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記事2003年5月3日 1888号 (3面) 
総合規制改革会議 6月答申に向け集中審議概要
学校の解禁、大学設置自由化、幼保一元化重点課題
  小泉総理の諮問機関として構造改革の具体策を検討している「総合規制改革会議」(議長=宮内義彦・オリックス株式会社代表取締役会長兼グループCEO)は、六月の答申に向け十二の重点検討事項について集中審議を進めている。これら十二の重点検討課題には(1)株式会社、NPO等による学校経営の解禁(2)大学・学部・学科の設置等の自由化(3)幼稚園・保育所の一元化が含まれている。三月二十七日と四月九日には、十二項目の検討を進める同会議のアクションプラン実行ワーキンググループ(WG)(宮内義彦主査)を舞台に、経済活性化の観点から規制撤廃等を求める総合規制改革会議側と、教育水準の維持向上等の観点から規制全廃の問題点等を指摘する文部科学省との間で激しい議論が展開された。ここでは株式会社等が設置する学校への私学助成をめぐる憲法第八九条(公の財産の用途制限)論議など意見交換の概要を報告する。(編集部)


【株式会社、NPO等による学校経営解禁】

専門職大学院に限り株式会社参入容認へ
私学と同様の助成措置を要望


 (1)株式会社、NPO等による学校経営の解禁(2)大学・学部・学科の設置等の自由化に関しては、三月二十七日、文部科学省から玉井日出夫・大臣官房総括審議官、加茂川幸夫・高等教育局私学部長、樋口修資・大臣官房審議官(初等中等教育局担当)ら八人が、またWG側からは宮内義彦主査、八代尚宏委員(社団法人日本経済研究センター理事長)、福井秀夫・政策研究大学院大学教授ら十一人が出席して意見交換が行われた。また同会議は、この日の意見交換に関する追加資料の提出を四月十五日付で依頼、それに対して同省は四月二十二日付で見解について詳しく説明した資料等を提出した。
 このうち株式会社等による学校経営の解禁に関しては、専門職大学院に限っては全国レベルでの参入が認められる見通しにあり、また構造改革特区においては更に校種を広げての参入が認められたことから、WG側が次なる問題とする株式会社等が設置した学校に対する私学助成を他の私立学校と同様に認めること、地方公共団体等が設置した公立学校に関して株式会社等に包括的に管理を委託すること(公立学校における公設民営方式の導入)の是非が討議された。株式会社等が設置した学校への私学助成に関しては、WG側が昭和五十四年三月十三日の内閣法制局長官の国会答弁「学校閉鎖命令、解散命令、特別の監督を総合すれば、現行の法体系は憲法第八九条による公の支配という憲法の要請を満たしている」等を引き合いに出して、「憲法第八九条をクリアするには学校法人等でなければならないことはない」と指摘。

憲法89条の解釈めぐり議論

 また「憲法第八九条をクリアするために最低限必要な規制を限定列挙で示してほしい」「憲法第八九条の目的には政教分離があるがご存じか」「特に日本の学校では、教育がキリスト教徒だけであるというような大学にまで補助金を出しているし、実際に宗教教育をしている学校に対しても、きちんとした会計分離をせずに補助金を出していると思う。これは憲法的に私の観点から見たら、大変な問題だと思う」との意見が相次ぎ、文部科学省に株式会社等が設置した学校へも私学助成を行うよう求めた。
 これに対して文部科学省は、「公の支配についてどれだけの規制をかければ憲法上の要請に応えることができるのか、確かにいろんな議論の考え方があると思う。学校法人制度の下では、今の三法、関係する法律でクリアと申し上げた。もし別の法人で考えるのであれば、少なくとも今程度の強い権限、規制が及ばなければ、憲法上の公の支配に属さないと思っている。仮に同じものを別の制度で求めるならば、それはとりもなおさず学校法人制度と同じものを求めることになる」などと反論。
 また政教分離の問題に関しては、教育基本法で私立学校は宗教教育を行うことが認められており、私学助成は、宗教教育を行う私立学校に対しても支出されているが、助成は私立学校が行う宗教を助長するために支出されているものではなく、私立学校の教育条件や経営の健全性の維持向上、在学生の経済的負担の軽減などのために支出されているため、憲法第八九条の前段にも後段にも抵触しないとの考えを示した。
 さらに昭和五十四年の内閣法制局長官の答弁に関しては、「学校法人に対して支出される私学助成が合憲であるか否か、について答弁しているもの。主体規制の必要性や他の法人に対する助成については触れていない」としている。


【公立学校の株式会社等への包括的委託】

公立学校の管理運営 第三者に委託は困難

 次いで公立学校の管理を株式会社等に包括的に委託することに関しては、WG側は公設民営の保育所や特別養護老人ホームが設立されている例を引いて、公立学校に関しても株式会社等の参入解禁を迫ったが、文部科学省は「教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者としての国民の育成を期して行われる公の性格を有するものであるので、学校の設置や管理運営については、国、地方公共団体等の公共的な性格を持つ主体が責任をもって行う必要がある。従って、学校の管理運営を第三者に包括的に委託することは困難。また公立学校における学校教育は、保育等の事実上の行為に属するサービスの提供とは異なり、入学の許可、課程の修了の認定、卒業の認定、退学等の懲戒等、児童生徒の教育を受ける権利に直接的にかかわる処分性を有する措置と、これに密接不可分な日常的な教育活動から成り立っており、このようなことからも、学校の管理運営を第三者に対して包括的に委託することは困難」との考えを示した。
 ただし地方自治体が建設した施設を学校法人に貸与するなど地域のニーズに応じた特色ある学校の設置運営を行うことは可能であり、そうした手法についての情報提供など必要な支援を今後も行っていくこと、学校教育の外部委託が可能な範囲については、平成十五年度中に検討することを明らかにした。


