こちらから紙面PDFをご覧いただけます。



全私学新聞

TOP >> バックナンバー一覧 >> 2002年9月3日号二ュース >> VIEW

記事2002年9月3日 1857号 (12面) 
学校法人明星学苑 明星小学校が新校舎完成で躍進
“大地、緑、教育”を旗印に
人権感覚を深く豊かに

明星学苑理事長斎藤 和明 氏


明星小学校校長清水 正人 氏

【21世紀を担う私学教育】

 学校法人明星学苑(斎藤和明理事長、本部=東京都府中市)が府中キャンパスで建て替え工事を進めていた明星小学校(清水正人校長)の新校舎が八月に竣工し、旧校舎からの移転が着々と進んでいる。過去十年来計画が実現したもので、児童が落ち着いて学べる環境が整った。ここでは昭和二十五年の開校(児玉九十初代校長)以来、半世紀を超す歴史を誇る明星小学校の教育理念・教育課程を踏まえ、新校舎の特色と施設概要、カリキュラムとのかかわりなどについてまとめてみた。


知・徳・体の調和を 総合学習に「くぬぎの時間」
教育の特色

 学校法人明星学苑は、幼稚園から大学までの総合学園である。明星小学校は“大地と緑と教育と”を旗印にして、明星学苑府中キャンパスの緑あふれる環境の中で一学年約百二十人(一学級当たり平均約四十人)、全校児童約七百二十人が知・徳・体の調和を目指す親身の人間教育を受けて伸びやかに育っている。
 特に、背筋を伸ばし、心を落ち着かせて物事を考える“凝念”は明星学苑創立者で明星小学校初代校長でもある児玉九十氏の教え。現在に至るまで脈々と受け継がれ、学習活動への集中力を高めるだけでなく、健康維持にも役立っている。
 カリキュラムは一・二年生が「解放」、三・四年生が「挑戦」、五・六年生が「深化」をテーマに掲げて組まれている。
 教科の枠にとらわれない総合的な学習として全学年が「くぬぎの時間」に取り組むことも特色だ。地元・府中市の南を流れる多摩川の流域や支流の様子などを調べて発表する活動はユニークで、児童が積極的な姿勢で取り組んでいる。地域社会への理解を深め、環境問題への関心も高まり、過去二年間の活動報告書の内容も、手作りの活動の様子を生き生きと伝える充実した出来映えとなった。
 音楽・図工・英語は一年生から、理科は三年生から、家庭科は五年生から専科授業。五年生からは教科担任制となり、学力の充実が図られる。また、一年生から外国人教師による英語教育を実施し、コンピュータ学習も三年生から特設している。英語およびコンピュータ学習のカリキュラムには、総合学習の要素も盛り込まれている。
 これら先進的な試みのほか学校完全週五日制に対応し、土曜日は教科以外の諸行事や家庭学習、友達との交流の日としている。行事の中でも二・三年生の「緑の教室」や四年生の「海辺の教室」など、二年生以上の児童が二十四時間の宿泊学習に参加し、人や自然とのふれ合いを体験して豊かな情操をはぐくむ。また、秋の「明星祭」では、展示発表やステージ発表を通して、日ごろの学習の成果を公開している。
 健康・体力づくりの面では、全校的になわ跳びを奨励しているほか、水泳指導なども熱心に行われている。
 クラブ活動では「拳法クラブ」をはじめとする十四クラブのユニークな活動を展開している。
 特別に編成されている「ブラスバンド」「FC明星」「合唱団」は校内の行事や校外のイベントに出演するなど活躍している。その成果は、地域のみならず広く評価を受けつつある。

 小学校卒業後の進路としては、同じ府中キャンパスにある明星中学・高校が来年度から共学の一貫教育校となる予定で、同校には明星小学校からの学苑内進学者(優先入学制度)が多い。
 このほか東京・埼玉・神奈川の一都二県を中心に、著名私立中学校への進学実績も年々高まっている。

