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記事2021年7月3日 2549号 (1面) 
1年半の審議経て「提言」をとりまとめ
大学入試のあり方に関する検討会議
記述式出題や総合的英語力評価
大学の個別入試に期待

 文部科学省の「大学入試のあり方に関する検討会議」(三島良直座長=国立研究開発法人日本医療研究開発機構理事長)は6月30日、WEB会議方式で第28回会議を開き、審議のまとめとなる「提言」案について検討した。委員からは文言の修正などさまざまな意見が出されたが、最終的に提言案について委員から出された意見に沿って修正すること、具体的な修正は座長に一任することで提言として取りまとめることが了承された。修文後、萩生田光一文部科学大臣に提出される。


 文科省が令和元年11月と12月に高大接続改革の中の大学入学者選抜の改革の目玉だった「大学入試英語成績提供システム」と「大学入学共通テストにおける国語・数学の記述式問題」の導入見送りを表明したのを受けて、令和2年1月15日に始まった同検討会議はこれまでに例がないほどに精力的に調査や意見聴取、審議等を行ってきたが、その約1年半の審議がタイムリミットを迎え終了した。


 同会議は委員による審議にとどまらず、外部有識者からのヒアリング(高校生も含め39人から聴取)、初の取り組みとなる選抜区分(4万8843選抜区分)ごとの詳細な大学入学者選抜の実態調査、全大学・学部へのアンケート結果(回収数719大学、2338学部)、国民からのWEBによる意見募集(669件)も参考にして、導入見送りに至った問題点と、今後の大学入学共通テストや個別大学での入学者選抜等の在り方などを検討してきた。


 提言案は、「本検討会議の設置の経緯と審議の経過」に始まり、第1章「大学入学者選抜のあり方と改善の方向性」、第2章「記述式問題の出題のあり方」、第3章「総合的な英語力の育成・評価のあり方」、第4章「地理的・経済的事情、障害のある受験者への合理的配慮等への対応」、第5章「ウィズコロナ・ポストコロナ時代の大学入学者選抜」の構成。


 このうち今回の検討の柱の一つである記述式問題の出題に関しては、50万人以上が同一日・同一時刻に受験し、短期間で成績を各大学に提供しなければならない大学入学共通テストにおいて記述式問題の導入実現は困難と言わざるを得ない、と指摘。その上でマーク式問題の中で知識の理解の質を問う問題や思考力・判断力・表現力等を発揮して解くことが求められる問題を重視した出題を一層工夫していくことが適切としている。


その一方で各大学の個別試験では一律に義務付けを行うことは適当ではないとした上で記述式問題の出題は推奨されるべきと考えるとし、既に相当程度の記述式問題が出題されている国公立大学ではより高度な記述式問題を出題する方向で改善を図ることを期待。


 一方、志願者数が多く歩留まり率が低いなどの背景を抱える私立大学に関しては、一部の選抜区分で出題することや、一般選抜のみならず、総合型選抜・学校推薦型選抜の活用を含め、効率的な採点・出題の工夫により出題増に努める方向で改善を図ることに期待感を表明している。


 もう一つの柱である英語4技能の評価については、大学入試センターによる英語4技能試験の開発は、質の高い採点者の確保、面接官・試験室の確保等の問題があり困難だと指摘。その上で大学入学共通テストでの英語の試験形態については引き続きマーク式問題とICプレーヤーを使用して実施する方式で、出題内容としては読む、聞く能力を中心としつつも話す、書くも含めたコミュニケーション力を支える基盤となる知識等も評価するなど、高校までの教育で培った総合的な英語力を可能な限り評価する方向で不断の改善を図っていくことが望ましいとしている。


 また各大学の個別試験でも総合的な英語力を評価することには実施上の課題が大きく、資格・検定試験の活用が現実的な選択肢となると指摘。


 その実施に関しては国が決める一律の方法によるのではなく、各大学がそれぞれの入学者受け入れ方針に基づいて判断し、分かりやすく受験生に提示することが適当としている。


 その際、地理的・経済的事情への配慮から、同じ学部で資格・検定試験のスコアを利用しない選抜区分を設ける、資格・検定試験と個別学力検査のいずれか成績の良い方を選択的に使える等の措置の設定が望まれる、としている。


 また総合型選抜・学校推薦型選抜は時間をかけた丁寧な評価が可能であり、総合的な英語力の評価とも親和性があると指摘。資格・検定試験の一層の活用が適当としている。加えて国の主導により資格・検定実施団体と高校関係者等による恒常的な協議体を設け、さまざまな実施上の配慮について議論することが有益としている。


  ウィズコロナ・ポストコロナ時代の大学入学者選抜については、政府の教育再生実行会議で提案された秋季入学については総合型選抜・学校推薦型選抜、社会人選抜、外国人留学生選抜など一般選抜とは異なる多様な選抜基準・方法を中心に推進することを提言。また求める人材の特性に応じた総合型選抜・学校推薦型選抜の推進、電子出願やオンライン面接、CBT化の推進など大学入学者選抜におけるデジタル化の推進等を提案。このほか記述式問題の出題や総合的な英語力の育成・評価、文理融合等の観点からの出題科目の見直しなどの優れた取り組みに既存の運営交付金や私学助成の枠組みの中でインセンティブを付与すること、低所得層の受験料の減免等についても各大学に検討を求めることが記述されているが、委員からは、支援スキームがはっきりしないうちの先行実施を懸念する意見やインセンティブ付与の以前に、好事例の共有を先にすべきだとの意見、ペナルティーのような色彩が生じないようにしてほしいといった意見も聞かれた。


  今後、大学入試のあり方についての審議は今年5月14日に常設化された「大学入学者選抜協議会」(川嶋太津夫座長=大阪大学高等教育・入試研究センター長・特任教授)に引き継がれるが、同協議会は5月26日に第1回を、6月2日には第2回を、6月7〜10日(書面審議)に第3回を開いており、毎年度の大学入学者選抜の実施方法・日程や大学入学共通テストに関する事項のほか、中長期的かつ継続的な対応が必要となる事項等について協議する。


三島座長

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