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記事2021年3月3日 2537号 (1面) 
質確保・向上へ様々な改善具体策盛り込む
新時代迎え通信制の機能に期待も
通信制高校質確保・向上会議
通信教育実施計画(仮称)策定 国が関係法令解釈明確化

 文部科学省の「通信制高等学校の質の確保・向上に関する調査研究協力者会議」(座長=荒瀬克己・関西国際大学学長補佐)は2月25日、WEB会議方式で第7回会議を開いた。この日は、過去6回にわたる審議内容を整理した「審議のまとめ案」が委員に示され、意見交換でさまざまな意見が出されたが、最終的に審議まとめの文言の調整は荒瀬座長と事務局(文科省)に一任することが了承され、第7回をもって同会議が終了することになった。審議まとめ案は、新時代での通信制高校への期待も述べられているが、前提として通信制高校の教育の質保証の必要性や具体策などが強く打ち出されているのが特徴だ。


 審議まとめ案は、A4判で約20ページ。第1章「高等学校通信制課程を取り巻く現状」、第2章「高等学校通信教育の質保証方策」、第3章「新時代の高等学校通信教育の在り方」で構成されている。このうち第1章、第2章は、平成27年に東京地検特捜部が設置会社や親会社など関係先を捜索するという事件にまで発展した、ウイッツ青山学園高等学校(株式会社立通信制高校)での不適切な学校運営や、ほぼ全ての教育活動を民間の施設で実施しているなどの違法・不適切な学校運営実態が次々とまた最近でも(令和元年度)明らかになったことを受けて、高等学校通信教育の質保証方策の確立に大きな力点が置かれている。


 一方、最後の第3章ではICTを活用した新しい学びへの期待が盛り込まれており、ICTを活用した指導等の実践事例、多様な生徒の実情に応じたきめ細かな指導例なども紹介されている。


 また審議まとめ案の最後には、今後更なる検討が必要な論点が示されており、ICTが急速に進展する時代において、全日制・定時制・通信制課程のそれぞれの意義、役割をどのように考えるべきか、また多様な背景を抱える生徒(不登校、外国人生徒、さまざまな困難を抱える生徒等)一人一人に寄り添った指導・支援を行うための教職員体制の在り方などの論点も示している。


 審議まとめ案の中核をなす、通信制高校の質保証に関しては、問題の所在としてさまざまな問題事例等を提示(別掲参照)。そうした状況の改善に向けては、学習成果の評価方法や評価基準等を記載した体系的な計画として「通信教育実施計画」(仮称)を策定し、あらかじめ生徒や保護者に明示すること、関係法令やガイドライン等の独自の解釈による恣意的な運用を防ぎ、各学校における教育課程の編成・実施の適正化に資するよう、国において、関係法令の解釈を明確化すること、面接指導は少人数(同時に面接指導を受ける生徒数は40人を超えない範囲とする)で行うことを基幹とすること、面接指導を集中スクーリングで実施する場合は多くとも一日当たり8単位時間までを目安にすること、試験については1科目20分での実施や学期末以外の時期に行われる集中スクーリングに試験を実施することは適切ではないこと、広域通信制高校が展開するサテライト施設については、実施校と同等の教育環境が整備されるべきものであること、実施校が所轄の都道府県の区域を越えて面接指導等実施施設を設ける場合には、所轄の都道府県の定める設置認可基準のみならず、当該施設が所在する都道府県が定める設置認可基準についても十分踏まえたような仕組みを検討することを求めており、所轄の都道府県と当該施設が所在する都道府県との一層の連携・協力にも期待感を表明している。


 そのほか、通信制高校生徒の13%を占める1科目も履修していない生徒「非活動生徒」(全体では約2万7千人に上る)については、具体的な対応策を示す必要性も指摘している。