教室は1.5倍の広さ くぬぎホールなどゆとりと機能重視
新校舎の特色

 明星小学校の新校舎は木々の緑豊かな府中キャンパスに映えるよう、大地の色を強調した外観が特徴の一つ。
 学苑の緑の中でも明星小学校のシンボルといえるのが、開校以来の環境を保つクヌギの木。同校独特の総合学習も「くぬぎの時間」と呼ばれている。これにちなんで新校舎にも、一階の昇降口を入って正面の位置に、来校者が吹き抜けから全クラスの教室を一望しつつ憩える空間として「くぬぎホール」(多目的ホール)が造られた。
 新校舎は、鉄筋コンクリート造り・地上三階建て。総床面積は約七千二百平方メートル。直方体のような外形になった。新校舎の設計は校内の安全管理面からも死角が少なく、従来は二カ所あった昇降口が一カ所になり、教職員の目が行き届きやすい構造になっている。
 昇降口の真上に体育館(二・三階)が位置し、各階とも校舎中央の吹き抜けを囲む東・南・西の三方に、回廊状に教室が配置されている。
 一学年三学級ずつの普通教室は従来の一・五倍の広さを確保しており、すべて南側に並ぶ。一・二年生は一階、三・四年生は二階、五・六年生は三階。低・中・高学年ごとに目標を定めている同校の教育方針に沿う形が整った。
 廊下を広い「ラウンジ」としたことも特徴。教室のドアは可動式で、授業の内容によっては弾力的にラウンジに張り出せるようにしてある。ティームティーチング(複数の教師が共同で教える)を多く取り入れているため、その幅広い展開という観点からも、十分な広さが確保できた。
 主に実技科目に使われる特別教室は、多目的の利用を想定して有機的に配置されている。二階の音楽室はラウンジを隔てて体育館と向かい合い、発表会などを開く際に楽器を運び込みやすくなった。また、図工室を「造形室」と呼ぶほか「細かい使い勝手に関しても専科教員のセンスが随所に反映されている」(清水校長)。
 「コンピューター室」前のラウンジは特に「メディアラウンジ」と称して、最新機器を使ったコンピュータ学習に対応できるインフラを備えた。このほか新校舎全階で“どの教室・ラウンジでもパソコンを利用できる環境”が整っている。

急速な情報化に対応
10年かけて設備、機器導入計画

 情報教育については、過去十数年の間に学校教育の情報化が急速に進んだ。短期間に多機能の新機種が続々と発表され、求められる環境が目まぐるしく変化したため「いつの時点で、どのような設備・機器をどれだけ導入するか」の判断が難しかったという。しかし、ここ数年間でネットワークパソコンをインターネットに接続するという一応の設備水準が確立し、「十年以上前から長い時間をかけて校舎新築やカリキュラムづくりの計画を練ってきたことが幸いし、設備・機器の必要度を確かめて慎重な判断ができた」(清水校長)。
 また清水校長は、長期計画で取り組んだことにより、教職員の意識の面でプラスの変化が見られた点を指摘し、「当初、導入しようとした最新の教材について、活用方法の検討を重ねるうち『人気の教材だから導入するのではなく、実際に必要だからこそ入れる』という確固たる考えに変わっていった」と話す。
 このほか、新校舎には目立たない部分にも工夫が凝らされた。地下には大型貯水槽が設けられており、雨どいを伝って水が流れ込む仕組みになっている。これによりトイレの流水や校庭にまく水をまかなうことができ、水資源の節約効果があるだけでなく、水道料金のコスト削減効果も大きい。清水校長は「雨水の活用で、新校舎自体が水に関する環境教育の教材になり得る」と話している。


