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記事2002年5月3日 号 (4面) 
質の高い法曹教育の実現へ
司法制度改革に関する動向
文部科学省の諮問機関の中央教育審議会では大学分科会に法科大学院部会を設置、大学院制度としての設置基準、学位、入学者選抜などの課題を中心に検討を行い、四月十八日に「法制大学院の設置基準について」(中間まとめ)を公表した。一方、昨年十二月に司法制度改革推進本部(小泉純一郎本部長)が発足、今年から法科大学院の第三評価(適格認定)の在り方や新司法試験・司法修習の設計など、同審議会の意見を踏まえた法曹養成制度の具体的な検討が進められている。また、政府が三月十九日の閣議で決定した「司法制度改革推進計画」では、司法制度とその基盤整備に関しての措置内容、実施時期等を定めた法科大学院設置法案と、大学院設置に伴う司法試験法改正案を秋に想定される臨時国会に提出する方針だ。この間、法曹界でも法科大学院についての構想が発表されており、“質の高い法曹教育を実現するパイロットスクールを設立、法科大学院のあるべき姿を創りあげる”ことを目指す動きも出てきた。

第二東京弁護士会群馬法律専門学校と提携
法科大学院設立を支援

 第二東京弁護士会(以下、二弁井元義久会長)が、群馬弁護士会とともに群馬県・前橋市にある群馬法律専門学校(那須弘平理事長校長)を活用し、積極的に関与して法科大学院の設立・運営を支援することを、このほど決めた。
 二弁では平成十年四月に法曹養成二弁センターを発足させ、法科大学院について積極的に具体的な提言を行ってきたが、“弁護士会として法科大学院の設立・運営に積極的に関与すべきではないのか”という認識の下に、同大学院設立に向かって具体的に必要なリサーチを行ってきた。
 法科大学院は学校法人組織であることが必要なため、大学院設立基準(校地、校舎などの教育施設など)をクリアする必要がある。東京都内で土地を取得し校舎を建築する場合、数十億円の投資が必要になってくる。しかし、二弁に群馬法律専門学校から法人格も含めて、不動産等の無償提供が可能だという話が持ち上がり、既存の専門学校を引き継ぐことになった。
 群馬法律専門学校は昭和二十六年に創立され、法律を学ぶ人たちを支援、地域社会に根ざした多くの法曹を輩出してきた。しかし、最近学生の減少が続き、来春に学生を卒業させ廃校が検討されていた。
 二弁では平成十四年二月に「法科大学院設立・運営支援検討委員会」を設置、同大学院設立・運営について、ソフトの面で具体的に企画・立案・検討、実行することにした。
 二弁の同大学院についての構想は、学生数は一学年五十人(法学既習コースは設けず三年制のみ)程度を想定。教員は設置基準通りだが、一学年専任四―五人程度で、いわゆる常勤実務家教員は一人。学費は年間二百万―二百五十万円程度を目安としている。平成十六年四月に開設するために、十五年四月から学生募集を開始し、十三年度中に認可を取得する。
 大学の教員とこれまで意見交換をしてきた、二弁の前副会長で山口健一同委員会副委員長は、法科大学院は実務との架橋を強く意識した教育が中心となるが、大学教員の実践的な教育についての可能性について疑問を投げ掛ける。また二弁の伊達俊二副会長は「大学がつくる場合、どうしても大学間で合格者数の点で競争が始まる。すでに司法試験予備校の講師の引き抜きが始まっている。これでは理想的な法科大学院がつくれなくなってしまう」ことを指摘する。
 法科大学院開校に当たって、残された問題として経済的に富裕層でない者の、法曹への道が閉ざされるという危惧がある。
 これに対しては、二弁では「確かに大学へのアンケートによれば私立大学院の年間授業料は二百万円を下らない。だからこそ弁護士会が政府保証ローンや奨学金制度の充実を働きかけつつ、自ら利益目的でない、良質の法科大学院を開設する必要がある」(「だから二弁はロースクールを創る」平成十四年二月十三日、久保利英明前会長)としている。
 二弁の同大学院設立に対する思いは強い。二弁が平成十一年十月十二日に発表した「法科大学院問題に関する提言」では「(1)法曹養成の運営主体は司法官僚であってはならず、法曹一元と親和性の高い法科大学院を二〇〇三年四月までに設立すべきであること(2)法科大学院においてなされる実務教育は、弁護士が教育をつとめるべきであり、とくに臨床的法学教育は、弁護士会が主体的に運営すべきである」と強調している。

国私立90大学が集合
準備会長に奥島氏 法科大学院協仮称設立準備会

 法科大学院協会(仮称)設立準備会の第一回会合が四月二十三日、東京・市ヶ谷の私学会館で開かれ、法科大学院の設立の準備をしているおよそ九十の国私立の大学が集まり、目的・基本組織などについての承認、準備会の会長選任、および文部科学省における同大学院検討状況についての報告などが行われた。
 同協会は法科大学院への入学者選抜の方法、教育内容・教育方法、教員研修の在り方、司法試験や司法修習に対する要望、学生に対する奨学援助の充実、および同大学院の財政基盤の確立などについて、大学が相互に情報と意見を交換することを通じて、同大学院制度をわが国における法曹養成制度の中核として定着させるために共同で努力しようとするもの。
 準備会では奥島孝康・早稲田大学総長が準備会長に選出された。
 設立準備会の主要な事業である入学者選抜、適正試験の実施、カリキュラム・教育方法の検討、教員研修、司法試験などについて具体策を検討、立案し、それを実施するために各種委員会を設置する。
 また、同大学院の設置認可が予定されている平成十五年十二月以後、「法科大学院協会(仮称)設立総会」を開催し、目的、基本組織、業務などを決定するものとする。実務法曹や有識者などからなる顧問会議を設置、同大学院の在り方や同協会の業務遂行について必要な助言を得る。
 今後、同協会は文部科学省の設置認可を持って、正式に発足する予定だ。


