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記事2003年6月13日 1892号 (5面) 
大学の「知」ビジネス化 (5)
早稲田大学インキュベーション推進室
学生に起業マインドを育てる
新しい企画実現 大学も奨励

 早稲田大学キャンパスに同大学の研究開発センターという五階建てのビルがある。早実が国分寺へ移転したあとの校舎を大学が買い取って、ベンチャー企業育成の拠点にしたものである。早大の研究推進部に早稲田発のベンチャー企業を育成する目的のプロジェクトチームとしてインキュベーション推進室が設置されたのは二〇〇一年七月。この推進室がまず入居するとともに、十月からは育てたいベンチャー企業にも部屋を提供して入居させることを開始した。それから一年半の間にベンチャー企業が二十三社入居しており、そのうち十社は学生、十社は卒業生、三社は大学教職員が立ち上げた企業である。ワセダマンというのは年がら年中新しい企画を実現することに夢中になっているような傾向があるが、大学側でもそれを奨励している。推進室発足のねらいからして、学生に起業マインドを育てることが最大の目的だった。他大学のTLOが教員研究者の研究内容を特許化したり、外部との共同研究や委託研究を主たる目的としているのと比べてカラーの違いが歴然としている。そのために教員の共同研究・委託研究や特許の取得をもっぱら世話する機関として知的財産センターが、インキュベーション推進室と並んで研究部内に置かれており、こちらの方は昨年末に産学官研究推進センターと名称変更した。
 研究開発センタービルの入居募集は定期的に年二回、これまでに五回行われた。応募倍率はいつも二〜三倍。入居の審査はプランの内容が重視され、形は会社になっていなくても、サークルや個人でも、プランの内容がよければ入居オーケーとなる。学生向けにはかつての教室を六つのコーナーに分割したスペース(十二平方b)を月二万円で貸している。また教室を改築して半分の広さにした個室(三十七平方b)の電気代込みの家賃は十一万円、十五平方bのスペースの個室だと六万円、八・九平方bは四万円で貸している。
 学生ベンチャーの本格派は理工学研究科博士課程の学生が立ち上げたIT関連企業で、最初有限会社でスタートしたが、いまは三千万円の資本を投じて株式会社となっている。もう一社は経済学研究科修士課程の学生が住居環境を測定する理工学部建築学科の技術と組んで不動産証券化の評価基準を開発し、そのプログラムを販売している。


早稲田ベンチャー企業と提携する企業が常駐


 この研究開発センタービルには、早稲田ベンチャー企業とともに、それを指導するバックアップ企業が「インキュベーター・マネージャー」、つまり先生という立場で入居・常駐し、事務所を構えている。自分でベンチャー企業を興した人とか、コンサルティング会社の社長、中小企業事業団でインキュベーターして指導してきた専門家が派遣されてきた例などである。入居希望学生の審査やその後の指導には、インキュベーション事業にかかわる教授陣のほかに、これらのインキュベーター・マネージャーや学外有識者が当たっている。インキュベーション推進室では毎月一回、セミナーを開いて、起業に興味のある学生に「会社の立ち上げ方」や「企業経営の心構え」などをレクチャーしている。学生の間に次第に口コミで評判が広がり、毎回五十人以上が聞きに来るようになった。関心が高いのはやはり理工学部の学生で聴講者の半数くらいを占めるが、そのほかの学部でも関心は高まっており、五十人の聴講者のうち女子も十五人くらい訪れるようになった。学生全体に卒業後の進路選択の中の一つとして、就職以外にこういう道もあるのだという意識が次第に根付いてきているようにみえる。

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