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記事2004年8月13日 1945号 (7面) 
トップインタビュー 教育はこれでよいのか 「くらべる」視点で見る大切さ
財団法人神奈川科学技術アカデミー理事長 藤嶋 昭氏
光触媒を使って抗菌、脱臭、防汚
理科の面白さをアピール



 藤嶋理事長は「水の光分解触媒の発見と環境触媒への展開」での功績が認められ、「二〇〇四年(二十周年記念)日本国際賞」(財団法人国際科学技術財団主催)をこのほど受賞した。
 「光触媒とは植物の光合成反応をまねるというもので、水の光分解の研究がスタートです」と藤嶋理事長は切り出した。つまり、葉っぱに太陽光が当たると、水が分解して酸素ができ、人間が吐き出した炭酸ガスが還元されて植物が生長するという基本的な反応を応用し、これをさらに簡単に人工的に作り出そうというものだ。
 藤嶋理事長は、植物の持つ葉緑素が太陽光を吸収することによってデンプンと酸素ができるという光合成反応をモデルに、葉緑素の代わりに「酸化チタン」(TiO2)を使った。「酸化チタン」を光触媒として使うと、「酸化チタン」が太陽光を吸収することによって、その表面では細菌や臭いなどの有機物を分解する光触媒分解作用や、水が水滴にならずに広がる光親水化作用が現れる。
 光触媒には抗菌、脱臭、防汚などさまざまな働きがあり、これを利用した製品がどんどん開発されている。太陽光や人工光の下で汚れを分解するクリーニング機能を持つガラス、タイルなどは自動車の窓・ミラー、建物の外壁、病院の抗菌タイルなどに実用化されている。
 藤嶋理事長がこの分野にかかわるようになったのは、東京大学大学院工学系研究科修士課程に進学したときからだった。
 「四十数年近く前に始めた研究ですが、現在では基礎研究・応用研究の両面で、常に日本がリードしている分野です」
 藤嶋理事長が現在、最も憂えているのは科学技術の将来の担い手である小学生、中学生や高校生の間で理科離れが起こっていることだ。
 「現在、七・五・三問題が起こっています。文部科学省のデータによりますと、小学五年生で理科の好きな児童の割合が七一・九%、中学二年生で五五・〇%、高校二年生になると三〇%台に減少しています」
 これに対しては、学校の理科の授業だったら教員が授業を面白くすることが大事と注文をつけるが、また、藤嶋理事長自身も「理科の面白さをありとあらゆる機会をとらえてアピールしていくつもりです」と語る。
 そのために、同財団では身の回りの疑問を分かりやすく、やさしく、しかも意外性を強調しながら解説することが最も効果的という認識に立ち、「くらべる」視点で見ることの大切さを説いていく方針だ。例えば、鉄と金をくらべる、砂糖と塩をくらべる、また、お茶を例に日本茶(緑茶)、中国茶(ウーロン茶)、英国茶(紅茶)を発酵の程度で比べてみるなど。
 同財団ではこの「くらべる」シリーズ出版に向け編集中で、第一巻がこの秋に刊行される予定だ。
 藤嶋理事長の研究に対する姿勢は、次の言葉に集約されるように「常にコンスタントに学び、自分を高めていくこと」だ。
 『少にして学べば壮にして為すことあり 壮にして学べば老いて衰えず 老いて学べば死して朽ちず』(佐藤一斎)
 現在、同財団のミュージアムで光触媒についての基本的な実験をすることができる。財団では小学生、中学生、高校生にぜひ見学にきて、科学の面白さを実感してほしいとしている。
 同財団は先端科学技術分野で創造的な研究を行う研究事業、社会人を対象に大学院レベルの教育を行う教育事業、研究助成・科学技術の普及・啓発を行う学術交流事業の三つの事業を展開している。

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