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記事2003年10月3日 1906号 (4面) 
短期大学パイオニア (3)
自己点検の相互評価進む
  短期大学で自己点検・評価を行った結果を二校の間で交換して、お互いに相手校を評価し合う相互評価が進んでいる。短期大学基準協会のあっせんもしくは自主的に二つの短大がコンビを組むことにより、客観性を保とうとする狙い。これまでに効果を挙げてすでに延べ四十九組(九十八校)の実施を見ている。


向上充実のためのシステム
短大独自の 二校間の相互評価


 短期大学の設置基準は大学や大学院とともに平成三年七月に改正された。改正の大きなポイントは設置基準の大綱化と自己点検・評価だった。自己点検・評価が効果的に実施されるために短期大学基準協会が設立された。同協会の佐久間彊初代会長の時に内部に向上充実委員会(滝川直昭・委員長)、さらにその中に編集分科会(坂田正二・委員長)が設けられ、自己点検・評価をいかに客観的に行うかといった、向上のための指針書として「短期大学の自己点検・評価」が八年に刊行された。
 これまで他人によって行われてきた評価を自己点検によって行うというやり方は斬新(ざんしん)ではあったが、その客観性をいかに保証するか、第三者の評価に頼れば昔と同じで自主性はどうなるか。これが担当委員間の議論の中心となり、長い討議の末に「誠実に自己点検を行い、相互に強い信頼関係で結ばれた者同士が、誠実に相手の立場を尊重しつつ、自己の立場を相手の立場と置き換えながら、向上充実のために切(せっ)磋(さ)琢(たく)磨(ま)するシステムをつくり出そう」という考え方に到達した。四年制大学の第三者評価とも違う短期大学独自の「二校間の相互評価」であり、それがこの書に盛り込まれている。
 相互評価の仲介役的な短期大学基準協会が発行するニューズレターにもその後こうした議論や続いて実践事例の報告が掲載されるようになる。
 十年十月第九号ニューズレターには「自己点検・評価がモデルとした米国のアクレディテイション・システムの内容としての二つの側面、自己点検と評価が結びつきながらも明瞭に区分されている点は、他校との相互評価のシステムを構築する等の中にしか解決の道はないのではないか」(大塚圭介・兵庫大学短期大学部学長)という意見が載った。
 十一年十月第十三号の「相互評価の実施・促進に向けて」(鷲見八重子・和洋女子大学教授)では、次のように実現後の雰囲気がうかがえる。
 向上充実委員会(現・自己点検・相互評価委員会)が相互評価の実施に向けて議論を重ねているが、何からいかに始めるべきか懸念や疑問が先行してなかなか難しかった。ところが、「まず、試行してみよう」という声が委員校の中から上がり、名乗りを挙げた広島文化短期大学と帝塚山大学短期大学部を皮切りに第一歩が踏み出されると、「案ずるより産むが易(やす)し」の精神で淑徳短期大学と兵庫大学短期大学部の間でも相互評価が実現した。当時すでに七五%を超える短大が自己点検・評価を実施していた。結果の公表はまだ二七%だったが、近い将来急速に公開が進むだろうという見通しはあった。しかしどの短大も改革に多忙を極めている中で、お互いに訪問したり勉強する暇を捻(ねん)出(しゅつ)するのは厳しい。そこで委員会ではシステマチックで効果的な「相互評価」が進展するよう評価のマニュアル作りを検討することになった。現場教職員の負担が過大にならず第三者の視点を取り入れようという狙いである。

