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記事2004年6月3日 1935号 (2面) 
中央教育審議会の審議動向
学士課程の構築必要
短大の準学士含め論議を
米英諸国で準学士が学位化へ

【大学分科会・制度部会】

 中央教育審議会の大学分科会・制度部会(部会長=岸本忠三・大阪大学名誉教授・前学長)は、五月二十七日、都内で約半年ぶりとなる第八回の会合を開き、今後の高等教育機関はどうあるべきかを審議するために、学部制度、学士課程教育の現状と課題などについて、舘昭・桜美林大学教授から意見を聞いた。
 舘教授は、日本では「卒業・課程を修了したものに学位を与える」という発想であるのに対し、米・英では「学位を与えるための課程」であり、日本の学位と欧米のdegreeを比較すると、課程と学位の関係が逆転しているなどの現状を説明したうえで、大陸欧州でも学士課程の設定が進んでいる今、日本でも、学士を与える課程としての構築が必要とされているとの意見を述べた。
 さらに、日本では専門教育と一般教育(教養教育)の理解に混乱があるとして、教養教育と専門
教育の関係を詳しく説
明した。本来教養とはculture(文化)であり、つまり文化に関する広い知識を身につけることによって養われる心の豊かさ・たしなみであり、いわゆるリベラルアーツの授業科目は、広く文化にかかわる、情報提供する、言語、文芸、歴史、哲学、数学及び科学など、学士課程構築のために整理すべき点を示して詳細に説明した。
 また、現在学士課程の再構築論議の中で準学士課程の問題が分離している現状を指摘、米国やイギリスで準学士が学位化の傾向にあることを説明し、生涯学習社会の要となる日本の短期大学における準学士の問題についても、合わせて論議すべきだと主張した。
 六月中旬に開かれる予定の第九回会合では関根秀和・大阪女学院大学院長・学長が、短期大学の現状について意見を述べ、その後、四ツ柳隆夫・宮城工業高等専門学校長が高等専門学校についての意見発表を行い、中込三郎・学校法人中込学園理事長が専修学校について意見を述べる予定。
 同部会では、これらの意見を取り入れながら、今後の高等教育機関は、わが国においてどのような役割を果たしていくべきか、その中で大学はどうあるべきかを基本的事項とし、高等教育機関の個性化・多様化、高等教育の質保証のシステムなどについて審議を進め、大学分科会で審議されているグランドデザインの審議に意見を反映させていくことが確認された。

産業界からの意見聴取
専門知識に加えて幅広い知識、経験重要

【大学分科会・大学院部会】

 中央教育審議会の大学院部会(部会長=中嶋嶺雄・国際教養大学長)は、五月二十一日、都内で第十九回の会合を開き、大学院に対してどのような人物を育てることを望んでいるか、産業界の意見を聞いた。高度な専門知識に加え、幅広い分野の知識や経験が必要などの意見があった。
 まず、日本経済団体連合会産業技術委員会の山野井昭雄産学官連携推進部会長が、同連合会加盟企業が採用している技術系の人材のうち、六七%が修士課程修了者、博士課程修了者は二%であるが、博士課程修了者を採用した企業の約二割が博士号所有者の資質に疑問を感じており、理由として、専門以外の知識経験の不足、発想力の欠如などを挙げていることを説明した。
 続いて、東芝の執行役常務、有馬睦弘研究開発センター所長が、米国スタンフォード大学を例に挙げ、日本と米国の学部・大学院の教育課程の違いを指摘した。
 米国の学部では専門教育に加えてコミュニケーション技術、経済・経営など、技術者になるための訓練が行われていること、日本では博士課程修了者一万二千人のうち、ポスドクを含む就業者が六八%なのに対し、米国の科学・工学分野の博士課程修了者は九六・二%が就業。さらに日本では学士、修士、博士の給与に開きが少ないが、米国では博士の給与は学士・修士に比べて明らかに高くなっていることも説明した。
 有馬氏は大学院への要望として(1)技術者・研究者について、質の明示とそれを目指した育成(2)修士課程については専門性を持った問題解決能力の高い技術者の育成(3)博士課程では高度の専門知識と問題発見能力を持った技術者・研究者の育成を挙げた。
 最後に竹中工務店の横山俊宏人事室長が、人事の立場から企業が求める人材、大学・大学院への期待を発表した。大学院では興味・関心を具体的なテーマに落とし込んだ研究を行う場であること、また、教養時代の一般教養科目は最小限にし、専門から見て必要な教養科目を重視すべきだなどと語った。
 大学院部会では、こうした意見を受けて、大学院の教育・研究機能や学位授与について、必要に応じて学問分野ごとのワーキンググループなどを設置し、高等教育における学部と大学院の位置づけなどを審議する方針。

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