こちらから紙面PDFをご覧いただけます。



全私学新聞

TOP >> バックナンバー一覧 >> 2004年4月23日号二ュース >> VIEW

記事2004年4月23日 1931号 (3面) 
特色ある大学教育支援プログラム
わが校の取り組み
文部科学省に採択された私立短大の特色ある教育支援プログラムについて三校に寄稿いただいた。
少人数教育、学力支援など学生たちの意欲と能力を伸ばす種々の取り組みが盛り込まれている。

日常活動の集大成の一側面
自動車工業科主体とする短大

新潟工業短期大学学長  堀川 徹夫

新規性なくとも真摯な努力 学力不足の学生を支援
 
 私的な偏見でありますが、「研究は可能性への先行評価であるべきが、過去の結果にのみ投資され、教育はひたむきの積み重ねより、ひらめきや思い込みに走ろうとする」そんな疑念を感じているとき、今回の「特色ある大学教育支援プログラム」が、「新規性はなくとも、真摯な教育努力を継続的に積み重ねている実績を評価」と明快な姿勢に、これを大いに是とするものであります。
 本学が採択されたテーマは、「学力が不足する学生のための支援活動」であります。その内実は、始めにテーゼを定め、取り組んだプログラムではなく、ここ数年、本学が、否応なしに取り組まされて来た日常活動の集大成の一側面と言うことも出来ます。
 その個々の取り組みは、学力調査、補習授業、入学前ゼミ、国試対策、イントラネット利用の出欠席システム、奨学制度など等、どれも多くの大学で、すでに取り組んでいるものばかりと言えましょう。ただ、これらのプログラムを集計すると、本学が抱える、ファンダメンタルな今日的な教育課題の一つ「学力が不足する学生の学力支援」が、浮かび上がるのです。
 本学は、自動車工業科を主体とする全国八短大の一つで、小規模、実学志向、毎週六コマ以上の実習重視、アット・ホームな教育を身上と掲げ、開学三十五年を迎えますが、昨今、多くの大学が抱える、十八歳人口の減少、進学率の拡大と停滞、産業の空洞化、工学離れ、雇用形態の混乱など、大学のユニバーサル化、社会の構造変化の波に翻弄されていることに、変わりはありません。
 本学への志願意欲が最大の判定基準となる推薦入試を主体とし、多様な学生の受け入れは、避けようもありません。
 遅刻を厳格にすれば、一方で、何人かの学生に目覚ましコールを日課とせざるを得ない。学生との学習格闘の反復継続が常態でありますが、日々の積み上げの学習が欠かせない工学教育の分野であり、学力支援と言えども、制度の限界は、厳然と存在します。
 ある中途退学生の母親が、「先生、もう十分です。うちの身内で、大学と名の付く処へ入ったのは、この子が初めてでした。姉ちゃんも学費の一部を援助すると、張り切っていたのですが、この子は早く就職したいと言っています。退学させてください。本当にありがとうございました」と言って帰る。
 クラス担任は、がっくりしますが、例え、学業の継続は、出来なかったにしても、学生が、自立する意志を身につけて退学するのならば(実際には、五年後、十年後の検証が必要でしょうが)、如何に、非効率、不完全であるにしても、本学の教育使命の何分の一かは果たせたのではないか、私は、そう信じたい。
 「特色ある大学教育支援プログラム」採択の、最大のメリットは、本学教職員にとって、本来の教育活動の余分としか見えない様な、さまざまな日常の「学生支援活動」が、短大教育の主要な領域として、真摯な教育活動の一つと学外からも認知された「自信」を共通認識出来たことにあると思います。
 本学の学力支援の真の目標は、工学や技術を通して、二十一世紀を生き抜く若者に、職業人のゆるぎないマインドをつけさせることに尽きると思います。
 私は、短期大学の卒業は、進学する学生は別として、十四年生の最終学年の卒業、学生から、社会人への「コメンスメント」と考えることにしています。
 多様な学生を、多彩な大学が、其々の教職員の使命感を持って社会に送り出す、そこに特色ある大学教育が有り、本学存立の基盤もここに在るものと確信しております。
問題基盤型の課題を自己学習と討議で解決
自己開発型学習形態