桜の聖母と聖和学園とで連携
共通性多いため実施し易い


 十二年七月の十六号になると、桜の聖母短期大学との間で相互評価を実施した聖和学園短期大学の教務部長・鈴木則郎教授の取り組み状況事例報告が登場する。聖和学園では自己点検・評価の報告書の二冊目が十一年秋に刊行された。この時期には自己点検・評価が義務付けられるとともに、それに対する他者評価も望まれるようになっていた。そこで相互評価の相手校を探し、二―三校と折衝したが条件が折り合わず、結局、短期大学基準協会に仲介を頼んで、桜の聖母短期大学を紹介してもらった。先方の「生活科学科」と自校の「生活文化科」が両校に共通の学科なので、この二科間に限定して相互評価を実施することにしたのが適切な方針だった。教育活動が重なるので点検・評価の共通項目が立てやすく、内容的にも緊密にかみ合う結論が得られた。
 この相互評価は次の三段階の過程を踏んで実施された。
 (1)相互評価に必要なすべての資料を相互に提供しあうとともに進め方について協議した確認事項を文書にして取り交わした。双方がこの確認事項に忠実であろうと努力したことが信頼関係を生み、作業をスムーズに進行させる結果につながった。
 (2)次は当該学科教員全員の合議によって相手校に対する評価素案を作成する段階になる。何度も協議を重ね少しずつ素案の骨格を作り上げていく様子を見ていると、この段階が最も苦労の多い時期である。同時に自分たちのさまざまな欠点や問題点、反省点、課題等がきわめて鋭く自覚される時期である。相互評価ではこの段階を大切にすべきである。
 (3)第三段階ではそれぞれの評価素案に対し質疑応答や修正、新規評価項目追加などが繰り返され、最終案作成のための調整期間といえる。この段階でもなお紆余(うよ)曲(きょく)折(せつ)が続き、報告書完成まで緊張感から解放されることはない。
 大阪成蹊短期大学の田畑昌顕学長は、九州女子短期大学と十二年度に実施した相互評価の事例紹介(二十号)の中で、キャンパスに早くなじめるようガイダンス制度などを整えた相手校の学生に対するケアの手厚さに感心し、「本学が平成十三年度から教育支援センターを発足させたのは、九州女子短期大学から受けた示唆によるところが大きい」と成果を述べているほか、「本学ではアドバイザー制度を設けて学生の相談に応じてきたが、オフィスアワー制度や専任カウンセラーの採用なども考慮すべき時期にきたように思う」と語っている。その一方で自校の自己点検・評価態勢についての課題として「各部署内で完結するように組んであるため、比較的順調に進み、一応問題はない。しかし、その反面、全学的な問題や学科間あるいは学科と事務系部署との間の問題などが充分論議されていない心配がある。……短大の運営は教授会中心に行われてきたのであるが、多くの選択肢を有する問題には委員会、審議会など、変化の激しい現代に対応できる組織を創るべきである」といっている。

田園調布と佐野短大
共通点多く実施


 田園調布学園大学短期大学部は女子短大として開学したのち男女共学化したことや同一法人内に中高校を併設しているなどの共通点を持った栃木県の佐野短期大学と十一年度から三年間にわたって相互評価を実施した。
 鈴峯女子短期大学は香蘭女子短期大学との間で十一年度から三年間自己点検・評価報告書の相互評価を行った。
 一年目は「教育評価」、二年目は「研究評価」、三年目は「管理・運営評価」を対象とした。
 双方の刊行した自己点検・評価報告書を主な材料とした。
 双方とも相手校のいい面を高く評価して自分の大学を見つめなおす好機ととらえていると、今田洋・鈴峯女子短大教授は事例報告(二十一号)している。

他者の客観点見方に利点
実績基に第三者評価へ


 相互評価には他者の客観的見方を得られる利点はあるものの、それによる改革には限界があると指摘する声もある。湘北短期大学は松商学園短期大学と十二年度から相互評価を行った。山田敏之学長が「自己点検・評価は改革を生むか」というタイトルで事例紹介(十九号)している。湘北短期大学はソニー(株)厚木工場の従業員を対象とする高等学校を前身として設立され、現在は電子情報、生活科学、幼児教育、商経の四学科を持つ入学定員五百人の短大で、定員を上回る学生数を確保し高い就職率を誇っている。商経系二学科を持つ松商学園との相互評価は商経学科が主体となって開始。互いに相手から学んだいい点を取り入れていくことを旨とし、いくつか改善策を取り入れた。改善の姿勢や機敏性では松商学園が進んでいるようだった。湘北では異なる四学科の存在が全学的な統一行動を難しくしているように思われる。自己点検の限界として、大きな犠牲を払わずにできること以上にはなかなか進み得ない。その限界を破るための他人の目による評価だが、実際には意味のある評価をするのに十分な情報を学外の人たちに提供できるか、また評価のために十分な時間を割いてもらえるか、果たしてどこまで歯に衣着せぬ直言をしてくれるだろうか。下手をすれば形式を整えるだけに堕しかねない。自分がかつてある機関の外部評価委員を務めた経験からも、これらの点が大きな制約になるだろう。むしろ志願倍率と就職率はきわめて冷厳な第三者評価の指標と捉えるべきであるとやや否定的な見方が展開されている。
 効果には限界があるものの、改善の実を挙げてきた短期大学相互評価。広島文化短期大学の坂田正二理事長がこうした短期大学相互評価の軌跡を振り返り「決まった共通マニュアルや経費もなく、オーダーメイドの評価に徹するという制約の中で、誠実に相手の立場を尊重しつつ自己の立場を相手の立場と置き換えながら、自己点検・評価力を高める努力をしてきた。この実績をもとに第三者評価へ進むことが課題であろう」と総括(二十三号)している。
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