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記事2005年5月3日 1976号 (10面) 
ユニーク教育 (143) ―― 晃華学園中学・高等学校
小柴科学賞を受賞
理科教育に著しい効果
ワラジムシを用いた創造性・主体性教育

広野校長

 第一回「小柴昌俊科学教育賞」(平成基礎科学財団主催=小柴昌俊理事長・東京大学特別栄誉教授)の最終審査会が三月二十七日、東京・丸の内の丸ビルコンファレンススクエアで開催された。優秀賞一件と奨励賞三件が表彰され、奨励賞の一件に晃華学園中学・高等学校(広野佑子校長、東京都調布市)の科学同好会が取り組んでいる「ワラジムシを用いた創造性・主体性教育」(顧問=前島昭弘・情報管理センター部長)が選ばれた。
 この賞は児童・生徒の基礎科学への興味と関心を高めるため、新しい発想と工夫に満ちた理科教育プログラムを開発・実践し、理科教育に関し著しい教育効果を上げた団体および個人に対し、贈られるもの。応募総数七十八件のうち十件が第一次審査を通過し、第二次審査では四件に絞り込まれた。第二次審査に際しては、申請者へのインタビュー、プログラム実施状況、成果、生徒の生の反応など約二十項目にわたって慎重な審査が実施された。科学同好会の研究は、ワラジムシの行動という、一つの現象を誘引物資や迷路の分岐を使って観測し、単に行動だけではなく、生ゴミ処理、出産、フェロモンなど多彩なものと関連づけている点や、生物を対象として教具と行動観察のシナリオの豊富な点が評価された。また、死≠竍生命≠考えさせ、ワラジムシという簡単な教材を対象に、その生態をこれだけ多面的に見ているプログラムはほかにないと考えられると、最大限の評価を得た。
 同校はカトリック精神に基づく全人教育を行い、キリスト教的な人間観やものの見方を心にしみ込ませて、真の意味で自分を大切にし、人を大切にする精神の涵(かん)養(よう)を目指し、自分のためにだけ生きるのではなく、世界のため、人のために尽くす大切さを教えている。科学的なものの見方や考え方はもちろん、「生徒たちがワラジムシを材料とし、自然界に生息している生物と直接触れることによって、自然界の生命の大切さ・不思議さ・美しさを感じ取ってもらいたい」と前島教諭は考えている。
 科学同好会がワラジムシについて十一年間かけて行ってきた実験は、交替性転向反応を示す行動原理、迷路の中で認識できる角度の存在、色の好みについての実験、行動に左右差があるのか、触覚の役割、農作物(ミニトマト)の被害を防ぐ方法の研究、なぜ交替性転向反応を示すのか、壁の位置と交替性転向反応、蛇行方向の角度について、十四本の脚の動かし方――。このうち、交替性転向反応とは、動物が右または左にその進む方向を変えた場合、次にまた同じ状況に出合うと、前に右 (左)に曲がったものは左(右)に曲がる傾向を強く示す行動で、アリ、ネズミなども同様の性質を示すという。
 現在、科学同好会のメンバーは中学生が十三人、高校生が十五人の二十八人から成り立っている。四月十三日、この日も生徒たちは前島教諭と熱心に議論を重ねていた。「なぜ、ニンジンに集って、キュウリに集らないのか」「臭い、柔らかさ、バクテリアなどに対してどのような反応を示すのだろうか」――。
 「人間以外の生物から、すごい! なんて美しいのだろう! といった感動体験がほとんどない生徒が多いように思います。この『生きているというイメージ』の豊かさは、私たちが生きていく上で、とても大切なことだと考えます。それを知った生徒たちは、自分たちが健康に生きていること、自分が存在していることが当たり前でないことに気づき、生きていくことにきっと謙虚になり、感謝するだろうと思います。私自身も生徒たちとともに成長させてもらっています」と前島教諭は語る。


ワラジムシの行動を調べる生徒

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