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記事2015年10月13日 2354号 (1面) 
高校における政治的教養・活動で通知見直しへ
政治的教養教育 現実の政治を素材に実践的に実施
中高連などの 関係団体から意見聴取

 公職選挙法等の一部改正法が今年国会で成立して選挙権年齢が来年6月19日から18歳以上となり、来夏の参議院選挙で初めて高校3年生の一部も投票できるようになったことを受けて、文部科学省は、昭和44年に初等中等教育局長名で発出した通知「高等学校における政治的教養と政治的活動について」の見直し作業を46年ぶりに進めている。昭和44年は学生運動の嵐が吹き荒れ、東京大学の入試も中止となった年。同省は10月5日、学校関係4団体を同省に招き、同省が作成した新通知案(要旨を別掲、3面に全文)を提示、意見を聴取するとともに、弁護士や大学教授ら有識者からも意見を聴取した。




 この日、意見を述べたのは、全国都道府県教育長協議会(中井敬三会長=東京都教育長)、全国高等学校長協会(宮本久也会長=東京都立西高校長)、日本私立中学高等学校連合会(吉田晋会長=富士見丘中学・高校理事長・校長)、全国高等学校PTA連合会(佐野元彦会長)の4団体。

 また石津廣司・弁護士、田中愛治・早稲田大学政治経済学術院教授、土井真一・京都大学大学院法学研究科教授、林大介・東洋大学社会学部助教、森田洋司・鳴門教育大学特任教授の5氏からも意見を聴取した。

 意見聴取では冒頭、同省が新通知案を紹介したが、@高校における政治的教養教育は充実させること、A生徒の政治的活動等には適切な生徒指導を実施することを基本としたと説明。その上で政治的教養教育に関しては、授業で現実の具体的な政治的事象を取り扱うこと、模擬選挙や模擬議会など現実の政治を素材とした実践的な教育活動を積極的に行うことを明確化。

 その際、学習指導要領に基づいて校長を中心に学校としての指導計画を立てること、一つの結論を得るよりも結論に至るまでの冷静で理性的な議論過程が重要で、教員は個人的な主義主張を述べることを避け、公正、中立な立場での生徒の指導に留意することが必要としている。

 生徒の政治的活動等に関しては、高校がそもそも教育を目的とする施設であること等を踏まえ、高校生の政治的活動等は必要かつ合理的範囲で制約を受けるとしている。

 具体的には、学校の教育活動として、生徒が政治的活動等を行うことは、教育基本法第14条第2項に基づき禁止することが必要で、放課後や休日等であっても、学校の構内では学校施設の物的管理上支障等が生じないよう、制限または禁止することが必要としている。

 さらに放課後や休日等に、学校の構外で行われる政治的活動については、違法なもの等は禁止、学業や生活に支障があると認められる場合などは、禁止も含め適切な指導が求められる、との方針。

 同時に満18歳以上の生徒の選挙運動は尊重すること、生徒の政治的活動等は家庭の理解の下、生徒が判断して行うことに留意するよう求めている。

 こうした方針に全国都道府県教育長協議会の中井会長は、「基本的に異論はない。教師用の指導資料は大変参考になる。しかし今後判断し難いことも出てくる。制限または禁止の境目がはっきりしない。より詳細な基準を示し、説明会も開いてほしい」と語った。

 全国高等学校長協会の宮本会長は、「通知案は妥当な内容。どうしても禁止事項、留意事項に目が行ってしまうが、(通知案にある)根拠に基づいて判断する力、討論等を通じて自己の意見を正しく表明する力、他人の意見に十分耳を傾け、これを尊重するという態度とともに異なる意見を調整し合意を形成していく力の三つを身に付けさせることが重要。後ろ向きにならず、啓発・研修に工夫をしてほしい」と積極的な政治的教養教育の必要性を訴えた。

 日本私立中学高等学校連合会の吉田会長は「通知案に関してはわれわれの思いが達成した。クラスに17歳と18歳が混在し教育の仕方が難しい。『公民』を高校1年生でやっていれば、高3ではやらないことになる。政治的教養教育は非常に大事。小・中学校から実施してほしい。家庭においても主権者教育を行ってほしい。大人に18歳選挙をしっかり支えるよう訴えて」と18歳選挙権へ社会を挙げての対応の必要性を強調した。

 全国高等学校PTA連合会の佐野会長は、「(文部科学省等がまとめた)副教材を高校生は親と一緒に読んで、高校生だけではなく社会人も政治的教養を身に付けてほしい」と語った。

 4団体の意見発表後、有識者を交えて意見交換では、有識者から学校の統廃合など生徒の身近な問題で実際、請願運動などを行ってよいのかといった質問が出されたが、同省は「(そうした問題を扱う)カリキュラムと実際の政治的活動とは別」と回答。法学者からも「区別は合理的」との判断が示された。

 また生徒の政治的活動の扱い方は、国公立学校と建学の精神に基づいて独自の教育方針の私立学校では必ずしも同一ではなく、最高裁の昭和49年の判決(私立大学内で学生が政治活動をしたことで出された退学処分を是認)で明確になっているとした法学者もいた。

 懇談の最後に文科省の小松親次郎・初等中等教育局長は、「行政通知には限界があり、オールマイティではない。今後、説明会開催やQ&A発行などをいろいろ組み合わせて通知の趣旨を活かせるようにしていきたい」と語った。

 新しい通知は早ければ今月中にも関係機関等に発出される見通し。
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