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全私学新聞

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記事2004年7月23日 1943号 (3面) 
第18回全私学教育サロン開く 本紙主催(下) マイクロソフト株式会社協賛
自分のペースで生活し学習できる状態を保つ
【講演】 「不登校および不登校の長期化を予防する」
【講師】 熊本大学大学院医学薬学研究部小児発達学分野 熊本大学医学部附属病院長 三池 輝久氏

三池輝久氏

不登校の背景は不安緊張
睡眠不足 自己抑制に


 学校に行きたいけれども行けないというのは、生活の中の不可能な部分の一部です。もっと大事なことは、一日をしっかりと過ごすことができない、学習ができないことです。つまり、学習するという脳機能が落ちていることと、一日を過ごすための生命エネルギーのようなものが非常に落ちているということなのです。これは、言い換えれば、半分命が無くなっているようなものです。子供たちは学校に行けないことそのものが非常に苦しい。
 さらにその行けない理由がなぜかわからないという自己矛盾がある。だれに聞いてもまったく理由がわからない。そして、そのために周囲も理解できない。まず、子供たち自身が自分に何が起こっているのかまったくわからないという状態にあることをご理解いただきたいと思います。
 不登校というこの状態は、現代病です。
 これには疲労が大きくかかわっている。十五歳から六十五歳の四千人を対象に調査したデータでは、当時その六〇%が疲労を感じており、その半分は疲労状態が半年以上続いているという慢性的な状態です。
 さらにその半分が、精神作業能力が低下していると感じている。
 このうち女性の一%、男性の一・八%が疲労のために退職ないし休職している。これは慢性疲労症候群と診断してもよいと思います。
 この慢性疲労症候群についてはまだ明確にわかっていませんが、でもずいぶんわかってきました。例えば、十年間といった非常に長い期間、一生懸命自分を抑制して何かに合わせて生活をしてきたという人が疲労困憊(こんぱい)状態に陥っている。そしてこの状態が、大人だけでなく、中学生の約三%、高校生の五%程度で起こっており、休学・退学せざるを得ない状態です。
 医学的な話になりますが、人はストレスの積み重ねで脳の温度が上がってしまい、この状態で寝ますと、最初は不眠状態になり、次に登校できないという状態が起き、そうなると不思議なことに八割から九割の人は睡眠時間が長くなってほぼ十時間になります。
 不登校になった背景はさまざまありますが、共通点があります。一つは緊張と不安の持続があったうえに、不登校状態となる引き金になるような不安状態が起こったということがあります。持続的な不安緊張の原因は何であってもかまわないわけです。
 共通する不安緊張の背景としてまず一つ目に現代人の慢性的な睡眠不足があります。二つ目は競争社会における大量の情報、三番目に最も重要なよい子の生活、自己主張をしない、自己を抑制した生き方で、このストレスはものすごいと私は思っています。その典型的なものがいじめられっ子です。

早寝早起き型は成績も良い
小児慢性疲労症候群でも初期なら回復


 まず、睡眠の問題ですが、四十年前の調査によると、日本人の睡眠時間は冬で平均八時間四十分とよく寝ていた。最近の調査では七時間くらいです。就寝時間をみると、一九九五年のデータでは、子供たちの四〇%ぐらいが午後十時過ぎ、十数パーセントは十二時を超えている。現在ではさらに、寝る時間が遅くなっていると思います。
 中学生では、早寝早起き型の人は、朝ご飯を食べ、排便をし、あいさつもきちんとするし、勉強の成績も良い。ところが遅寝遅起きタイプは、排便もせず、朝ご飯も食べていないし、ぼんやりしてあいさつもしない。それほど人間の睡眠パターンは重要なのです。
 では、不登校状態のときの体の状態をみていくと、恒常性を保つ脳の働きに問題が起こっていく。脳の働きの一つに、睡眠、覚醒(かくせい)、食欲の調整がありますが、朝、活動の準備ができていない状態で起きると、朝食を食べることができない。
 食事を取れないと、体温調節もホルモン分泌もおかしくなり、生命力としての恒常性が保てなくなる。
 もし、不登校状態が軽症の時期に気づいて、例えばなぜか一週間に一日休みが入ってしまう、といったときに、睡眠時間を一時間前に持ってきてあげるといったことを二週間ほどやると、生活リズムが元に戻っていく。ところが、パフォーマンス(PS)5(不登校状態)まで来ますと、戻るのに少なくとも数カ月から数年かかる。
 その状態を私たちは不登校とはいわずに、睡眠障害を伴う小児慢性疲労症候群と呼びはじめました。それは、現代病だと思うからです。症状もステージごとに違います。
 例えばPS2は、保健室に通う回数や遅刻が増える、不定愁訴を訴えはじめる状態です。この時に手を打つのが大事で、担任教員、保健教員、保護者、小児科医、といってもこの問題をそれほど重要に考えている小児科医はあまりいないのでちょっと無理かもしれませんが、少なくとも学校の先生方には理解していただけると、この段階ならカウンセリングがある程度功を奏すということはあり得ます。 
 PS3でも間に合います。それを過ぎるとカウンセリングでもどうにもなりません。

