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記事2010年7月13日 2176号 (2面) 
私大協会 地球温暖化対策に関する協議会開催
大学が目指すべき環境人材育成で提言
大学と学生が一体となった事例報告も
 日本私立大学協会(会長=大沼淳・文化女子大学理事長・学長)は七月一日、東京・市ヶ谷の私学会館で、地球温暖化対策に関する研究協議会を開いた。八十五大学から教職員ら約百二十人が参加。環境省、文部科学省の担当者が、省エネ法や各種補助事業などについて説明したほか、大学や学生の環境活動事例の紹介、講演などが行われた。
 東京都市大学環境情報学部准教授の佐藤真久氏からは「環境教育の世界的動向とその評価」と題した講演が行われた。佐藤氏は、地球環境問題は、グローバルな相互依存関係の中で生じている問題であり、グローバリゼーションと市場経済がもたらす先進国と途上国との依存関係が環境破壊を生み出していると説明。環境教育の歴史的進展や、アジア太平洋地域やアメリカの動向分析などを通して、日本の大学が目指すべき環境人材育成について提言した。
 佐藤氏は、@育成すべき環境人材像の明確化と、大学のアイデンティティとの整合性A実施目的に応じた、教職員の役割の変化B従来の「知の移転」の発想だけではなく、コミュニケーション・対話などの「知の構築」のプロセスと人間どうしの関係性への配慮が重要だという認識―が必要と指摘。「環境教育は単なる教育活動というだけではなく、社会に対し非常に大きな影響を及ぼす。大学としてどれだけ重要でどれだけ重点をおかなくてはいけないか」と、環境人材育成への各大学のさらなる取り組みを求めた。福岡工業大学財務部管財課長の萩尾政巳氏は、大学と学生が一体となった環境活動への取り組みを紹介した。同大学では、平成十二―十六年度の五年間で、環境配慮型エコキャンパス工事として、ビル設備の運転管理によりエネルギー消費量の削減を図るBEMS工事や、高効率照明など高効率エネルギー工事を実施。屋上庭園や芝生広場を整備するなどのキャンパス緑化にも取り組んでいる。学生の取り組みとしては、学内に二つの学生組織があり、キャンパス内の売店へのリユースバッグの導入、エコ学園祭の実施などの活動を行っているという。
 萩尾氏は、今後の課題として、太陽光パネルの増設や節水型トイレへの改修、ISO14001認証エリアの拡大、学生・教職員のさらなる意識啓発などを挙げ「環境活動は一過性ではなく、継続、継承し、持続可能性ある展開を図っていかなくてはならない」と述べた。
 全国青年環境連盟(エコ・リーグ)代表理事の石川世太氏は、大学生の環境活動事例やエコ・リーグの活動について紹介した。エコ・リーグは一九九四年に設立、学生を中心に、全国二百大学、約二千人が連携し、全国大学生環境活動コンテスト「ecocon」やエコ大学ランキングなどの活動を行っている。今年で八回目を迎える「ecocon」は、大学の環境サークルなど毎年約六十団体が参加し、実施準備のほとんどを学生スタッフが担う。また、昨年から始まったエコ大学ランキングは、大学の温室効果ガス削減への取り組みを調査するもので、二十近いメディアにも取り上げられ、話題になった。石川氏は、学生の環境活動と大学との連携について、@学生は大学の協力を求めているA学生の自主性や主張を重んじつつ、適度な関わりが有効B学生活動の最大の課題は引き継ぎにあり、段取りへのアドバイスが有効―などを挙げ、大学関係者の理解と協力を求めた。
 最後に、総括として、経済・環境ジャーナリストで千葉商科大学大学院客員教授の三橋規宏氏が「グリーン・リカバリー〜低炭素社会へ向けた新成長戦略〜」と題して講演を行い、温暖化対策に取り組むことが景気対策につながると訴えた。
 低炭素社会への転換のキーワードとして、経済成長と化石燃料(CO2)の「デカップリング」(密接な関係にある二つの要素を引き離すこと)を挙げ、CO2の排出量を削減する政策を通して適正な経済成長を実現することが低炭素社会へつながるとした。三橋氏は、ヨーロッパの主要国が温室効果ガスを削減しつつGDPを大幅に伸ばしているのに対し、日本では温室効果ガスが増加していると指摘。二〇二〇年までに二五%削減という目標達成には、エネルギー構成比の大幅な変更や環境税、排出量取引の導入など現状の大幅な変更が必要とし、これによってブレークスルーを伴うイノベーションが起こり、日本産業が活性化すると説明した。大学の対応としては、校舎・教室の二重窓化や太陽光・風力などの自然エネルギーの利用など計画的本格的な環境投資が必要とし、「地球温暖化対策基本法案を早期に成立させ、新しいイノベーションを起こし、低迷している景気を回復させることができる。温暖化対策に果敢に取り組むことが景気対策にも最も効果的である」と述べた。

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