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記事2005年7月13日 1985号 (2面) 
中央教育審議会の審議動向
国庫負担制度存廃を併記
義務教育費負担の在り方など提言
地方の自由度拡大強調
【義務教育特別部会】
 義務教育費国庫負担制度の存廃について討議している中央教育審議会義務教育特別部会(部会長=鳥居泰彦・慶應義塾学事顧問)は七月五日、都内で会合を開き、負担制度の存続と廃止の両論を併記した審議経過報告案をまとめた。部会長一任となり修正案を今月十九日に開かれる中教審総会に提出する。
 案は「義務教育の制度内容の在り方」「国と地方の関係・役割の在り方」「学校・教育委員会の在り方」「義務教育に係る費用負担の在り方」「学校と家庭・地域の関係・役割の在り方」の五つの項目について提言。義務教育費国庫負担制度については(1)教育の質の向上(2)財源確保の確実性・予見可能性(3)地方の自由度の拡大等を示した。
 最大の焦点となっている国庫負担制度の一般財源化については、地方交付税などで賄えるとする地方六団体代表と、制度堅持を主張する文部科学省と多くの委員、双方の意見を盛り込む内容となっている。
 地方側は特に案の中の「地方交付税が『瀕死の重傷』である」とする文言に強く反発。修正として、「安定的な財政運営に必要な地方交付税、地方税などの一般財源の総額確保は政府・与党合意」などの追加記述を要求している。
 ほかにも地方側は、地方六団体が示した文言修正の追加、総務・財務、両省担当者から行った地方交付税などのヒアリング内容も記すよう求めている。
 地方側は負担金を廃止した場合▽公立小・中学校が地方の税で運営されるので、住民は税の使途である学校をより厳しい目でみることになる▽児童・生徒、保護者だけでなく地域全体への責任を実感することにより、教職員の質の向上にもつながる―としている。可能となる施策例に少人数学級やチーム・ティーチングが実現し、地域住民のニーズに応える教育が実施できる、などを挙げているが、ほかの委員は「現行制度でも実施は可能だ」と指摘している。
 同日の会合でも藤田英典・国際基督教大学教授は「一般財源化した場合のメリットについて、これまで何度も部会で出てきているが、(地方側から)何ら説明が成されていない」と強調。審議は平行線をたどっている。
 鳥居部会長は当初、「両論併記はしない」との意気込みで秋までに同部会で結論を出す構えでいた。だが、五月には「(両論併記はしないとは)審議を尽くしますという考え。どうなるかやってみないと分からない」などと態度を軟化しており、まとまらない部会の意見収拾に追われた。
 他方で地方団体に属する委員からも、「地方交付税には危ぐがある」(片山善博・鳥取県知事)「市長会で徹底した議論は行っていない。国庫負担制度が財政的に極めて安定する」(土屋正忠・東京都武蔵野市長)の意見が出るなど、地方の足並みも乱れている。
 一方で田村哲夫・渋谷教育学園理事長は「議論は出尽くした感がある。次の段階に行くという段取りで良いのでは」とした上で、「日本は諸外国と比べ教員を大切にしている。質の高い教員が多く、『教育のインフラ』が成されていると思う。国庫負担制度は教員給与にかかわる問題で、今後も本気で議論していかなければ日本の教育はがたがたになってしまう」などと訴えた。
 同部会では今秋を目途に最終報告をまとめる方針だが審議は紛糾が予想される。PTAや組合、経済界など関係団体からヒアリングを行い来月下旬から討議を再開する。

「論文博士」制度維持要望
新時代の大学院で意見聴取


【大学院部会】  
 中央教育審議会大学院部会(部会長=中嶋嶺雄・国際教養大学理事長・学長)は七月七日、都内で会合を開き、先月中間報告がまとまった「新時代の大学院教育―国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて」について、募集していたパブリックコメントなどを踏まえ議論した。募集意見からは、社会人などが大学院に在籍しないで論文審査を受けて博士の学位を得る、いわゆる「論文博士」の見直しに対し、制度の継続を求める要望が目立った。
 中間報告に対する意見募集は六月十四日から十七日まで行い、郵便、ファックス、電子メールなど四十六通あった。それによると「学部と大学院の切り離し、学部と大学院それぞれが統一的な基準による出口管理を行うことにより教育の質の向上を図ることが必要」「大学院の教育に枠をはめることは却ってその発展を阻害しかねない」「専門職大学院のみならず、すべての大学院と学部の関係においても検討課題としてあげるべき」など、さまざまな意見があった。
 私立大学については「建学の理念に基づいた人材の育成を目指し教育システムおよびプログラムを構築し、一層の充実を図ることでその存続と発展が図られる。それゆえ、大学院にあっては学部教育と連携することではじめて、その目的が達成できるともいえる」との意見もあった。
 一方、「論文博士」の見直しについて提言している中間報告について「制度は在野研究者の励みの一つであり、これに替わる制度なしに廃止することは、実社会での研究に関しての意欲低下が懸念される」「人文・社会科学系では、大学(院)を修了して後、長年にわたって研究を継続し、その成果を論文にまとめて博士論文として評価を問うということはあると思う。論文博士制度をやめるのは好ましくないと思う」「論博による博士号取得希望者が機会を失われることのないよう、新制度の慎重な検討を」など、制度廃止への反対意見が目立った。
 一方、会合では委員から、「院は教育の機関だと言うことを明確に出してほしい。学部が弱いからというのではなく、一定の期間に充実した教育を展開しなければならない」「院に行く人に対して学士課程でもっと教養教育を充実すべきということをもっと強く書くべき」などの意見が述べられた。

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