「凝念」の教え受け継ぐ 国際化にも対応し教育改革
明星学苑理事長斎藤 和明氏

 明星学苑には、創立当初から“凝念”(念を凝らす=姿勢を正し、心を鎮めて物事に対する)の教えが伝統として受け継がれています。創立者・児玉九十先生は洋の東西を問わず幅広く教育に肝要な考え方を取り入れ、特に儒教、中でも実践的な陽明学を重視して人間教育を基本理念とされました。体験を重んじる明星小学校の教育にも、その理念が色濃く映されているといえるでしょう。
 私自身も明星中学・高校に学んだ学苑OBの一人ですが、在校当時は体験に基づく実践の大切さを教わり、外面的な“いい人”ではなく“隠れた場所でも人知れず良い行いができる人”になるように、また、自らの進路として「本当にやりたいこと」を見つけるようにと、親身の「真心ある指導」を受けました。その良き伝統を受け継ぎながら、国際化など時代の変化に対応したカリキュラム改革、長期的な視点での財政基盤確立に努めているところですが、今後も多くの方々のご意見をうかがいながら、学苑の内外ともに開かれた運営を心がけてまいります。
 来年四月からは学年進行で明星中学の男子部・女子部を共学化し、高校までの一貫教育へと移行します。校舎も新築し、小学校と同様、武蔵野の土と樹木の緑を基調として学苑のイメージを高めたいと望んでおり、皆さまのご指導ご支援をお願い申し上げます。


「正直なよい子」
人間教育に力地域密着型の活動 明星小学校校長清水 正人氏

 約七百二十人の児童が集う本校は一昨年に創立五十周年を迎え、今年は新校舎が完成という節目の時期を迎えました。しかし、創立以来の「正直なよい子」を目標とする教育理念には変わるところはありません。
 おかげさまで、児童はあいさつのしっかりできる子に育っていますので、今後も時代変化に対応したカリキュラムを立てつつ、本来の人間教育にさらに力を入れてまいります。
 現在、児童は地元・府中市や隣接各市はもとより、電車通学で東京二十三区内や埼玉、神奈川からも通っています。これは一つには、かつての在校生が父母の代になり、ぼちぼち祖父母の代に及んで、多くの子女が入学するようになったことも大きいでしょう。
 そして何よりも、半世紀の歩みの中で地域の枠を超え、本校の認知が広まったものと自負しております。
 最近では、総合的な学習として四年目を迎えた「くぬぎの時間」において、児童が多摩川について主体的に学んでいるほか、編成まもない合唱団が「府中の森芸術劇場」で開かれたウィーン少年合唱団の公演に出演するなど、地域での活動にも成果を重ねています。
 本校の初代卒業生の一人としても、新校舎竣工には感慨ひとしおのものがあります。今後も恵まれた環境を大いに生かし、人間教育を実践してまいりますので、ご指導ご鞭撻をお願い申し上げます。


【明星小学校の歩み】

▽昭和25年=一・二年生児童七十人で開校、児玉九十・初代校長就任
▽27年=第一回海の学校
▽28年=英語授業開始
▽30年=第一回卒業式、全校児童文集第一号発刊
▽35年=創立十周年記念式▽37年=学苑プール開き、水泳学習開始
▽42年=海外(サウジアラビア・カフジ)へ教師派遣、学苑八ヶ岳山荘が完成・「山の学校」開始、「海外勤務者子女教育」で文部省(当時)の研究指定校に
▽44年=全学年「松・竹・梅」の三学級(全十八学級)体制確立
▽45年=創立二十周年記念式▽46年=明星大学黒姫山荘で第一回スキー学校
▽50年=外国人教師による一・二年生英語授業開始
▽53年=児玉三夫・第二代校長就任
▽55年=創立三十周年記念式
▽56年=小学校専用プール新設
▽59年=ブラスバンド編成
▽60年=サッカー「FC明星」編成
▽平成2年=創立四十周年記念式
▽3年=四年生以上のコンピュータ授業開始
▽6年=宿泊行事を系統的に再編成
▽7年=児玉伸雄・第三代校長就任
▽8年=清水正人・第四代校長就任
▽10年=隔週学校週五日制実施
▽12年=「くぬぎの時間」(総合的な学習)特設、創立五十周年記念式
▽14年=新校舎完成




記事の著作権はすべて一般社団法人全私学新聞に帰属します。
無断での記事の転載、転用を禁じます。
一般社団法人全私学新聞 〒102-0074 東京都千代田区九段南 2-4-9 第三早川屋ビル4階/TEL 03-3265-7551
Copyright(C) 一般社団法人全私学新聞