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記事2003年8月3日 1900号 (2面) 
中央教育審議会の審議動向 指導要領を明確化
秋には答申
【教育課程部会】
補充的学習や発展的学習で

 中央教育審議会初等中等教育分科会の教育課程部会(部会長=木村孟・大学評価・学位授与機構長)は、七月二十八日、東京・虎ノ門の霞が関東京曾舘で第六回会合を開いた。この日は、学習指導要領の「基準性」の一層の明確化や、個に応じた指導の一層の充実など五月十五日の諮問事項について原案を検討してきた同部会の総則等作業部会(主査=安彦忠彦・早稲田大学教育学部教授)が「審議のまとめ」を報告、それをもとに意見集約に向け検討を行った。
 報告された「審議のまとめ」の骨子は、(1)学習指導要領の基準性の一層の明確化について基準性に関する記述や“はどめ”規定等の記述を見直して個性を生かす教育を一層推進する(2)教育課程を適切に実施するために必要な指導時間の確保に関しては、教育課程の実施状況について自己評価の実施、改善が必要で、各学校は実施状況を積極的に公表し、保護者や地域住民に説明責任を果たすこと、長期休業日の増減や二学期制の工夫等については全国一律に実施するものではなく、教育効果を十分研究する(3)「総合的な学習の時間」の一層の充実については、学校としての全体計画の作成、専門的知識や経験を有する社会教育関係団体等との連携協力(4)「個に応じた指導」の一層の充実については、小・中学校の補充的な学習、発展的な学習等について、学習指導要領上の個に応じた指導における位置づけの明確化等を提言している。こうした報告に対して委員からは、「『学力』とは何かを含めて一般の人に分かるように提言すべきだ」「子供たちの学習意欲の低下こそ基本的な大問題だ。もう少し正面から取り上げるべきだ」「教員組織に関しては共同作業が十分ではない点が多い。先進的な事例を示してほしい」「教科書を通してしか学習指導要領が生徒に伝わらない。どういう教科書ができてくるのか一定程度視野に入れるべきだ」「教育に関して国民全体でサポートしていく仕組みを作るべきで、協力体制作りが最大のねらいだと思う」などの意見が出された。
 早ければ八月四日の次回会合で「審議のまとめ」を固め、その後、国民から意見を募り、秋に文科相に答申する。その後、同省では学習指導要領を改訂、来年度からの実施を目指す。


【大学分科会】
グランドデザイン審議
教育は市場原理になじまぬ


 中央教育審議会の大学分科会(分科会長=佐々木毅・東京大学学長)は七月九日に東京・霞が関の文部科学省別館で、十八日は同・経済産業省別館でそれぞれ会合を開き、これまでに続いて高等教育の将来構想(グランドデザイン)について審議した。グランドデザインの文案や高等教育への財政措置、情報化などについて討議し、高等教育機関に進学する学生の経済的な負担が大きく、他の先進国と比べて公財政支出額の割合が低いことから、公的支出の増加を求める意見などが出された。十八日は、文部科学省が株式会社による学校設置など、構造改革特別区域法における学校教育法の特例について説明。委員からは「株式会社が直接、運営するのでなく、学校法人を設立してほしい」「教育は市場原理になじまない」「アメリカでは、ほとんどがうまくいっていないと聞く。無責任な状態に困っている人も多い」などの意見が相次いだ。グランドデザインについては「高等教育とは何なのか、第一章から呼びかける。社会を引っ張っていく個人や団体を育成する重要な機関であると示すべきだ」「ニーズにこたえるだけでなく、リードしなければ高等教育にならない。審議会が主体性を持って提言していきたい」「地域の発展を大学が支えていることも加えてほしい」「教育に投資を必要としていることが特徴」「高等教育の目指す最終的な目的は倫理に尽きる」などの意見があった。平成十一年現在の国内総生産(GDP)に占める高等教育への公財政支出額は〇・五%。経済協力開発機構(OECD)の各国平均一・〇%の半分と、加盟国中で最も低く、公的支出の増加を求める意見や「日本はコスト高で、教育費も高額になるのではないか」「寄付が難しい。税制上の一層の優遇措置が必要」などの指摘があった。
 委員からは「高等教育の受益者は学生だけと考えがちだが、雇用主や国家、社会にとっても利益となる。若者に投資せずに、高齢者社会を支えることはできない」「奨学金は返さなければならないので負担。奨学金は続けるべきだが、ほかにフェローシップを設けてほしい」「経営の安定と学生の負担軽減を考慮し、個人と機関への補助の組み合わせがよい」などとする意見が出た。
 私立大学については「学生数の七割が私立大学に在籍するなど、日本の高等教育を支えている。学部の教育を確保できる財政基盤をつくるべきだ」などとした。また、これまでに多様な意見が出ていることから「何もかも含んでいるが分かりづらくては困る。起草委員会をつくり、太い筋が一本、通った内容にまとめてほしい」という提案があった。


【留学生部会】
日本人の海外留学推進
日本学生支援機構設立など支援強化


 中央教育審議会大学分科会の留学生部会(部会長=木村孟・大学評価・学位授与機構長)は七月十四日、東京・霞が関の経済産業省別館で第十回部会を開いた。
 文部科学省が同部会中間報告骨子案「新たな留学生政策の基本的方向について」を提示し、交流の拡大や留学生の質の向上のための施策などを自由討議した。
 骨子案では、新たな留学生政策の基本的方向として▽留学生交流の一層の推進▽留学生の質の確保と受け入れ体制の充実▽日本人の海外留学への支援▽地域バランス等の改善▽日本学生支援機構設立等による支援体制の強化などを挙げている。
 具体的には▽大学等における教育研究の高度化と国際競争力の強化▽渡日前から帰国後に至る体系的な留学生受け入れ支援体制の充実▽多様な教育・研究に対するニーズに応じた海外留学の支援▽高校生留学の受け入れ派遣の推進などの方向性を示した。
 自由討議では骨子案などを検討。日本人の海外留学への支援に対し「最先端の学問の修得や国際化だけが目的では、明治以来変わらない」と「世界のトップレベルと交流し人的なネットワークを形成できる」ことを期待する意見があった。
 一方で、学生の海外への流出により、日本の大学が空洞化することを心配する声もあった。また、留学先は北アメリカとヨーロッパが合わせて約八割となるなど偏りがあることから、アジアのほか、ODAを利用して中近東やアフリカなどへ派遣する意見があった。
 一方、日本への留学生の数は近年増加の傾向にある。平成十年の五万千二百九十八人が、十四年五月には九万五千五百五十人と、四年間で倍増。増加のほとんどが私費留学生で、このうち約八割を中国からの留学生が占める。
 骨子案では急増した理由について、アジア諸国の経済成長や、日本の大学の積極的な受け入れを挙げたが、委員は留学生が▽来日後、日本語の教育機関を経て高等教育機関に進学▽直接、高等教育機関に入学の二ケースに分かれることを指摘。留学生増加の背景を探るには、それぞれの人数の増減を把握する必要がある、と調査を求めた。
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