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記事2020年7月3日 2515号 (1面) 
中教審教育課程部会を開催
特異な才能持つ子の指導・支援で2つの事例報告、意見交換

 中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会(部会長=天笠茂・千葉大学特任教授)の第117回会議が6月30日、対面会議とWEB会議を組み合わせる方式で開かれた。この日の議題は、(1)特定分野に特異な才能を持つ者に対する指導および支援の在り方、(2)教育課程部会等におけるこれまでの検討の経過、(3)産業教育振興法施行規則の一部改正―の3点。


 このうち(1)では、隅田学・愛媛大学教育学部教授が、日本の学校教育における科学才能教育の可能性について発表した。


 隅田教授はTIMSS2015の調査で日本の子供の理科の到達度は世界トップクラスにもかかわらず、楽しさ、得意意識、将来の自己実現に必要との考えが国際平均と比べ高くない理由として、中学校の理科の授業で問いを教員が生徒に提示し、最後は一つの結論に集約する授業の問題点を指摘。15歳段階での科学リテラシー総国力の比較では米国が世界1位、次いで中国の一部地域、3位に日本と続いており、今後、日本は人口減から十分な数の優秀な人材を確保できないので、レベルの高い子供を増やすことは一つの方法だと指摘。


 また、単純な課題は苦手だが、複雑で高度な活動は得意、時間制限のある課題が苦手で、対人関係がうまくできない、しかし想像力が豊かといった才能と学習困難を併せ持つ児童生徒が一定程度おり、学習障害を持った子供と通常児との組み合わせで双方の強みを増幅させることができること、進学高校ではなく地域の小さな学校でも、高大接続による二重単位付与、大学教員による課題研究の指導、学際性、国際性、協働性等の要素を取り入れれば教育の質的転換を十分に図れること、米国では就学前から高校3年生まで才能教育のプログラムスタンダードを出していることを挙げて、教育課程の指針をそろえることで教育の質的向上を図れる、語った。


 続いて福本理恵・東京大学先端科学技術研究センター特任助教が、自身がプロジェクトリーダーを務める異才発掘プロジェクトROCKETからみた、これからの教育の在り方について発表した。ROCKETは子供の凸凹の凹を認めつつ、才能を伸ばす個性化教育を目的とする教育プログラムで、毎年300から600人程度から応募があり、最終的に15人から30人程度のスカラ候補生を選抜していること、場所も時間割も教科書も超えて自分の興味関心のあることを探求していく学びで、究極のアクティブラーニング、アダプティブラーニングで地域と時間を超えた学びの場が個性豊かな子供を育む、とした。また公教育ともつながりを持っており、全ての子供に知識の活用と主体的な学びの場を提供もしている。


 こうした発表に委員からは「ジェンダーによる違いはあるのか。支援者の育成をどうしているのか。また経費面はどうか」「公立の義務教育の学校で教員や教育委員会はどういう関わりをしていけばいいのか」「そうした才能を見いだし、伸ばす方法に関する知識が教員に欠けている」「一律一斉一方向型の教育から脱して場所、進度、教材の個別化を積極的に進めるべきだ。しかし優秀な教員の一斉授業は有効だ」「どういう観点でスカラ候補生を選抜しているのか」などの意見や質問が出された。これに対して隅田教授は、「2011年から教員免許状更新講習の中で才能教育のテーマのものを行っており、昨年からは愛媛大学教育学部の選択科目として『才能教育論』を開講している。公教育を考えると選抜クラスより才能と学習困難を併せ持つ生徒と一緒に学ぶ相乗効果をいかに出すかがキーになっている」などと語った。


 また、福本特任助教は、才能を持つ生徒の全人的発達に関しては、「たくさんのロールモデルに出会うこと、間違ったことをした場合にはかなり強く突き返していくという個人的なフィードバックのやり取りがROCKETはメインとなっている」などと語った。


 この後、文部科学省から学力の確実な定着、個別最適化された学び、履修主義と修得主義、年齢主義と課程主義、授業時数の在り方、STEAM教育等の教科横断的な学習の推進、ICTの活用等を柱とする「教育課程部会におけるこれまでの審議経過(案)」、「義務教育9年間を見通した教科担任制の在り方に係る論点メモ(案)」、「新型コロナウイルス感染症を踏まえた、初等中等教育におけるこれからの遠隔・オンライン教育等の在り方について(検討用資料)」の要点が説明された。こうした説明に委員からは、「教員養成部会では義務教育9年間を見通した教科担任制について推進すべきとの意見があったが、やはり文科省が推進している中等教育学校との関係の中でこれをどう考えるのかという議論もあった」「個別最適化の概念をはっきりしておいた方がいい。また本日の才能教育の話は非常に魅力的だが、従来の教育課程に乗せられるか、非常に難しいところもある。スポーツや芸術、将棋といったものは学校外にシステムができていて才能を発揮してきたが、今日の探究活動はなかなか既存のシステムができていない。そのため大学やNPOがそうした場を作っているが、それを自治体や役人がどうかかわっていくか、大きなテーマとなるが、個別最適化の中に含めるのか、議論が必要だ」などの意見が聞かれた。天笠部会長は改めて同部会の審議経過案について意見をメール等で送ってほしいと各委員に要請、修正箇所を各委員に確認してもらうとともに、7月17日の新しい時代の初等中等教育の在り方特別部会で自身から審議経過を報告することを明らかにした。


 最後に、文科省から産業教育振興法施行規則(文部科学省令)の一部改正の提案があり、原案通り改正することが了承された。この改正は令和4年度からの高校新学習指導要領による実験実習の円滑な実施に向けて、そのための整備に係る補助事業に適用するもの。主な改正内容は「産業教育施設・設備基準の改正」。次回の第118回教育課程部会は7月27日午前10時から開催の予定。

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