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記事2006年7月13日 2030号 (7面) 
トップインタビュー「教育はこれでよいのか」 モノづくりはすべての出発点
前花王株式会社会長 東京理科大学総合科学技術経営研究科客員教授 常盤 文克氏
大学では基礎教育が大切
多様性を理解する人材


科学技術立国とはモノづくり立国
 よく科学技術立国ということが言われますが、この基本にあるのは、「強いモノづくり」です。つまり、科学技術立国とは、モノづくり立国ということだと思います。バブルが弾け景気の低迷が続きましたが、いま、また日本経済は活気をとり戻しました。これは、低迷していた時期にあっても製造業は研究開発の手を緩めず地道な努力をしてきたからです。我が国の経済成長、発展を支えているのは、強いモノづくりです。
 モノづくりの原点を探ってみると、それは人類が道具を手にしたときから始まっています。この人類の祖先はホモ・ハビリス(=手先の器用なヒト)、またホモ・ファーベル(=モノを作るヒト)と呼ばれています。モノをつくるということは、人間の生きざまそのものなのです。ですから、モノづくりの高い技術を獲得するためには科学や技術の裾野を広げていく必要があるのです。
 このたび「日本モノづくり学会」を立ち上げたのは、一つには独自の高度な技術を持っている中小企業を支援しようという趣旨からです。中小企業の中には、素晴らしい技術を持っているのに、これがマーケットに結びついていない場合がよくあります。これを応援して、もっと元気を出してもらおうということです。一方で大企業は、人のやる気を引き出すことが上手な中小企業に、学ぶところが多多あります。いずれにせよ、いいモノを作らなければ製造業以外の小売業も成立しないし、ソフト業も成り立たない。他のすべての産業も成り立ちません。その意味では、モノづくりはすべての出発点なのです。

理科教育はモノづくり体験を通して
 理科離れということが言われて久しい。いろいろな対策が講じられているようですが、なかなか成果が出るところまでいっていないのではないでしょうか。私は、子供も先生も一緒になって、子供たちにモノづくりのおもしろさを体験させることによって、理科の大切さを伝えることを提案したいと思います。

大学では基礎を企業では専門を
 大学は基礎教育をしっかり教えることが大切だと思います。ここでいう基礎とは、哲学、倫理、歴史(科学史)、熱力学、数学など学問の基本となるものですが、これをしっかり身につけることです。よく、大学での専門教育ということを言いますが、正直なところ企業ではあまり役に立っていないのではないでしょうか。企業に入れば、毎日が実践の場で専門を学ぶからです。これも大学でしっかりと基礎を身につけて、はじめて企業で専門を学ぶことができるのです。
 その点、産学連携はあまり行き過ぎると、大学本来の有している基礎の学問を教えるという役割が弱くなるのではないかと、危惧しています。
 事業や仕事はグローバル化の方向に流れて行きますが、大切なことはしっかりとした自分なりのアイデンティティーを持つことです。その上で、さまざまな価値観を前提とする多様性(ダイバーシティ)を理解することが必要となってきます。自分の価値観、基本的な考え方をしっかり持つことを出発点とし、さまざまな価値観を持った相手と議論したり、競い合ったりすることです。
 グローバル化の中で、人は個性、持ち味を尊重することが大事です。互いに個性を尊重し、個性をそれぞれが組織の中で発揮することによって、これが組織の力となってくるのです。

夢を持つこと、よい問いを持つこと
 私は、仕事と人生とを切り離すことは難しいと思っています。どちらを優先するということではなく、積極的に仕事と人生を重ね合わせて生きることが大切ではないか。学生には夢を語り、よい問い(問題意識)を持つようにと、よく言っています。とりわけ、よい問いを持つようになると、問題解決へのヒントが見つかり、さまざまなものが見えてくるようになると思います。こうして視野が広がっていくのです。

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