【日本弁護士連合会法科大学院設立・運営協力センター】

財政支援制度の充実
奨学金制度充実など要望

 日本弁護士連合会法科大学院設立・運営協力センターは平成十三年四月に法科大学院のカリキュラム案を発表したが、その後、同センターは司法制度改革審議会の意見書を踏まえ、あるべき法科大学院の設立を目指し、第三者評価の在り方、新司法試験の在り方、法科大学院の入学選抜の在り方、実務家教員の養成などについて検討を行い、十三年十一月「討議資料プロフェッショナル・スクールとしての法科大学院」として公表した。
 また、十三年十二月七日、同連合会は「法科大学院の財政支援制度の充実について」、塩川正十郎・財務大臣に要望書を提出している。要望書の内容は次の通り。
 「1.法科大学院の初期投資の相当部分と運営費の一定部分に対する予算措置および公費補助の制度を充実すること、2.
財団法人日本育英会の奨学金制度等の公的な奨学金制度を充実するための予算措置を講じること、3.政府・自治体保証型ローンの創設、奨学金や教育ローンに対する政府・自治体による利子補給、弁護士の公益的活動と結びついた奨学金返済猶予・免除プログラムの整備などを、あわせて検討すること」
 法科大学院はプロセスを重視した少人数教育を中心とする法曹養成機関であるため、学生一人当たりにかかるコストはかなり高額になる(年間約百五十万―二百五十万円程度と見込まれている)ことが考慮されている。
 この点、特に私立大学については、「学費が高額になるおそれが大きいため、新しい法曹養成制度を整備する見地から、端的に公費補助を充実させるべきである」と提案している。
 また、同連合会は十四年一月二十八日に「評価基準と評価作業のあり方について」を公表し、設立された法科大学院についての第三者機関による適格認定については、三つの観点から「定期的に検証されていなければならない」としている。三つの観点は
 (1)入学者選抜については、法学系学部以外の出身者にも広く門戸を開放するとともに、経済的理由で法曹への道を断念することがあってはならないように配慮すること。
 (2)「国民の社会生活上の医師」としての法曹を育てる教育が行われているかどうかの観点から、授業科目・方法などを評価すること。
 (3)一年次からプロフェッショナル教育にふさわしい教育を行い、法学既習者のための短縮型はその選定に当たって、教育目的・教育計画を踏まえて適切な方法が設定されるべきであること。

【法科大学院の設置に関する調査・司法制度改革推進本部】

設立予定私立47、国立24大学
4割が昼夜開講制予定

 司法制度改革推進本部は平成十三年十二月十九日、法学関連の学部・研究科を設置する大学を対象に実施した「法科大学院の設置に関する検討状況の調査」を発表した。調査した大学は私立八十五、国立二十九、公立三の百十七大学ですべての大学から回答があった。
 「法科大学院の設置予定」
 設置予定のある大学は七十三大学で、このうち私立は四十七大学、国立は二十四大学だった。また、検討中の大学は二十五大学で私立大学は二十二大学となっている。
 私立大学で設置の予定のない大学は十六大学。
 設置を予定している大学は、調査対象大学の約八○%に上った。
 「設置予定年度」
 設置を予定している大学の約八○%に当たる七十六大学が、二〇〇四年度の設置を予定している。このうち、私学は四十九大学となっている。
 「設置形態」(重複)
 設置を予定している大学の約四割に当たる三十九大学が社会人らの受け入れに配慮した昼夜開講制を考えている。昼間制形態をとるのは六十五大学で、このうち私立は四十三大学。夜間制を予定している八大学のうち、七大学が私立大学。
 「入学者数の規模別大学数」
 最も多かったのは、入学者三十一五十人までが四十大学で、私立二十六大学が含まれている。続いて同三十人以下が二十三大学で、私立が十八大学。約三分の二に当たる六十三大学が五十人以下の入学者数を予定している。同二百五十一三百人を予定している私立が一大学あった。
 「法科大学院の授業料」
 最も多かったのは、百五十一万二百万円の間で、続いて二百一万二百五十万円で十三大学。
 そのほか、法科大学院制度の実現に伴う課題として、法学部の在り方についての意見のうち、「法学部を存続する必要があるが、教育内容の在り方等を見直す必要がある」(四十六大学)が最も多く、さらにこの中では「法律的素養を備えた幅広い人材(ジェネラリスト)を養成する」が二十一大学あった。
 また、司法試験の在り方についての意見のうち、「司法試験の在り方を大きく見直す必要がある」(四十九大学)が一番多く、中でも「法科大学院教育の成果を試すものとすべきである」(十四大学)が最も多かった。






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