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記事2002年11月23日 1872号 (8面) 
インターネット活用した授業とThinkQuestへの挑戦
神奈川大学附属中・高校の実施 神奈川大学附属中学・高等学校教諭 小林 道夫氏
情報データベース活用のほかウェブ制作で社会的な評価も


学校へのインターネット接続も一般的となり、パソコンを活用した授業への取り組みも多彩となってきたが、十分に使いこなすまでには相応の準備と日常的な積み重ねが必要だ。神奈川大学附属中学・高等学校(横浜市緑区)では、情報科担当の小林道夫先生を中心とした長期的な取り組みのなかで、正規の授業のみならず国際的な教材作成コンテストであるThinkQuestに課外活動として挑戦し、毎年好成績を残している。本紙では同校が今春行ったIT(情報教育)環境のリニューアルを含めて、小林先生にインターネットを活用した授業とThinkQuestヘの挑戦について伺った。


■ネットワーク活用授業への姿勢

 学校教育は生徒にきちんと知識を身につけさせることがまず第一ですが、単なる知識以外にも学校内外で身につけることはたくさんあります。コンピュータやインターネットを活用した教育は、それ自体が学校内に閉じこもらないという点で今までにない大きな特質であり、学校教育における新しい可能性があると思います。
 インターネットを活用する、情報データベースを活用する、また、自分が情報発信する主体になって、それを公開する、これを情報創造力といっていますが、この情報創造力は、自分がつくったものを人はどう見てくれるのか、あるいは自分はどういうものがつくれるのかということを認識することでもあります。
 これまではよそから提供されるものばかりだったのが、主体的に感覚的にできるようになる。いい加減な作品では人は見てくれない。間違ったものだと自分の責任になる。自分の視点を持たないとだれも見てはくれないということが分かってくる。そして、社会的な評価をしてもらえる。ウェブをつくることは最終的な自分のアウトプットですから、いろいろなものをつくり上げて評価してもらうということは素晴らしいことです。これがウェブ制作の教育的特質だと思います。

農業体験学習をウエブ制作
作品は整理してアップ

■デジタル表現の授業

 コンピュータ教育の中で、いまデジタル表現というテーマで授業を進めています。ウェブ制作、フォトショップを使った画像処理、それにアニメーション、ムービー制作がメインになります。ネットワークを利用したものとしては、ウェブ制作が中心となります。ほかには調べ学習でインターネットを使うことはよくあります。
 また、当校では中学三年生が、東北地方で農業体験学習を毎年五月に行っています。その体験をウェブとして制作しています。このウェブ制作は六月から九月にかけ実施していますが、夏休み期間中も二十日間ほど教室を開けていますから、制作する環境は常にオープンです。出来上がったウェブはローカルサイトで、だれでも見られるようにしています。
 また、昨年の作品を見て参考にできるようにデータは常に用意しています。紙である必要がないところが大きなメリットですが、学校内のポータルサイトはきちんと整備しておかなければいけません。先生がファイルを抱え込んでしまうと、どこに行ったか分からなくなってしまいます。生徒の作品はどんどん整理してアップすることが必要です。
 生徒たちは過去の制作物も参照できるので、ウェブ制作は年々質的にも向上してきています。スキル面、情報活用能力、編集能力も向上し、進め方も上手になってきています。

課外活動でThinkQuestに挑戦
4組の生徒達が受賞

■「コミュニケーション」教育への取り組みからThinkQuestへのチャンレジ

 ウェブ制作以外の取り組みとしては、「コミュニケーション」があります。インターネットでの国際理解交流ということですが、長期にわたって交流したり、全員がメールを書くのは大変難しいことですので、授業プラス課外活動という考え方をしています。
 こうした取り組みの中から、ThinkQuestの話があり、チャレンジしてみようということになりました。今年、ThinkQuestに申し込んだのは十六グループ、各グループは三人で構成されています。ウェブが完成したのは十二グループで、一次審査を通ったのは五組でした。ファイナリストに進んで、受賞した四組の生徒たちのコンピュータスキルはそれほどレベルが高いわけではありません。ThinkQuestに関してはコンピュータ操作のスキルよりも、過去の作品を見て、すごいな、自分も作ってみたいということがモチベーションになるような生徒が適しているように思います。まず、このチャレンジにはThinkQuestの目的は何かをはっきりすることが大切です。ウェブが高い評価を受けるには五十ページ以上は必要であるとか、インタラクティブな部分もあったほうがいいといったアドバイスは教師がします。制作のスケジュールの立て方もアドバイスします。

