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記事2003年11月23日 1916号 (3面) 
新世紀拓く教育 (13) ―― 麗澤中学・高校
自分(ゆめ)プロジェクト
将来の自分の夢を発見し
その“夢”の実現を目指す
  平成十四年に開校した麗澤中学校(竹政幸雄校長、千葉県柏市)は、将来の自分の夢を発見し、その夢の実現を目指す「自分(ゆめ)プロジェクト」を第一期の入学と同時にスタートさせた。麗澤高等学校との中高一貫教育の一つの柱として六年間のプログラムを実施していく。
 導入のきっかけとなったのは、平成十四年度から始まった総合的学習の時間である。取り組むからには、進路発見につながるプロジェクトにしたいと議論を重ね、立ち上がったのが、実力に裏打ちされた実現できる夢をつくっていけるようにと「自分」と書いて「ゆめ」と読ませる「自分(ゆめ)プロジェクト」である。
 中学高校六年間を二年ずつ三つのステージに分け、中学一・二年は基礎を作るファーストステージ、中学三年・高校一年は実力を造るセカンドステージ、高校二・三年は夢を創(つく)るファイナルステージとしている。さらに大学・大学院から社会へとの流れを未来の自分(ゆめ)をつくるアドバンスステージと位置づけ、十年後、二十年後の自分につながる進路設計を強く意識したプログラムである。
 学習は大テーマの下に、それぞれが小テーマを決め、研究の企画、情報収集、調査、整理、そして発表、評価という流れで行われる。中学段階はグループ研究を主体にし、高校段階では個人研究に移行し、高校二年生終わりに卒業論文にあたる研究発表を行う。現地調査を重視し、本やインターネットだけの知識でなく、体験を経て得られる成果を大切にしている。情報収集から評価までの内容は「自分(ゆめ)ファイル」と呼ぶクリアファイルにストックしていく。生徒は、大テーマが終わるごとに一つの「自分(ゆめ)ファイル」でき、それが積み重なっていく中で自分の興味関心が見えてくる。
 昨年四月、新中学一年生の「自分(ゆめ)ファイル」のトップページを飾ったのは、十年前の生徒自身の写真であった。この写真をOHC(書画カメラ)で見せながら、生徒たちは最初の発表として自己紹介を行った。これは、「自己紹介:友達に自分を知ってもらおう」というテーマに基づくものである。
 五月にかけては、「マイキャンパス:学園の素晴らしさを体感し表現しよう」を次のテーマとした。広々とした学園内でウォークラリーを行った後、興味を持った内容を掘り下げてポスターセッションで発表した。
 続いて、中学一年生の最大のテーマ「水源の森フィールドワーク:水源の森の素晴らしさを体感しみんなに伝えよう」に入った。まず、準備としてキャンパスの自然を活用して、ネイチャーゲームや樹木観察を行った。樹木観察では、インストラクターに日本大学生物資源学部の学生の協力を得て、五感で樹木に触れて親しみながら興味と関心を持ち知識を深めた。そして、宿泊研修でのフィールドワークのテーマをグループごとに決めて調査の企画と情報収集を行った。七月には群馬県奥利根水源の森での「フィールドワーク」が予定されていたが、台風のため延期となったものの無事に九月に実施することができた。共通テーマは「水源の森の素晴らしさを体感し、みんなに伝えよう」。インストラクターとして主に指導にあたったのは水源の森を管理している営林署の人である。教員は裏方に回ってこれを支えた。これは生徒たちがその道のプロや地域の人たちと直接触れる中で、知識を実感をもって理解してほしいという意図からである。
 フィールドワークの成果は九月の文化祭で発表した。生徒、保護者、見学者の前でのプレゼンテーションは、緊張しながらも内容の濃い発表となり、生徒たちは大きな達成感を持ったという。
 九月以降の大テーマは「地域研究:住みやすいマイタウン作りのための提言と実践」。学校近隣の町会を訪問調査して、優れている点、改善すべき点を見つけ、住みやすい街づくりの提言として発表するというものだ。生徒たちは十三の町会に分かれて現地調査を行い、町会長にインタビューも行った。各町会には、事前に学校からお願いをしたが、町会長は中学生が地域の活動に興味を持ってくれるということで喜んで応じてくれた。
 「地域研究」の成果発表は、十二月にクラス発表を行った後、翌年の二月に保護者やお世話になった町会長を招いてパワーポイントを用いて行った。発表内容は、防犯灯の設置に関すること、ゴミだしの問題、ゴミのリサイクル・分別の問題、交通問題、街並みに対するものなどさまざまであった。私学はややもすると地域の人とのつながりが薄くなりがちだが、この研究活動をとおして、生徒たちが地域の人たちとのつながりを感じたことも大きな収穫であった。
 一年間のプロジェクトの中で、生徒たちは自ら課題を見つけ出し、より良く解決する力を着実につけてきている。また、人とのコミュニケーションを通して生きた情報を学ぶという姿勢が出てきたことも大きな変化だ。学校外の多くの人からの支援は、生徒たちの目を実社会に開く上でとても大きな効果があると窪田浩実教頭は言う。
 平成十五年度の一学期、一年生は前年どおりのプロジェクトで調査研究を行ったが、今年は、二学期以降も自然という観点を延長させたいと考え、“下田の森”で里山の保全をテーマに「自然研究」を行う。二年生は「環境問題研究」の成果発表を文化祭で行い、続く「日本文化研究」の中での関西研修旅行も実施された。今は「日本文化研究」の成果発表に向けての整理を行っている。来年度、新中学三年生にニュージーランドへの約二週間の研修旅行を計画しているため、それに向けて異文化理解やコミュニケーション、日本文化の紹介といった内容を計画している。
 「子供たちは期待した以上の成果を見せています。麗澤の教育は、道徳心を育てることを中核におき、『知徳一体』の教育の実現を目指しています。従来の麗澤教育の特色である国際教育、情報教育に加えて『自分(ゆめ)プロジェクト』をもう一本の経糸(たていと)として通し、各教科の学習が緯糸(よこいと)となり、一枚の織物ができていくような教育を展開していきたい。非常にやりがいのあるプロジェクトだと思っています」と窪田教頭は話している。

奥利根水源の森でフィールドワークする生徒たち

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