集中力の障害や疲労感
副症状として頭痛など


 小児慢性疲労症候群の状態の主症状は、(1)記銘力あるいは集中力の障害(2)睡眠異常(3)疲労感(わずかな労作後でも非常に疲れ、休んでも疲れがとれない(4)頭痛・頭重感などです。
 副症状としては、咽頭(いんとう)痛、頸部(けいぶ)あるいは腋(えき)窩(か)リンパ節の圧痛、筋骨格系の痛み、頭痛・吐き気、微熱、めまいなど。
 子供の場合はめまいとか微熱、腹痛・嘔吐(おうと)です。こういったものをチェックすると診断はつきます。そして、その時にPS2・3で歯止めがかかれば、長期の不登校状態にすることを防げるわけです。
 PS5になるとまったく登校できません。混乱して、頭が回らなくなって、引きこもる状態になる。こうなったとき、若者が自暴自棄にならないはずがない。いらついたり、家庭内暴力が起こってくる。自分が否定された、ないがしろにされたという情報が入った時、「不安感」が「怒り」に切り替わって暴力が起こる。これは発作的ですから止められません。ですから、これは治療が必要ですし、また治療が有効です。
 メージャー系のトランキライザーを使えば二週間で暴力は止まります。
 自立神経系機能の異常としては、手が冷たくなって発汗が起こります。血圧が下がって立ちくらみが起こる例もあります。また、副交感神経の力が大きく落ちていますから、疲労の回復ができず、疲れ果てる。そうなると人間は死にたくなる。ですから、絶対にそこまで頑張ってはいけないのです。
 常にどこかで休む、逃げなくてはいけない。逃げて何が悪い、というのが私のモットーです。体温調節機能をみると、通常は脳の温度は起きているときには高く、寝ているときは低いのですが、不登校の人はグラフが平坦な線を描きます。しかも睡眠時間中の脳の温度が非常に高い。

自分の命を守るため
生命防衛反応不登校に


 副腎(ふくじん)皮質ホルモンの量も減少し、出る時間もずれます。ですから、起きた時に体の構造を支える準備ができていない。この状態が続くと、自分の命を守るために、その行動を止めようとする。つまり、学校に行こうとしても行けないというのは、自分の命を守るための生命防衛反応に違いないのです。
 血流を見てみますと、視床と前頭葉の血流が全体的に落ちています。結果、集中力の低下が見られる。もう一つMRSで前頭葉のスペクトロスコピーをとりますと、前頭葉にコリン蓄積がある。その理由についてはよくわからない。ただ、前頭葉の細胞群が非常に働いたのではないかと思っています。前頭葉は、人格、心の脳、よりよく生きる脳、自律神経性の脳、創造性の脳が含まれていますので、ここの働きが現代人の疲労の陰にあると思います。
 もう一つ、認知の脳ですが、タイプ1の人は反応が鈍く、交感神経が副交感神経を上回っており、不登校期間が最も長い。過敏なタイプ2は、疲労の強いグループでやはり交感神経系が副交感神経を抑えていて、理解度は高いが、不必要なものをさらりと捨てられず何もかも反応してしまうタイプで不登校期間は中程度です。
 糖の代謝を調べると、インシュリンが反応しないで、血糖値だけが高くなる。それからANA(抗核抗体)が陽性になる。詳細にやると七十キロダルトンの抗体(抗Sa抗体)が見つかる。私たちはこれに自律神経機能検査とP300脳波と深部体温、脳血流検査を行ってきました。
 これらはいずれも特殊な検査ですから、簡単な検査で診断がつけられるようにしたいと、現在検討中で、なんとかプロテオミックスで診断ができないかとやっているところです。

不登校治療にメラトニン、光治療有効
初期段階で十分休養


 最後に治療法についてお話しします。不登校という状態を引き起こす生体リズムの異常が固定しないうちに、もとに戻せるうちに治療しようというのが、メラトニンです。しかし、メラトニンは、午後六時から八時に飲むとずれていた時間が引き戻されて、早く眠れますので、治ることがありますが、残念ながら、最近、メラトニンが有効なのは初期だけだということがわかりました。
 次に高照度光治療があります。光治療で非二十四時間型の生活リズムを整えるだけでかなり改善するというのは事実です。例えば六年ぐらい前からこもりっきりの人が、光治療でPS7からPS3になりました。しかし、これだけでは駄目です。ここから先のリハビリが必要です。光治療も、一部(若い人)統合失調症でなかなか効果が出てこない人がいます。しかし、睡眠障害についてはかなり有効です。
 体温にメリハリをつけるために、昼間、体温を一度サウナで上げるという治療法にも取り組みはじめました。つまり、光と温度と食事、この三つでやっていけばなんとかなるのではないかと思っています。もう一つは集団生活をさせると、時間はかかりますが、なぜかよくなります。早寝早起きの規則正しい生活の中で、自分もだんだん生活がきちんと乗ってくる。それから乗馬がいいとか、イルカ療法というのもあります。
 長期化した子供たちが何とか回復して、元気に社会復帰してもらおうというのが私たちの夢ですけれども、非常に手間も時間もお金もかかる。彼らも非常に苦しむ。ですから、予防がどうしても大事です。
 まず、初期の段階で十分に休養を取り、回復後、一日がきちんと過ごせるようにすること、学力を補てんすること、友人たちと会っても緊張しないような状態にしておくこと、この三つをきちんと補てんした後で学校に帰すということをしないといけない。そのシステムづくりを、私たちも含めて、国が真剣にやらなければいけない。
 もし、中学生のときに不登校状態があったという人は、非常に長くかかりますので、親も子供も、思い切って学校を捨てることです。そして、自分のペースで生活する、自分の脳機能を保って、学習できる状態を保つ。そしてしっかり勉強をして、大検を受けて、それから受験勉強をして大学に行くという順番の方が、自分を守るためには絶対にいい。その方がむしろ、学校、社会には戻りやすい。引きこもりは百万人以上といわれていますし、その予備軍は無限にいる。ですから、早寝早起き運動とか、古くさいですけれども、何かやり方があるのではないでしょうか。


人間の睡眠パターンの重要性を 強調した三池院長


不登校、ひきこもりといった症状に さまざまな治療法が紹介された

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