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記事2021年4月23日 2542号 (1面) 
大学入試センター将来構想WTが議論まとめ
センター存続に強い危機感
国の支援や現行業務の見直しなど提言

 独立行政法人大学入試センター(山本廣基理事長)の運営審議会はこのほど、同センターの将来構想に関する提言をまとめた。これは同審議会の下に設置された「将来構想ワーキングチーム」がセンターの経営改善、大学入学者選抜に係る中長期的課題におけるセンターや大学入学共通テストの役割等について検討し、議論した結果を運営審議会の提言として4月9日に公表したもの。18歳人口の減少や「大学全入時代」の到来による共通テストの志願者の減少、国からの運営費交付金はなく、自己収入の約9割を受験者からの検定料収入に依存し、新たな事業の発案や実施が制約されている中で、同センター等の将来に強い危機感をにじませた提言となっており、喫緊に収支の改善を図ることと国からの公的支援、投資的資金の調達、剰余金の活用や現行業務の見直し、既存資産を活用した新たな事業の可能性の検討等を提言している。


 この議論のまとめは、令和元年3月、同センターの運営審議会が経営上の課題について検討の必要性を提案したのを受け、大学や高校関係者の意見も聞くため令和2年6月に運営審議会の下に「将来構想ワーキングチーム」が設置され、検討していたもの。議論のまとめでは、初めに大学入試センターと利用大学が実施する共通試験は、受験生の大学入学者選抜の合否に関わる極めて重要な学力試験とした上で、大学入学者選抜を巡る社会状況が大きく変化し、従来の枠組みでは十分に対応できない課題が生じているとしている。


 その課題の一つがセンター試験を受験するものの、試験の成績をどの大学の出願にも利用しない、いわゆる「成績未利用者」の増加(平成21年以降、高校での学習の総括等を目的に受験しているとの分析あり)だとしている。成績未利用者は約12万人に上る(新卒受験者全体の28・8%)。総合型選抜や学校推薦型選抜の募集定員の増加もそうした課題の一つだ。


 また、喫緊の課題として現状の財政構造のままでは共通テストの継続的・安定的実施が困難になることは明らかとしている。現行の大学入学共通テストでは6教科30科目のテストを行っており、本試験・追試験の2セットを準備するため問題冊子等の印刷・保管・輸送等は膨大になり、加えて試験問題の作成に毎年、各大学から派遣される約430人の大学教員や学識経験者が問題作成委員を務め、年間約40〜50日程度同センターで業務に当たっており、そのほか試験問題を点検する大学教員等を加えると年間約600人の大学教員等が問題作成に関わっている。別表に掲げたのが、同センターの令和2年度予算における試験実施経費97億9200万円の内訳で、問題冊子印刷・輸送等(リスニングICプレーヤーを含む)が41億800万円、試験問題作成が6億8700万円、試験会場運営等(大学に配分する試験実施経費)が33億7千万円、情報処理・システム開発等が8億3400万円などとなっている。大学入学共通テストに関して、志願者減によるさらなる収入源の中で検定料(2教科以下の受験の場合1万2千円、3教科以上の場合1万8千円)の引上げ等を行わない場合、令和3〜7年度の毎年十数億円の赤字が新たに発生するとしている。


 大学入試センターの経費削減は限界に達していると指摘、大学に配分する試験実施経費について、実施方法・体制の質の維持・向上を前提に配分額の圧縮を図ることが適当とし、合理化や配分基準の見直しを求めている。また国からの安定的な公的支援、投資的資金の調達(長期借り入れや債券発行はできない)、剰余金の活用(活用の条件を満たすことは事実上難しい)等の検討の必要性を指摘している。


 そうした上で、大学入試センターが今後目指すべき方向性としては、共通テストの志願者の一層の減少、大学等においては総合型選抜等で選抜よりマッチングに重きを置いている、これまで当然と思われてきた同一期日・同一問題・試験場参集・一斉実施のリスクや総合型選抜・学校推薦型選抜のオンライン面接における課題の顕在化、学習意欲や学力の担保がより重要な課題等となっている環境の変化の中で、共通テストについてはその位置付けを再検討して、これまでの役割の軽減(出題教科・科目等のスリム化)、将来的には高校の参画を得ながら、大学教育を受ける上で必要な学力の到達度を確認する試験などとして活用する方向に段階的に移行することや、試験文化の変革などを挙げている。

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