ICT活用の実践例を提示


新時代の高等学校通信教育の在り方を示した第3章では、ICTを活用した新しい学びへの期待、高等学校として有する多面的な役割の再認識、通信教育の特長を生かした今後の学びの在り方を取り上げており、このうちICTを活用した実践事例として、「面接指導の場面において、自らの考えや意見を口頭で発表することに困り感のある生徒であっても、情報端末にそれらを記入し、教師・生徒間で共有を図ることで、多様な他者と考えや意見を交換することができるようになるとともに、他者の意見を踏まえた上での自身の学びの振り返りにつなげることができた事例」などが示されている。また高校として有する多面的な役割の再認識では、「毎日登校して教育を受けることを希望するものの、不登校経験から毎日登校が困難な生徒について、まずは通信制課程に在籍して週1回の登校を通じて学校に慣れさせた上で、定通併修制度を活用して、定時制課程の科目も取り入れながら、最終的には毎日登校して教育を受ける定時制課程に転籍することを目指し、生徒のペースに応じて徐々にステップアップを図ることとする事例」などが紹介されている。


通信教育の特長を生かした今後の学びの在り方に関しては、新高等学校学習指導要領の着実な実施、その中ではペーパーテストにとどまらない、論述やリポートの作成、発表、グループでの話し合い、作品の制作等といった多様な活動に取り組ませるパフォーマンス評価を取り入れることも求めている。また各学校に対しては、育成を目指す資質・能力について全教職員で共通認識を図るとともに、こうした資質・能力をバランスよく育んでいくために、新高等学校学習指導要領の趣旨および内容を踏まえ、学習指導および学習評価の改善を図っていくことが重要だと指摘している。


(1)問題の所在


(例)教育課程の編成・実施、指導体制等に関する課題 


・ 年間指導計画において添削指導の提出期限の定めがないため、試験前にまとめて添削指導が実施されている事例(平成29年点検調査)


・ 添削指導の進捗状況が不十分であったり、面接指導を全く受けていない状態で期末試験を受けさせていたりする事例(平成29年点検調査)


・ 野外活動と称して自然散策により「生物基礎」や「化学基礎」等の面接指導を受けたこととし、高等学校学習指導要領に定められた目標と内容を踏まえた高等学校教育としての水準の確保が疑わしい事例(平成30年点検調査)


・ 特別活動を年間指導計画等に位置付けておらず、高等学校学習指導要領に定める時間数の指導がなされていなかった事例(平成30年点検調査)


・ 生徒が独自に行ったアルバイトについて、その目的・内容にかかわらず特別活動の時間としてカウントすることとされていた事例(平成30年点検調査)


・ 面接指導と試験とはその役割が異なるにもかかわらず、試験の実施を面接指導の時間数としてカウントすることとされていた事例(平成30年点検調査)


・ 多様なメディアを利用して行う学習の成果物に対する学習評価について、「合格」「再提出」のみとなっていた事例(平成30年点検調査)


・ 100人を超える生徒に対し、教師が1名で面接指導を実施する事例(平成30年点検調査)


・ 4泊5日の集中スクーリングにおいて、8時10分から1限目がはじまり、21時30分に13限目が終わるという、1日に50分の面接指導を13コマも実施することとしている事例(平成30年点検調査)


・ 6月に4泊5日の集中スクーリングを実施し、年間の添削指導が全て終えていないにもかかわらず、年間の面接指導及び試験を全て行うこととしている事例(平成31年点検調査) 


(例)サテライト施設での施設・設備、連携協力体制、学校運営改善等に関する課題 


・ サテライト施設での面接指導において、施設・設備面での制約等から理科や家庭等の教科における実験・実習が十分に行われていないおそれがある事例(平成29年点検調査)


・ サテライト施設において、実験・実習や体育の面接指導を行うための施設・設備が不十分である事例(平成29年点検調査)


・ 法令上義務付けられている自己評価の実施及び公表がなされていない事例(平成30年点検調査)


・ サテライト施設に所属する生徒への面接指導を当該施設にサテライト施設任せとしている事例(令和元年点検調査)


・ サテライト施設において、担当教科・科目の教師によらない指導又は学習支援の時間を、当該教科・科目の面接指導の時間数としてカウントする事例


(令和元年点検調査) 


     
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