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記事2003年5月3日 1888号 (9面) 
新世紀拓く教育 (1) ―― 立教女学院中学・高校
ARE学習による卒論
生徒達の大きな自信に
  立教女学院中学校・高等学校(杉山修一校長、東京都杉並区)は二〇〇三年四月から新しいカリキュラムを導入した。同校は数年前から様々な改革を行ってきたが、今回の主な改革点は高校でのARE学習による卒業論文の必修化、絶対評価制度の導入、立教大学への新しい推薦制度である。
 ARE(Ask,Research,Express)学習とは、疑問に思ったことを尋ね求めて、調べ上げ、それを言語化して発表するというもので、この一連の学習によって、論文を書き上げる。高校段階ではこれを三年間かけて行い、卒業要件の論文とするものである。
 このARE学習については、すでに三年間、中学の新しい教育課程の中で、学年ごとに大きなテーマを決め、その中で生徒たちが小さなテーマを見つけて取り組むという形で実践してきた。
 例えば、中学二年生では、東北修学旅行に備えて、「東北」という大きなテーマを与えた。その中で神話について調べた生徒は、東北には神話はなく民話があって、関西以西では国家を形成していく過程で神話が形成されたが、東北に神話がないのは国家形成に組み込まれてこなかったからではないかという気づきが出てきたという。こうした中学段階の実践で、大半の生徒たちがきちんと小論文を書き上げたという結果から、立教女学院では高校でのARE学習による卒業論文作成の成果に自信をのぞかせている。
 実際には、今春の高校一年生から、このARE学習による卒業論文作成が始まる。生徒たちはこれから三年をかけて高校三年の夏までに論文を書き上げ、後期は発表にあてることになる。最低所要枚数は五十枚である。この卒業論文は立教大学への推薦の要件ともなる。ARE学習は高校一年から三年まで必修で、授業時数は週一時間しかない。論文作成のためには、生徒たちは実際にはかなりの課外時間を費やすことになる。担当するのは担任教員とARE学習スーパーバイザーである。それぞれの生徒が個別のテーマで論文を書くため、生徒から様々な問いが発せられることが考えられるが、教員はアドバイスを与えるなど、生徒たちの気づきに対して側面から援助していく。
 「子供たちは五十枚の論文を書き上げる間に、おそらくいろいろなことを学ぶでしょう。挫折しそうになることもあるでしょう。しかし、書き上がった五十枚を積み上げた時、三年間の結果が目に見える形で表れるわけですから、大きな自己肯定感につながると考えています」(杉山校長)
 絶対評価の導入については、従来、試験や点数の結果によって相対的に評価がなされていたが、目標に対して能力の異なる生徒が、それぞれ時間をかけて到達することに重きを置くということである。
 新しい推薦入学制度は、理念を同じくする立教学院との連携により中・高・大と長い期間をかけて一貫教育を行おうというもので、立教大学への新たな推薦要件として、評価の対象となる卒業論文の作成、一定の英語能力(英語検定二級程度)、自己推薦レポートの作成が課せられる。これに加えて従来からの立教女学院の必要卒業単位数、良好な学校生活、立教大学への進学希望(併願不可)が要件となり、これらの要件を満たし、立教女学院高等学校長の推薦があれば、全員立教大学へ入学することができるようになる。この新しい推薦制度は二〇〇五年四月の大学入学者から適用される。
 もちろん、従来通り併設短期大学への推薦も行われるし、他大学への受験についての支援も行われる。
 こうした様々な改革の根幹にあるのは、現在の中等教育の中に、与えられた自分の命をいかに充実させていくか、自分が世界とのかかわりの中でどう生きるかといった、自分に対する問いを時間をかけて読書や思索の中で深めるというゆとりが組み込まれてこなかったのではないかという思いから、そうしたことを時間をかけてじっくり子供たちに考えてもらおうというものである。
 「従来の社会の枠組み、ものの価値や基準、人間のあり方、大きく言えばアメリカ型の合理性や効率性といった価値観が、これから百年続くでしょうか」と杉山校長は言う。「合理的ということの限界は今日の世界の状況に表れている。未来を考えたとき、私たちは合理性を求めて進んできた近代という枠組みを乗り越えていかなければならない。そのためには、まず教育から変えていかなければならないのではないか」。
 女子校として女子教育の重要性についても「どうやったら、女性がほんとうに一人の人間として意味をもった形で生きていくことができるかを考えていきたい。また、一見不合理と見える産む性としての女性の性や感受性の中にこそ、人間の真実を発見していこうとする傾向があるのではないか。考えたり、立ち止まったりするという営みの中に新しい時代を築いていくきっかけがあると思います」。
 そのためにはできるだけ少人数教育を実施していきたいという。現在、高校一年の国語表現ではクラスを半分に分け二十人で、英語のオーラルコミュニケーションでも一クラスを三分割して十数人で行っている。その他の教科でもできる限り少人数の授業を行っていく。二十年続けてきた土曜集会や立教女学院の改革の中で、他者性ということを大事にしながら、日本の社会だけではなく、世界に通用する人材、異なる価値観や異なる世界観を持った人々と共存することができる成熟した人間教育を実践していく。多元化する価値観の中で、人間はどう共存していくことができるかを、学校としても大きな課題にしていきたいという。

生徒たちはテーマに沿って学習を進める

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