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記事2003年5月3日 1888号 (6面) 
大学の「知」ビジネス化 (3)
芝浦工業大学 ― 株式会社エスアイテック
株式会社つくり多角的収益図る
将来は全研究費賄う
  芝浦工業大学は大学の知的資源をビジネスとして展開し、株式会社をつくって多角的な収益を図るユニークなやり方で成果を挙げている。
 学生消費者意識の高まりの中で、「学生納入金である授業料は、教員研究費として使わない。研究に必要な資金は大学が自分でかせぐ」という方針が打ち出されたのが発端だった。大学らしい収益事業の資源は「知」と「技術」であり、運用方式としては事業展開などのうえで自由度の高い株式会社を選んで一九九八年六月三十日に設立された。会社名は芝浦工業大学のイニシアルから「エスアイテック」。資本金一千万円を芝浦工業大学と在学生父母の後援会、卒業生の校友会の三者が五対三対二の割合で出資した。収益を上げても配当を行わず、その代わりに大学に寄付して研究開発助成資金とすることを株主の総意として実行している。会社設立から三年九カ月後の二〇〇一年度決算期には九億八千万円の年間売り上げを達成し、その中から二千五百万円を大学に寄付した。財務内容は「超優良企業」なみ。将来は大学研究費のすべてをエスアイテックで賄うことを目標にしている。
 大学の知的資源として、まず教員については技術評価とか共同研究といった話になることから、調査コンサルタント事業が浮かんだ。また卒業生に関しては、ほぼ全員が技術者で、校友会組織で連絡もとりやすいことから、人材派遣事業はどうだろうという発想がすぐ浮かんだ。人材派遣業の認可を取り、卒業生に呼びかけて二〇〇二年には「芝浦工業大学卒業生人材バンク」を立ち上げ、いまでは二百人が登録している。一級建築士も多いことから、分譲マンション技術説明員といった求人もあった。新築マンションの販売のために建築会社は現場説明員を置いて下見客に説明しているが、日曜日には技術者は休みで、現場には技術の分からない販売員だけになってしまう。下見客の多い日曜日にも説明できる人材がほしいというので、一級建築士の資格を持つOBにお呼びがかかったというわけ。マンションの修繕、建て替え、欠陥などの問題に対して技術的見地からコンサルティングを行うマンション管理組合のアドバイザー業務も開始した。
 教員による調査コンサルティングも、建築関係の企業から建物のイメージを持ち込んで具体化するためのCAD作業を頼みにきたり、魚肉ソーセージ製造過程で混入異物を発見・排除する機械の製作に知恵を借りに来たりする。中には自分で発明した避雷針装置を売るために、その効果を評価してほしいといった依頼もあり、良好な評価結果を知らせたら、芝浦工大のお墨付きで売り上げ増加につながり、感謝されたという例もある。そういう注文はエスアイテックが窓口となり、専門の教員のところへ連絡をつける。
 「翻訳部門」の扱い量は現在年間百五十件。このほか学内に需要の多い印刷物を集中発注で安くあげる「印刷部門」、講演会、展示会、研究会、文化教室などの各種催し物を企画・運営する「イベント部門」、学内で発明した製品や大学が技術評価した製品の「特別販売部門」、制服、体操着、文具、書籍、パン、弁当など、大学や併設中高の校内生活の必要品や事務室・研究室用の機器・備品を安く販売する売店の「キャンパスライフ支援部門」などもある。体育の授業中や通学途上の事故などに備えての保険に学校は加入しているが、その保険業務の代理業も引き受けている。保険料は学校側から支払うが、代理店として保険会社から報酬をもらう「損害保険・生命保険代理業部門」がエスアイテックの中にある。エスアイテックの社長は石川洋美理事長で、その下の常勤スタッフとしては保険会社から営業の腕を見込んで招かれた金井貞晴常務取締役ほか七人、保険、印刷、人材派遣、技術などの分野のいずれもエキスパートである。

委託・共同研究への対応
産学連携課と共同で


 エスアイテックが担う事業はコンサルティングや技術評価など大学が行動を制約されている範囲内に絞っている。委託研究や共同研究、あるいは寄付金の受け皿になるというように、大学として正式に表面に出て対応する必要がある場合には株式会社では不適切なので、芝浦工業大学の所管課が担当することになる。それが学術助成室の助成課(委託研究・科研費・学内研究費の管理運営)と産学連携課(TLOなど担当)であり、助成課は以前からあったが、産学連携課ができたのはエスアイテックよりあとの二〇〇一年十月一日である。エスアイテックに委託研究や共同研究の話が外から持ち込まれると、産学連携課へすぐ連絡をとり、一心同体で対応する態勢となっている。そのほか、産学連携課の仕事として、新ビジネスのアイデアを発表するため、学生たちが自主的に始めた「起業プランのコンテスト」に二回目から共催の形で加わり、応援している。また地域企業との交流も活発に行い、東京都城南地区との産学交流会、板橋地区での相談会、長野県岡谷市の産学連携まちづくり研究会など各地に企業とのネットワークを広げている。
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