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記事2002年11月23日 1872号 (1面) 
新しい教育基本法の在り方等中間報告 中教審が文科相に提出
私学振興への留意促す
伝統や文化の尊重重要 宗教教育などなお課題
大学改革推進、生涯学習社会実現 「公共」精神など理念に
中央教育審議会(会長=鳥居泰彦・日本私立学校振興・共済事業団理事長)は、十一月十四日、東京・霞ヶ関の会館で第二十六回総会を開き、昨年十一月の諮問以降、検討を続けてきた「新しい時代にふさわしい教育基本法の在り方」と、今後五年間、重点的に実施する文教施策を掲げる「教育振興基本計画」の基本的あり方に関する中間報告をまとめ、遠山敦子・文部科学大臣に提出した。
 昭和二十二年に制定された現行の教育基本法は、真理と平和や人格の完成など今も重要な教育理念を謳っているが、その一方で、個人の自己実現と個性・能力の伸長、創造性の涵養、「知」をリードする大学改革の推進、「公共」に関する国民共通の規範の再構築、生涯学習社会の実現などの理念・原則が不十分なことから、そうした点を補うために見直すもの。
 また教育振興基本計画は、新たに教育基本法に根拠規定を設け、政府全体として未来への先行投資である教育を重視していくとの意思表示といえるもの。
 新しい教育基本法に盛り込むべき基本理念の一つに挙げた「日本人としてのアイデンティティ(伝統、文化の尊重、郷土や国を愛する心)」に関しては、かつての偏狭なナショナリズムを連想するとして反対あるいは抵抗感を示す委員も少なくなかったが、中教審では「国際社会に出て行けばいくほど、自らを日本人として意識する機会が増え、自国の存在について無関心でいることはできず、国際社会における自国の地位を高めようと努力することは自然な動きである。このような思いが、国を愛する心に繋がるものであり、その前提として自らの郷土や国について正しい理解を持つこと、例えば郷土や国の伝統、文化を正しく理解し、尊重することが重要になる」とし、国家至上主義的な考え方や全体主義的なものを指しているのではないことを強調、世界に生きる日本人に向け新たな歩みを進めた。
 また私立学校に関しては、学校の役割を規定する際に私立学校の大きな役割、私立学校教育の振興の重要性を踏まえたものとすべきだとの意見にも留意する必要があると提言している。
 このほか感性、自然や環境とのかかわり、社会の形成に主体的に参画する「公共」の精神、道徳心、自律心、時代や社会の変化に対応した教育、職業生活との関連の明確化などの新たな基本理念が必要としている。
 一方、教育振興基本計画に関しては、確かな学力の育成、個性、才能を伸ばす教育の実現、柔軟な教育の仕組みの導入、優れた教員の養成・確保、教育施設・設備等の整備・充実、保護者・住民に信頼される学校づくり、私立学校教育の振興、豊かな心の育成、自立心の育成、幼児教育の充実、健やかな体の育成に向けた取り組みの充実、「知の拠点」を支える教育研究環境の整備、家庭の教育力の向上、男女共同参画に関する教育・学習の推進などを、同計画に盛り込むべき施策の基本的な方向と定めている。
 中間報告がまとまったことから、今後は十一月末から十二月中旬にかけ全国五カ所(東京・福岡・福島・京都・秋田)で一日中教審(公聴会)を開くほか、中教審の基本問題部会で学識経験者や教育団体等から意見を聴取する。また国民から広く意見を募集する。その後十二月中旬には総会での審議を再開し来春にも答申をまとめる予定。

今後の課題
就学年齢を弾力的に 学校種間の連結も多様化

 中央教育審議会は、十一月十四日、新しい時代にふさわしい教育基本法等に関する中間報告をまとめたが、十分な審議ができず答申に向け先送りした課題も少なくない。宗教教育もそのひとつで、「異文化理解の観点から重要」「あらゆる宗教に共通する普遍的な宗教心を教えることが必要」と指摘する意見がある一方で、「カルトから身を守ることを含め、自ら考え判断する態度は、必ずしも宗教教育によらなければ育成できないものではない」「国公立学校では宗教によらない道徳教育を行うべきで、宗教教育は基本的に家庭や個人の問題である」との意見も聞かれた。憲法の規定から、今後も国公立学校においては特定の宗教のための宗教教育やその他宗教的活動を禁止する原則は大切にしていく方針だが、教育基本法見直しの大きな焦点のひとつだ。
 また子どもの人格尊重の一方で、子どもが教育を受ける際に、恣意に任せて規律を乱す等の言動は容認されるものではなく、教員その他の指導に従って、規律を守り、真摯に学習に取り組む責務があることを規定するかどうかの問題、教育の機会均等に関し、「教育を受ける機会」とある規定を「教育を受ける権利」あるいは「生涯にわたり学習する権利」とするかどうか、学校の役割をどう位置づけるかなども今後の検討する課題となっている。
 さらに教育基本法の見直しに合わせて、学校教育法上で、就学年齢を発達状況の個人差に対応した弾力的な制度とすること、学校区分に関して小学校課程の分割や幼小、小中、中高など各学校種間の多様な連結が可能となる仕組み、保護者の学校選択、教育選択の仕組みの実現に向けた法的措置等の検討が必要としており、学校種ごとの目的・目標や教育振興基本計画に盛り込むべき具体的施策などと合わせ、中教審の関係分科会で検討が進められることになる。このほか国、地方公共団体以外で唯一学校の設置者となれる「法律に定める法人」の範囲についても必要に応じての検討が必要としている。

遠山文科相に中間報告を手渡す鳥居・中教審会長

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