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全私学新聞

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記事2003年10月23日 1910号 (5面) 
私学経営に関するアンケート調査
全私学新聞アイエスエイ
まず教職員の意識改革 教育ビジョン、リーダーシップ育成
  全私学新聞運営委員会と株式会社アイエスエイ(東京都渋谷区)学校経営コンサルティング部は、少子化や長引く不況等で厳しい経営環境に立たされている私立中学・高校の抱える課題や経営意識、今後の経営戦略等を調査するため、今年九月中旬から十月上旬にかけて、全国の私立中学・高校千六百校を対象に、「私学経営に関するアンケート調査」を実施しました。十月七日までにご回答をいただいた五百三十七校について集計・分析結果を報告します。


教職員の能力向上突出 高い生徒募集活動の強化

【1、経営課題】

 学校長がとらえる経営課題として「教育内容の充実」を挙げた学校が七六%、「教職員の能力向上」が七〇%、「生徒募集活動の強化」が五七%あり、経営課題の項目に対する延べ回答率としてこれらの三つの項目が全体の約七割(六九%)を占めている。特に、「教育内容の充実」の経営課題の内訳として「教職員の授業力・指導力向上」への回答率が約八四%と突出しており、教職員の指導力の向上への高い関心がうかがえる。以下、「経営戦略の策定」が三九%、「組織・人事制度の整備」が三二%、「危機管理」が一一%と続くが、学校長がとらえる経営課題として「学校全体の情報化戦略」の回答率が五%と最低となっている。これは民間企業では重要な経営課題として扱われている情報技術の活用が、私学ではあまり経営戦略として認識されていないことを浮き彫りにしている。

【2、経営戦略】

 経営戦略として「経営計画の策定」が六三%、「経営計画の実施」が五〇%の回答率があり、経営戦略の項目に対する延べ回答数としてこれら二つの項目が、全体の四割となる。「学校法人運営上の適正規模」の回答率も四二%と高く、財務体質を強化し、経営課題の解決に向けて、計画的な手順で具体策を立案、実行していこうとする学校長をはじめとする経営陣の意思が読み取れる結果といえる。また経営戦略として「小・中学校の新設」の回答率は全体の五%だが、高校単独校では一一%となっている。

【3、組織・人事】

 経営課題として「教職員の職務の明確化」では三〇%の回答率があり、教職員の職務分担、職務責任など不明確さ・曖昧(あいまい)さなどが実態として明らかになったといえる。職務が不明確だと、一部の教職員に仕事が集中し、職務に対する不公平感が生まれやすくなる。職務を整理して、職務の再配分と役割責任を明確にしていく改善策が求められる。また、「年功序列・賃金制度改革」が二六%、「人事考課制度の整備」が二四%の回答率で、組織・人事の項目に対する延べ回答数としてこの二つの項目が全体の四五%に及ぶ。実態としては、人事考課制度の導入例は多いとは言えないが、制度導入には強い関心がうかがえる。


個性生かす多様な進路 まず教員の能力開発

【4、教育内容】

 私学の教育内容については、進路実績、教育内容の充実、外国人講師について質問した。進路実績で最も重要になると思われる点として、五七%の学校長が「生徒の個性を生かした多様な進路の実現」を選択した。二番目の「東大・京大など国内難関大学への合格実績」が約二〇%の回答率であり、他の選択肢はいずれも一けた台の回答率だったことを見ても、多くの学校長が生徒個々の望んでいる進路を実現していくことが重要だと考えていることがわかる。学校経営上は難関大学合格実績も大事だが、現実的には生徒の希望をかなえることが重要だと判断しているようだ。
 教育内容の充実について学校長が最も考えているのは、「個々の教員の授業力・指導力の向上」であり、約八四%という高い回答率を示した。まずは教員の能力開発が重要だという認識は多くの学校長で共通のようである。また、「基本的学習態度の習得や基礎学力の向上」と「進路指導の強化」が約三八%、三四%と二番目、三番目の回答率となった。教育の基本となる学習態度と基礎学力を生徒に身につけさせることと、出口となる進路指導の強化充実が大事であるという考えがわかる。これらのポイントも圧倒的な回答を集めた「個々の教員の授業力・指導力の向上」が前提となることであり、学校長の思いは自校の教員の能力向上に占められていることがわかる。
 また、「生徒による授業評価の実施またはその効果的な活用法」、「第三者による授業評価の実施またはその効果的な活用法」については、約一三%、六%と比較的低い数値に留まった。
 外国人教師を採用している学校は、八五%を超え、複数人採用している学校も全体の半分以上となることがわかった。また、採用を外部団体に依頼している学校は約三〇%に上った。


IT活用の学習システム 情報収集、処理必要

【5、情報化】

 学校の情報化戦略で重要な点を選択する質問で学校長が約六〇%という高い回答率を示したのは、「ITを活用した学習システム・授業の導入」だった。このことは、多くの学校長が情報教室でのコンピュータ授業だけでなく、一般教科の授業でもITを活用した情報収集、情報処理などを取り入れていく必要性を感じているものと考えられる。また、次に約五〇%の回答率を示したのが、「募集活動に生かすデータベースマーケティング」であった。多くの企業で活用されているデータベースマーケティングを学校での生徒募集活動に生かしたいと考えている学校長が約半数あったことは注目すべき点である。
 さらに、「教職員・事務員のITスキル向上」、「職場での職務上の情報技術環境の整備」も四〇%以上の高い回答率を示している。


