光の透過が悪いということで判別できる。そういうものを自動的にはじいて、蜜の入っていないものを貯蔵するということです。これも完全な非破壊で、全数検査ができます。
 近赤外線は非破壊検査の花形といわれるものですが、もともとはアメリカで開発された技術です。小麦のたん白含量を調べるのに使っています。近赤外線を当てると、たん白の吸収曲線が分かり、その吸収の度合いでたん白を測定するというのが、いまから三十年近く前にアメリカでは公定法に指定されていました。日本でも二十六、二十七年ぐらい前から、これが注目され出してきました。唐辛子の辛みのカプサイシンも近赤外線で分析します。
 赤外線もいろいろなものに使われるわけですが、牛乳のたん白、脂質、乳糖、固形物などの鑑別に使われます。
 物理的なものとして打音、たたいて判定するという方法があります。音でメロンの熟度を判定する機械まで開発されました。メロンの表面をたたく打音が熟度によって外側まで響いていく速度が違うのです。これは測定器として開発されました。
 次は化学的方法による検査・鑑別です。成分を分析して品質や品種を検査・鑑別するというわけです。いまではいろいろな機械でその成分を検証するということになっています。いくつかの機器分析の機械を挙げてみます。まず、イオンクロマトグラフィーですが、塩素イオンなどはこれですぐわかります。電子線マイクロアナライザーは無機元素が大体全部分析できるものです。それからGC―MAS。ガスクロで分けて、それを質量分析計で分析すると、これは何物かということが分かるということで、食品成分一般に使えます。

化学的方法の鑑別多様な機器で分析
 ケミルミネッセンス法は過酸化物を測定するもので、蛍光に発光したものをそれによって測定するということです。示差屈折率検出器は糖、アルコールなど、二重結合のない化合物に非常に効果を発揮します。ホトダイオードアレイ検出器はエキクロなどにつないで、ポリフェノールを検出するのに威力を発揮します。超臨界流体クロマトグラフィーによる分析でいちばん多いのは炭酸ガスです。炭酸ガスは最もガス化しやすいし、脂溶性成分ですので、脂溶性のビタミン、脂肪酸などを分析するにはこれが非常にいいのです。電子スピン共鳴法はフリーラジカルを測定するのによい機械です。フローインジェクション分析は、キャリアの液体と試料を一緒に流しながら発色させて、それを検出するというものです。糖やアミノ酸がいい対象ということになります。
 次は成分分析による方法です。代表的なものはK―値による魚の鮮度です。DNAによる方法は花形で、コメ一粒でもそこからDNAさえ取れば、それをPCRという方法で増幅して、それをDNA検査にかけます。そして、電気泳動に流すと特異なパターンを示すことから判定できるということです。それから無機成分による判別です。ササニシキだ、コシヒカリだといっていながら、そうでない品種を混ぜることが社会的にも問題になっています。同じコシヒカリでも魚沼産か茨城産か判定したいとなるとDNAでは駄目なわけです。品種が同じだからDNAは同じわけです。そこで土壌で判定します。生えている土壌の無機の成分が違うはずだというわけです。

官能検査による方法必要不可欠な技術
 最後に官能検査による検査・鑑別です。これはフードスペシャリストとしては絶対に見逃せない技術だと思います。フードスペシャリストの就職先はレストラン、スーパー、デパートの食品売り場、食品会社などです。食品会社ならば新製品の開発を血眼になってやっています。それには、とにかく市場に出してみて売れるものでなければ駄目です。同時にそれを企画、コーディネートするのはフードスペシャリストではないかと思います。ですから官能検査そのものに習熟していないと、そのような対応はできないのではないかと思うわけです。レストランでもお客さんに好まれるメニューは何かということが非常に大事なことであって、レストランをコーディネートするということの重要な業務の一つはメニューの開発です。チェーン店ではセントラルキッチンの責任は非常に大きいわけです。チェーン店にすべて同じメニューを配分するわけで、そこで全部味が決まってしまうのです。それからスーパーマーケットの惣菜コーナーでもこれだったら受けるという製品でなければお客さんから喜んでもらえません。必ず官能検査は必要なわけです。缶詰工場では出荷する前に打検棒でたたいて全数検査をします。私は若いころ缶詰工場に二カ月ほど研修に行きました。出荷ごとに毎日検査するわけです。目にもとまらぬ速さです。駄目なものをはじいて、山にしておくのですが、私が研修で泊まっていた宿舎が缶を捨てたところのわきで、夜眠っていると、ボーンボーンと爆発音がするのです。膨張缶がついに耐え切れなくなって爆発したのでした。
 そういうことで、官能検査は機械以上なところがあるのです。
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