【大学・学部・学科の設置等の自由化】

届け出制へ全面的に移行 最低限の質保証不可欠

 大学・学部・学科の設置等の自由化に関しては、昨年の臨時国会に文部科学省が学校教育法の一部を改正する法律案を提出、成立したことにより、平成十五年度から大学の学部・学科を設置する場合、学位や学問分野の種類の変更を伴わない限り、認可ではなく届け出でこと足りることになったが、同WG側は平成十六年度から第三者評価制度が導入されるのに合わせて、「大学及び学位の種類・分野の変更を伴う学部・学科の設置を含め届出制へ全面的に移行すべきだ」との考えを主張、また大学等の設置基準から不動産基準(校地)の撤廃等を迫った。こうした不動産基準は都市部への新規参入を抑制する要因になっているとして、校地の大きさ(狭さ)や大学へのアクセスなどの情報はすべてインターネット等に公開して、受験生が選択できるようにすべきだとした。さらに文部科学省が設置基準の改正で校地基準をそれまでの三分の一から四分の一程度に引き下げたことに関しても、消費者である学生のニーズ調査等を行い、決定すべきだなどとの考えを示した。これに対して文部科学省側は、「世界的に見ても事前関与と事後チェックで質の担保が確保できる」「高等教育機関として最低限の質の保証は必要で、学生、消費者の保護という観点が必要だ」と反論。また学部等の改組転換で認可が必要なケースでも、新しい組織に最低必要な人数の二分の一以上が元の教員で占められていれば、届け出で済むことを説明、今後はかなり届け出だけで済むとの見通しを明らかにした。


【幼稚園と保育所の一元化】

真の一元化早急に実現
幼稚園の設置主体規制も撤廃


 幼稚園と保育所の一元化問題に関しては、四月九日、文部科学省からは玉井総括審議官、樋口審議官、義本幼児教育課長ら四人が、WGからは宮内主査はじめ十人の委員、専門委員が出席した。この日は文部科学省との意見交換に続いて、保育所行政を預かる厚生労働省との意見交換も行われ、厚労省からは岩田雇用均等・児童家庭局長ら四人が出席した。この幼保一元化に関しては、社会のニーズを反映して幼稚園でも預かり保育が実施されるようになり、また施設の共用化、幼稚園教諭と保育士資格の併有の促進などが進められているが、総合規制改革会議は両者の併設・連携を推進することにとどまらず、幼児教育・保育サービスを総合的に提供する機関として、同一の設置主体、施設・職員による運営が可能な「真の幼保一元化」を実現するため、制度の統一を求めている。また幼稚園に関しては保育所では認められている株式会社等による設置の原則解禁、幼稚園教諭と保育士に関して資格・配置基準の統一、三歳児未満の入園等が課題となっており、保育所に関しては調理室の設置義務の原則廃止などが焦点となっている。
 このうち文部科学省との意見交換では、文部科学省が厚生労働省と連携を取りながら進めてきた一体的運営のための施策の概要が説明された。初めに幼稚園と保育所の連携に関しては事例集を作成して推進に努めていること、その事例集では幼稚園教諭と保育士の研修の合同開催、両者間の人的交流、施設の共用化、幼稚園、保育所、小学校の合同活動など事例が紹介されている。また構造改革特区では入学年齢の弾力化を行ったこと、幼稚園教諭と保育士の資格の相互取得を促進する観点から改善策を平成十五年度中に検討し、結論を得る(新卒の場合は約八割が両免許を取得している。現職教員等には両資格を持っていない人もおり、合同保育を行ううえで課題)予定とした。
 十年前に比べて四倍以上(約二割から八割以上へ)に広がった幼稚園での預かり保育に関しては、更に促進していく方針を表明した。しかしゼロ歳児から幼稚園で受け入れることに関しては、「どの国を見てもゼロ歳を教育とはなかなか考えていない」とした。
 これに対してWGの委員からは、「現場が一体的にやっているのなら、なぜ国の方も一体的にできないのか」「同じ政府の厚生労働省がやっている保育については幼稚園と同じ程度の公共性があるのに、保育所は設置主体への規制は別にいらない。設置基準があればいいと。同じようなサービスを提供している幼稚園と保育所との間で文部科学省だけが過度な規制をしているといえないか」などの意見が出された。

文科省
子供の全人的発達を 経営と教育のバランス必要


 これらに関して文部科学省は、「やはり全体的なバランスの取れたカリキュラムの中で子供の全人的な発達を図ってほしいし、そこには経営と教育のバランスが必要で、そういう目で見ると全く民間で行われているところについては、そこについての懸念はやはりある。ただし具体的にどこそこの何が問題だというところまで把握していない」「経営的な観点から子供たちを集めるために、ある知的な能力に偏ったような早期教育をしたりというやや弊害を聞くことはある」などと答えた。
 一方、厚生労働省との意見交換では保育所に調理室の設置を課している点が大きな焦点となった。WGからは調理室の設置義務を外して、地域の学校給食センター等で対応すればいいとの主張だったが、厚労省は保育所での給食については一日の間に昼食、おやつ、夕食等複数回にわたる食事提供が求められること、子供の年齢や体調に合わせたきめ細かな対応が求められること(離乳食や食物アレルギー等への配慮)、調理室があることの食育的効果、構造改革特区で調理室はいらないではないかと提案したすべての自治体が離乳食を学校給食センターで対応することは無理と回答していることなどが説明された。
 また幼稚園と保育所の一元化に関しては、「就学前の子育てサービスが一種類しかない国はない」などと説明し、保育所制度の必要性を指摘した。
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