効果的イベント 次いで学校訪問、ホームページ

【6、募集広報活動】

 学校の生徒募集活動で重要と思われる点で、約六三%の学校長が選択したのは、「効果的なイベント(学校説明会・学校公開・体験授業等)の実施」だった。生徒募集活動において、イベントの重要性がよくわかる結果であり、イベントに多くの生徒を呼び込み、かつイベントに参加した生徒が受験したいと思わせる仕掛け作りを学校長が大きな課題と認識している結果であると考えられる。二番、三番の回答を集めたのは、「学校訪問活動の効果的な実施」と「ホームページの効果的な活用」でそれぞれ約三六%、三四%の回答率を示した。イベントに呼び込むための中学校、塾などへの訪問活動の重要性と、ホームページの重要性を学校長が的確に認識していることがわかる。


8割が学内で研修、2割は外部 教職員の意識改革 最も重要

【7、教職員研修】

 学内での教職員研修については私学の八割近くが「学内で実施している」ことがわかった。残り二割は外部に教職員を派遣しており、「実施していない」と答えた学校はほとんど無かったことから、私学が教職員研修を重要視していることがこの調査からわかる。
 研修の実施時期については、三九%の学校で「テスト期間中」に行われており、続いて「夏休み中」(二五%)、「春休み中」(一五%)に実施されることが多い。
 教職員研修の年間予算については、約半数の私学は五十万円以下と答えている。約三割の私学は年間五十万円以上二百万円まで予算を割り当てている。一方「なし」と答えた学校も一四%と相当数に上る。二百万円以上予算を用意している学校は全体の数%。
 当アンケート冒頭で最も重要な経営課題として教育内容の充実や、教職員の能力向上が掲げられているにもかかわらず、そのための研修機会はまだまだ少ないといえる。
 学校による教職員研修の費用負担については、「成果によって学校が負担する」、つまり研修を修了した教職員にのみ費用を負担するシステムを採用している学校が最も多く、全体の三五%だった。最初から全額研修を負担する学校が三割、半額負担する学校が二割強、完全に教職員の負担としている学校は一割程度と、ほとんどの私学は教職員の研修費用をなんらかの形で負担している。
 “教職員にとって”最も必要だと思われる研修テーマとして、一番多く挙げられたのは「教職員の意識改革」であった。私学に対する外部環境が厳しくなる中、一向にそれに見合った意識を持たない教職員の現状に危機感を持つ学校長が多いのではないだろうか。続いて「教科指導」「生徒指導」の向上を目指した研修が求められている。昨今注目されている「コーチング」についても、多くの学校長が教員に積極的に学んでほしいと考えていることがわかった。
 “管理職にとって”必要な研修テーマとして一番多く挙げられたのは「経営戦略の策定・実行」であり、続いて「教育ビジョン構築」など。「リーダーシップ育成」や「人材開発・能力開発システム構築」なども多く挙げられていることから、中堅層以上の教職員の育成が学校長にとって重要な課題であることがわかる。受けてみたい経営トップ向け研修の講師としてもっとも挙げられたのは「一般企業の経営者」で回答率は三四%、学校長と同じ立場である「学校法人経営者」の回答率は三〇%と、民間経営者の方がより関心度が高かった。学校長が研修に参加しやすい曜日としては、金曜日が三六%と最も多く、次に回答率二四%の土曜日が好まれており、他の平日の参加は難しいようである。参加回数については半数が年に一度のみと答えており、複数回参加したいと答えた管理者は少数だった。年間を通して参加しやすい時期は夏休み中の八月上旬が最も多く挙げられている。
 研修参加費については八割以上の学校長が「五万円以下」が好ましいとし、一方、「内容がよければ費用は問わない」と答えた学校長も見られる。

【8、危機管理】

児童、生徒の問題行動と対応

 経営課題として「児童・生徒の指導(いじめ、校内暴力等)」への回答率は全体の七六%で、生活指導・学級経営を中心とする児童・生徒の問題行動への対応が挙げられる。
 また「組織・運営(校内人事、人間関係等)」への回答率は五〇%で、校内人事への対応策などが危機管理としてとらえられている。
 「教育計画・教育課程」が三九%、「服務・勤務」が三八%で、危機管理の項目が、全体の二七%となり、以下、「施設・設備」が三二%、「外部者触法行為」が二六%と続いている。


【学校長対象 私学経営に関するアンケート調査項目】

 1〔経営課題〕貴校の経営課題についてもっとも重要と思われるものを3つ選んでください。
 2〔経営戦略〕貴校の経営戦略でもっとも重要と思われるものを3つ選んでください。
 3〔組織・人事〕貴校の組織・人事でもっとも重要と思われるものを3つ選んでください。
 4〔教育内容〕貴校の進路実績として、今後もっとも重要になると思われるものを1つ選んでください(他に、教育内容の更なる充実、外国人教員の採用などについての質問)。
 5〔情報化〕貴校の情報化戦略でもっとも重要と思われるものを3つ選んでください。
 6〔募集広報活動〕貴校の生徒募集活動でもっとも重要と思われるものを3つ選んでください。
 7〔教職員研修〕貴校では学内での教職員研修を行っていますか(他に、実施時期、年間予算、学校の費用負担、もっとも必要と思われる研修テーマ、研修を受けてみたい講師の職種、研修に参加しやすい時期、参加費の目安などについての質問)。
 8〔危機管理〕貴校の危機管理でもっとも重要だと思われるものを3つ選んでください。
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