日本赤十字武蔵野 短期大学看護学科長  森 美智子

看護学におけるPBL・テュートリアル教育 社会の要請に応え得る人材育成

 本学の使命は、赤十字の基本理念である人道に基づき、看護の分野において社会の要請に応え得る人材を育成することにある。特に災害救護時の問題解決能力、異なる価値観の人々とのコミュニケーション能力が求められ、これに対応する教育の一つとして、PBL・テュートリアル教育がある。テュータのもとで少人数グループの学生が問題基盤型の課題を自己学習と討議で問題解決をしていく、学習者主導の自己開発型学習形態である。
 我が国では、このProb1em Based Learning(PBL/問題基盤型学習)を用いた教育は、医学教育では多く実践しているが、看護基礎教育ではまだ普及されていない。
 構成要素は問題基盤型学習、自己学習、小集団討議を含むものである。学生は小集団に分かれ、各グループは各ユニットをローテーションしながら学習する。グループに一名の専門領域の教員(テュータ)がつく方法である。
 一九九三年から全学的に検討に入り、カリキュラム改訂、教材開発、テュータ養成、看護診断導入等の検討部会を設置し、人的・物的環境を整備し、五年間の準備期間を経て九八年度から二年次に臨床看護学(成人看護学、老年看護学、小児看護学、母性看護学)、二〇〇〇年度から一年次にフィジカルアセスメント、〇二年度から三年次に臨地実習で、週一〜二コマ通年で実施している。
 実績として、学習過程および学習内容に対する学生の自己評価(形成的評価)ならびに教員の評価(総括的評価)ともに高く、また、三年間を通して成長がみられた。なお、授業評価もよく、学生の達成感・満足感がみられるほか、図書館利用率も高く、全体に活気があり、教育効果は高い。
 PBL・テュートリアル教育に重要なものは課題事例と展開、それに基づく自己学習・プレゼンテーションのあり方である。
 併せてテュータの資質もきわめて重要で、テュータは学生に関心を持ち、一人ひとりの思考プロセスを理解し、学生の試行錯誤を受け止め、サポートの時期と内容を的確に判断する能力が求められる。
 また、評価システムも大きな意味をもち、これらがPBL・テュートリアル教育方法の核となっている。
 教育を考える際、すぐレディネスをいうが、学生は試行錯誤の時間がある限り想像を超える能力を発揮している。PBL・テュートリアル教育が醸しだす創造性の涵養と、問題解決時のグループダイナミックスは教員にとっても魅力的な教育方法といえる。
 学生時代に多くの問題に取り組み、自ら解決していくためには、PBL・テュートリアル教育をさらに進展させる必要がある。
 現在の取り組み課題は、「臨地実習PBL・テュートリアル教育の新たな方策」である。それは、仮定の事例に対する従来のペーパーシミュレーションと異なり、対象は実際の患者であり、現実の問題を体験し解決するもので、思考過程が異なってくる。
 即ち、実習を通して問題を発見し、情報収集を行い、情報の分析・統合の結果から、問題解決の方法を導き、解決していく学習である。これを成立させる条件として、@小グループのメンバー全員が問題に取り組み、テーマを焦点化させるものであることA情報の共有化、分析・統合を要する内容であることB毎回、自己学習を要し、プレゼンテーションを可能にする内容であることがあげられる。これらを構造的に含んで、実際の患者に実習を通して展開するものである。
 複雑な医療現場で臨機応変に対応できる優秀な看護師を生み出すためには、現場に直面する多くの問題を予め臨地実習で取り上げ、解決する能力を養う優れた実習教育で、PBL・テュートリアル教育は意義深い教育方法である。

