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記事2009年12月13日 2156号 (6面) 
トップインタビュー 「教育はこれでよいのか」
株式会社日本総合研究所副理事長 高橋 進氏
自己実現できる人材育成必要
私立大学は地域貢献で大きな役割を



 日本総合研究所の高橋進副理事長に、人材育成について、広い視点から語っていただいた。
  ◇
 ――日本の教育について、基本的な課題をご指摘ください。
 高橋氏 政権が民主党に代わり、内需を育てようという方向になりましたが、教育は将来の内需の柱となると考えています。従来、産業は分野ごとに縦割りで考えられていましたが、今後は縦割りではなく、@環境A農業を含めて地域経済の発展のための産業B医療・介護など健康増進のための産業C人材育成を行う教育――の四つの領域が中心となります。日本は資源を持たざる国ですから、最後のよりどころは人材です。十年、二十年後日本の経済を再生させるためには、今が人材育成の最後のチャンスだと思います。
 ――教育は人材育成という重要な役割を担っていますが。
 高橋氏 今のような視点から人材を考えてみますと、人材は今後の日本を支える最後の鍵だと思います。さまざまな問題を解決するためには、個性・多様性を大事にし、どのような環境であれ、自己実現できるような生き方のできる人材を育成することが必要ですが、今はまだ不十分です。
 例えば、教育機関に対する公財政支出の点をみると、先進国の間ではGDP(国内総生産)比は、日本は極端に低いです。職業訓練等も含めて、広い意味での人材育成を考えますと、教育にもっとお金をかけなければなりません。機関補助も大事ですが、基本的には、個人の能力を高めるための補助という考え方の流れになっていくのではないでしょうか。一九八〇年代のヨーロッパでも同じような問題に直面しています。失業給付だけではなく、職業訓練を受けさせるなど、個人の職業能力を高めるようにする必要があります。 
 ――初等教育から高等教育までの教育について、どのように思いますか。
 高橋氏 初等教育では、社会で働くということについての知識、将来職業人として生きていくための基礎を身につけさせることが大事で、キャリアについての考え方を形成させるべきではないか。高等教育での問題は、すでに指摘されていますが、特に大学生の質の低下が問題です。今後大学では、個々人の個性や能力をより伸ばしていくことが必要です。さらに、社会人になってから学び直すことがこれからますます必要になると思います。
 ――大学について、大学自体の役割についてはどうですか。
 高橋氏 大学について考えてみますと、江戸時代では私塾では人材教育を行い、優秀な人材を輩出し、私学は重要な役割を果たしていました。いま大学はさまざまな改革を行っていますが、大学が地域の再生の知恵袋になることが、地域貢献の面で、大きな役割を果たすことになると思います。地方ごとにもっと個性があっていいと思いますが、私は、その意味で地方分権が大きな鍵になると思います。
 また、大学の教員もいわば伝道師となって、地域の再生・発展に貢献できるようなことが期待されているのではないか。大学にとどまるのではなく、地域の中での教員の役割という視点が必要です。
 もう一つ、大学は留学生に学ぶ機会をもっと増やすべきだと思います。大学全体のレベルを上げるためにも国際的な交流は必要です。


従来の発想を超えることが必要


 ――学校運営について必要なことは。
 高橋氏 学校の自助努力はもちろん必要ですが、人材を輩出するという役割を持つことを考えれば、社会は学校の果たす役割を考え、公的支援の必要性を考えるのではないか。先にも述べましたが、私学は地域再生という役割を担っています。一方、国立大学は、大学のあり方を再検討し、市場原理だけではないが、大学間競争を含めて、大学の自治能力を高めていくことが必要です。
 ――高橋副理事長の考え方の基礎になっていることは。
 高橋氏 私は大学卒業後、銀行に就職し、二十代後半にイギリスに勤務していたことがありました。日本の国力が伸びている一方で、ヨーロッパの経済が落ち込んでいる時でしたが、ヨーロッパの歴史や文化の深さを感じました。グローバル社会の中で、日本を相対的に見ることができたと思います。日本は縦割りの社会でしたので、自分の視野にこだわらない発想の広さが必要なことを学びました。 
 最近、日本人は海外に行くことに消極的になっているような気がします。それでは、日本を相対的に見つけることができなくなるのではないか。それに比べると、アジア、特に中国・韓国の人々はよく海外に行きさまざまなことを学び吸収しています。また、欧米人も日本の文化的な面での良さを認識し、日本に来るようになっています。日本がもっと国際化するために交流は必要です。
 ――教育を含めて、今後の日本が目指す方向は。
 高橋氏 二十世紀は画一的な教育を行い、キャッチアップ的な人材育成が求められていました。今後は新しい解決を見いだしていくために、フロントランナー型の国家になることが必要です。日本のこれまでの知識を生かして、従来の発想を超えて人材を育成していくことが求められています。公立私立問わず、レベルアップしていかなければなりません。

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