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記事2008年5月3日 2098号 (3面) 
私立大学 志願者の動向
2008年 代々木ゼミナール調べ
都市圏の難関大に志願者集中
今年人気は「経営」「経済」「商」

少子化にもかかわらず、大学新卒者の就職は売り手市場といわれていることもあって高校生の進学意欲は高く、私立大学志願者総数(途中集計、以下、志願者数も同様)は前年比一・七%増の二百四十七万三千三百九十一人となった。ただ、今年も志願者は都市圏の難関大学に集中するという、二極化は変わらない。このため、センター試験利用大学は年々増加しているものの、合格者の歩留まりは悪くなっている。今年人気となった学部・系統は経営・経済・商で、都市圏・地方とも志願者が集まった。人文系も持ち直したものの有名大学に限られてしまった。今春の私立大学志願者の動向を、大手予備校代々木ゼミナールの入試情報センターの坂口幸世本部長に伺った。



代々木ゼミナール調べによると、今年の私立大学の志願者総数は二百四十七万三千三百九十一人で、昨年より約四万千七百九十八人増加(前年比一・七%増)した。
 二〇〇七年入試では、私立大学出願者総数が二〇〇六年年より十万人以上増加したが、今年はその上にさらに志願者を積み上げた。理由は、景気の回復と、それと連動した就職状況の好転が大きい。企業の大学新卒者への採用意欲の大きさには景気回復以外にもうひとつ、不況時に行った大幅な人員削減への反省と、目前に迫った団塊世代の大量退職があるようだ。
 加えて首都圏の難関大学による全学日程の導入や地方入試の拡大で志願者が増加したとみられる。特に今年はセンター試験利用入試の増加が大きい。センター利用試験利用の出願者総数を見ると、七十六万九千八百三十六人と昨年より約七万三千人も増え、前年比一〇・五%増で増加率は二桁にもなった。理由には、利用大学数が増えていること、センター利用方式の増加、利用教科数の減少、受験料の割引の拡大などが挙げられる。
 ただ、合格者の歩留まりは悪く、一〇〜二〇%程度とみられる。
 受験料の割引については近畿圏で拡大の気配を見せており、セット割引として昨年は主出願のほかに併願一学部だけは一万円の受験料だったが、これを今年は併願二学部まで認めた大学や、受験料定額制という大学もあった。さらには初年度納入額を百七十万円から百三十万円程度に下げたところもあるなど、志願者獲得は一層激しさを増しているようだ。
 学部・系統別に私大志願者数を前年比で見ると、特に目立ったのは、経済・経営・商の前年比四・五%増(約二万七千人増)だった。これは就職に有利なことから選んだとみられるが、ただ経済・経営・商だけは、都市圏の大学だけでなく地方の大学まで満遍なく志願者が増加しているのが特徴だった。
 人文も同二・三%増(約八千人増)となり、外国文学・語学、日本文学・語学が増加した。ただ全般的に良かったというわけではなく、経済系とは違って都市圏の有名大学に限るという状況で、地方ではやはり人文系は苦戦したようだ。
 理工は前年比四・三%増(約一万八千人増)となり、このうち理学系が前年比一〇・七%増、工学系は同二%増となっており、理学系が理工の志願者増を押し上げた。
 理学系では数・情報、物理・地学、生物・生命が増加しており、特に生物・生命は募集定員が増えたこともあるが、前年比三〇%増(約七千人増)だった。工学系でもやはり生物・生命が前年比一七・二%増で、化・材料も同一〇・九%増だった。理系については、大学の出前授業などが盛んに行われるようになっており、科学技術立国という国の施策もあるだろうが、昨年は、京都大学の山中伸弥教授らのグループの万能細胞が注目されたことも影響も考えられる。
 そのほかで増加したのは、社会学の前年比五・四%増(約六千人増)、心理の同三・一%増(約二千人増)、国際の同一・七%増(約千人増)、医の同二・七%増(約千五百人増)、薬の同一・五%増(約九百人増)、看護の同三・〇%増(約七百人増)、芸術の同二・一%増(約千人増)、体育の同五・五%増(約千人増)だった。このうち国際、薬、看護、体育についてはいずれも定員増に伴う増加とみられ、受験倍率は前年より下がっている。
 振るわなかった分野は歯で、前年比一九・一%減(約千三百人減)となった。また人気だった資格取得系の教育・児童・子ども、保健などが昨年に続き今年も低迷した。
 一昨年大きく伸びた農水系は、昨年に続いて今年も志願者をわずかに減少させたが、大きな減少ではないことから一定の人気は維持していると考えられる。昨年好調だった法・政治は、前年比三・八%減(約一万千人減)となった。
 志願者数の多い大学の上位三十校は、早稲田、明治、法政、立命館、関西、日本、中央、立教、近畿、東洋、慶應義塾、東京理科、同志社、関西学院、青山学院、龍谷、福岡、専修、駒澤、明治学院、甲南、名城、京都産業、東海、芝浦工業、上智、成蹊、東京農業、中京、南山の順だった。このうち早稲田、明治は昨年同様志願者が十万人を超えた。
 首都圏ではこうした大規模大学へ受験生が集まったほか、日東駒専といわれる大学も前年比増となった。近畿圏では、難関大学が停滞する一方で、大阪学院、大阪経法大阪工業、大阪産業、四天王寺、摂南、流通科学など、中小規模校で前年比大幅増が見られた。
 早稲田は改革が定着してきたことやセンター試験の利用が行われたこと、明治は地方試験の会場を増やしたことや全学日程試験を実施したことなどにより志願者が増加したとみられる。法政は九万七千人と、明治に次ぐ志願者を集めた。
 上位三十校中、増加率が最も高かったのは中央大学の前年比二三・五%増(約一万六千人増)だった。中央は、後楽園キャンパスの理工学部に生命科学科を新設、学部横断プログラムの導入やキャリア支援など、教育改革が急ピッチで進んでいることが評価されたようだ。日本も同二〇%増(約一万五千人増)だった。
 上位校のなかで志願倍率が二十倍以上だった大学は、早稲田、明治、法政、中央、立教、芝浦工業、成蹊など。
 十五倍以上の倍率だったのは、関西、近畿、東京理科、同志社、関西学院、青山学院、明治学院、甲南、京都産業、上智、南山などだった。
 地域別の志願者数を見ると、首都圏が百四十六万七千人(うち東京百十三万九千人)、近畿圏が六十二万人、中部十八万五千人、九州が九万五千人、中国四国が三万九千人、東北二万七千人、北海道二万四千人、北関東一万七千人の順だった。志願者増が最も多かったのは首都圏で、やはり東京の四万人増だった。
 今年も、志願者のほとんどを首都圏と近畿圏が占める結果になった。
 ただ、都市圏に所在していても、特定大学に志願者が集まる傾向は今年も続いた。
 今年は景気の回復、就職事情の好転を受けて志願者が増加したが、特定大学に集中するという受験生の動きは今後も進み、大学間格差、地域格差が一層広がるとみられる。
 一方で、志願学部・系統に別の傾向も表れてきた。代々木ゼミナールの坂口本部長は、「今年の志願者の動向をみると、就職を考えて資格取得に向かう傾向は薄れ、受験生が自分の学びたい分野に入学しようとする傾向がみられた」と話している。

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