応用能力の養成を教育目標に
伝統を継承し常に新たな挑戦

北星学園大学 短期大学部学長  大友  浩

すべての授業を英語で展開 日本語と英語で教養

 北星学園大学短期大学部は、米国人宣教師サラ・C・スミスによって創立されたスミス女学校(一八八七年)の歴史と伝統を受け継ぎ、一九五一年四月に北星学園女子短期大学として、英文科(現「英文学科」)のみで開学した。五四年には家政科(現「生活創造学科」)を増設し、二〇〇二年三月までの五十年間にわたって、女子に対しての短期高等教育機関としてその使命を果たした。〇二年四月からは、男女共学の短期大学部として新たな教育・研究活動を展開している。
 英文学科は、「聞く」「話す」「読む」「書く」の四技能に加え、「知る」「使う」といった応用能力の養成を教育目標とし、生きた英語そのものと、それを支える文化とを広く実践的に学べるカリキュラム編成となっている。
 〇三年度「特色ある大学教育支援プログラム」で採択された「一般教育を統合した英語カリキュラム展開」は、「英語で自己表現を可能にする英語能力を身につける」「高等教育における教養(一般教育)の知識を日本語と英語で身につける」を目的に、一般教育科目を英語専門科目として統合した上で、一部の科目群を英語による授業として開講することを核(コア)としたものである。この英語による授業科目は、導入当初は三科目であったが、導入後の教育的効果が確実に現れてきており、現在では、人文・社会・自然科学の各分野からバランスよく履修できるように、「地理」「歴史」「人類学」「世界の音楽」「心理学」「社会学」「統計学」「ライフサイエンス」の計八科目が開講されている。各授業科目とも教育効果の面から複数のクラスを用意し、一クラス平均の履修者数が三十人未満になるよう努めている。さらに、日本語で開講されている一般教育(基礎教養)科目群に配置されている「生命の科学」「社会学」「心理学」を履修することにより、日本語と英語の両語で教養知識を得ることが可能となっている。また、今回の採択は、カリキュラムの工夫・改善だけではなく、「授業を担当する外国人教員の採用や教材開発にあたっては、英文学科だけではなく、全学的な支援体制で推進した」「この取り組みによって、長年にわたり優秀な成果を上げ、自己表現能力やリスニング力も強化された」「国際化時代、一般教育科目を通じて英語を学習させることは、新しい英語教育のあり方として、先進的である」という点でも評価されている。
 この取り組みについては、初代学長エリザベス・M・エバンスの「すべての授業科目を英語で展開したい」という希望(夢)の実現が根底にあり、今後もエバンスが目指していた教育を継承・実践できるよう積極的に取り組んでいきたい。
 一方、生活創造学科は、家政科を出発点に、社会経済状況の変化に伴う生活意識・価値観・社会的ニーズの多様化に対応したカリキュラム改編及び学科名称の変更を行ってきた。八九年度には普遍的に認められる生活の真理の追求を目的に、情報化、国際化、高齢化の進む社会と生活に対応する科目を加えて生活教養学科に改編し、〇二年度からは、「知的創造」をテーマに、生活を変えていく力を秘めた実践的な総合科学を追究することを教育目標とした生活創造学科とした。カリキュラムの特徴として、三つのカテゴリー(「クリエイティブ情報・空間」「社会・経済」「生活総合」)に八つの履修モデルを用意し、学生が学習意欲や将来の進路に応じて科目を選択し、専門性を掘り下げることができるカリキュラム編成となっている。履修モデルについては、随時、社会経済状況の変化に対応できるものに工夫・改善を行っていきたい。今後も伝統を継承するとともに、常に新たな挑戦をし続ける短期大学部でありたい。

記事の著作権はすべて一般社団法人全私学新聞に帰属します。
無断での記事の転載、転用を禁じます。
一般社団法人全私学新聞 〒102-0074 東京都千代田区九段南 2-4-9 第三早川屋ビル4階/TEL 03-3265-7551
Copyright(C) 一般社団法人全私学新聞