ウェブを作るにはモチベーション重要

 ウェブをつくるには、スキルの問題よりも作業をスムーズに進めることの方が重要だということが分かってきます。ストーリーを仕立てて、頭で理解していても、実際にやるのは大変です。やる気があって、技術力がなければいけませんが、むしろ生徒たちには成功のイメージ、喜びのイメージができていることも大切です。そうして進めていくと、理解しやすいページはどうやってつくるのか、きれいなデザインとは何かということを話し合うなかで、非常にまとまったものができるようになってきます。
 グループ研究ですから、取り挙げるテーマが初めから適切でないものもあります。テーマを決めることは大変重要ですが、どうしても社会科学系のテーマが多くなってしまう傾向があります。数学、自然科学系が少ないので、今後はそこを何とかしたいと考えています。
 コンピュータの授業は教え込む授業とは違い、教え合う部分がとても大きいと思います。特に、当校生徒のパソコン所有率は九割以上なので、生徒たちにはコンピュータ操作の感覚的ベースはありますから、得意な生徒がソフトの操作方法などを他の生徒に教え合うところがごく普通にあります。

総合的学習で活用が急増
大学と提携、効果的に

■コンピューター教室を増設、情報教育環境をリニューアル

 本校では今春、コンピュータ教室を増設し、コンピュータ台数も増やし、強力なネットワークとサーバーシステムも整えました。
 その理由は、新しいカリキュラムを導入した結果、総合的学習の時間などでパソコンを活用する授業が劇的に増えて、このままではコンピュータ教室がパンク状態になってしまうからです。
 準備室にはファイルサーバーとウェブサーバーとを置いていましたが、千二百人以上の生徒のデータがありますから、ユーザーアクセス権の設定などを考えると、サーバーが持たない。そこで、大学の確立された設備に附属中高のサーバーを載せてもらいました。大学とは専用のギガビット回線でつながったので、授業で一斉に四十台以上のパソコンを稼働させてもストレスはありません。
 当校には現在、マックルームとウィンドウズルームの二教室があります。それぞれの教室の利用状況に違いがありますが、それはマックルームのソフトウエアが今のところ少ないからです。ただ、この夏休みを機にマックOSXのアプリケーションも増えてきました。ウィンドウズルームには2000のOSが入っていますが、両方で閲覧が可能でなければ意味がないので、データを一括管理するためにユニックスサーバーを置いています。アプリケーションがそろえば両方の教室はもっと有効に活用されるようになると思います。

ソフトとハード整備必要

 インターネットを生徒が使う際にフィルターはかけていません。限られた資金をどこに使うかと考えると、まずパソコン台数を多めに整備すること、ソフトウエアをきちんと導入することが重要でした。ソフトとハードの整備こそがまず当面の課題だったのです。フィルタリングのソフトも当然考えましたが、とても高価ですし、アップデートも必要です。問題があれば来年の予算に組み込むことにしていますが、特に現在まで大きな問題はありません。インターネット利用上のルールとしては、「コンピュータネットワーク利用規程」を定め、全生徒、保護者に配布し、徹底させています。利用上の細かい問題はありますが、フリーにしておいてリテラシーの中で教えていくという方向でいます。
 また、生徒たちには、コンピュータ整備にどれだけお金がかかって、そのお金はみんなの授業料だけでなく、国も補助しているとか、トラブルがあるとどれだけの人が困るといった話はよくしています。そういう意味では、事件やトラブルを情報公開して話をすれば生徒はコンピュータについてそれなりの扱いをするようになります。

ウェブ制作は自分の評価につながる


コンピュータの授業は教え合う部分が必要

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