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記事2006年3月23日 2016号 (3面) 
教員の資質向上でフォーラム 文科省
指導力不足が増加信頼を得る方策を
教員に求められる生きた学力、授業力、人間力
教員免許は修士以上が望ましい
 教員の資質向上を図るための施策について、報告・意見交換を行うことを目的に文部科学省は三月四日、時事通信ホール(東京・中央区)で「教員の資質向上に関する全国フォーラム――教員に対する揺るぎない信頼を得るために何をすべきか――」を開催した。フォーラムでは鷲山恭彦・東京学芸大学長の基調講演のほか、文部科学省担当課長、PTA代表、小学校校長、教育委員会担当課長らによるパネルディスカッションも開催。会場には現職教員や教師を目指す学生ら約二百六十人が訪れ、参加者からの質問も相次いだ。

 教員の資質向上については現在、中央教育審議会において、終身資格である教員免許に有効期限を設ける免許更新制の導入や、専門職大学院で教員のスペシャリストを養成する「教職大学院」制度の創設などが検討されている。
 フォーラムではまず、戸渡速志・文部科学省教職員課長が「多くの先生が教育的愛情を持っているが、指導力不足教員の増加、教師の不祥事により信頼が揺らいできている。教員の資質の方向性において共通理解を得るために有意義なものになるようお願いする」と開会の辞を述べた。
 鷲山恭彦・東京学芸大学長は教育課程の充実や教職大学院、教員免許更新制などについて基調講演をした。鷲山学長は、児童生徒に対し臨機応変に対応できなかったり、総合的理解力が欠けている教員が出てきた原因の一つに生活体験の不足を挙げた。「生活体験の豊富さのみが人間的生活を構成する」として、教員養成をめぐり生きた学力、授業力、人間力のための広い土壌の形成を求めた。
 鷲山学長は「情報化、バーチャルリアリティの社会により生活内容が不足し、知識が知恵になっていない側面があるのでは」などと指摘。そして新たに設けられる教職実践演習に絡み、教員に求められるものとして(1)使命感や責任感、教育的愛情等(2)社会性や対人関係能力(3)幼児児童生徒理解(4)教科等の指導力――の四つを改めて示した。
 教職大学院については「(教員の資質向上の)けん引車になるものだと思う」としながらも、「学部の在り方を変えていかなければならない」と学部段階での養成充実を強調した。
 また免許更新制については、約二十万人いる「ペーパーティーチャー」についても「教育を維持する大きなすそ野」として配慮する必要性を訴えた。鷲山学長は「やはり教員免許は修士以上を持っていた方がよいのでは。修士号と連動させた更新制でもよい」などと提案した。


免許更新制の事務量は膨大
国は予算等の負担を


 その後、鷲山学長と戸渡教職員課長も加わり、岩田康之・東京学芸大学教員養成カリキュラム開発研究センター助教授がコーディネーターを務めパネルディスカッションを行った。
 根本雅史・千葉県教育庁教育振興部参事兼教職員課長は「教職大学院の学費は研修費として出ればよいが、自己負担だと課題だ。また更新制は慎重にならざるを得ない。失職ということがあれば若い人たちに魅力がなくなり、優秀な人材が逃げてしまう。事務量もスタッフ数も膨大なものとなり、予算、財源を国の方で何とかしてほしい」と、現場サイドからの要望を訴えた。
 戸渡教職員課長は「免許書き換えの事務費、事務量の負担はコストを惜しむのかどうかだ。子供たちのために今できることを、私たちが今やるのかどうかだ」と答えた。
 寺崎千秋・全国連合小学校長会長・東京都練馬区立光和小学校長は「大量退職を迎え、昔十年で育てたものを六年でやらなければおぼつかなくなってきた。東京都では十年間の見通しをキャリアプランとしてそれぞれ教員が立てている。免許の更新制も積み上げてきた結果、励みとなるのでは。よく分かり、面白く、楽しい授業ができる力をしっかり付けていくことが重要」などと述べた。
 また伊藤進・(社)日本PTA全国協議会常務理事は「学校に行くたびに先生に社会性を取り入れてほしい、先生方にいろいろな体験をしてほしいと感じる」と語った。

教員のストレス問題
研修機会の保証も


 会場との意見交換、質疑応答では、さまざまな意見が相次いだ。会場に訪れた大学生二人からは「分かりやすい授業をするだけが良い教員と言えるのか」「教員のストレスが一番問題だと思う。研修の機会、時間などはきちんと保証されているのか」と指摘。
 一方、中学校教員からは「多忙化と市場原理主義の煽(あお)りを受け、同僚性が減ってきている。現場で育つことが困難な状態」と現状を話した。
 鷲山学長は「同僚性をしっかりしていくことが重要であり、教職大学院を含め大学の利用、活用をしてほしい。課題意識を持つと現場は違って見える」と強調した。寺崎校長は「後のことを心配せずに現場に戻ることができる条件整備が必要」と主張した。
 岩田助教授は「教員養成の歴史でみると同僚性の中でリーダーという者はいた。今は制度的な『つけ』がきている。今の教師の質はそんなに変わっていないのではないか。教育のサービス化が増してきたのでは」と話した。

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